人間というものがめんどくさいのは知っているが相手にする俺の気持ちも考えろ
目だけを逸らそうとしているが、顎を固定しているため意味はない。
こういう奴は、今回の出来事を大きく捉えていない。
また同じことを繰り返す。
自分のために。
「お前は今までも、言われたまま動き、言われたまま働いてきたんだろう」
「そ、そんなことは……」
「それで、言われたまま人を傷つけ、言われるがままに人を殺すんだろ」
「そんなことしませんよ!!」
口先だけの言葉は、いらない。
「しないと言い切れないだろ。現にお前は、こいつらでは攻略不可能なダンジョンに行かせていた。今回は奇跡的に無事だったかもしれない。だが、次はどうなるかわからん。死んだら、お前がこいつらを殺したことになる。それを一生背負い続けるんだ。言われたからと自分に言い訳をし、それでも忘れきれず苦しみ続けることになるぞ。お前は、それでいいのか?」
答える時間を与えると、受付嬢は震える口元をかすかに動かした。
「私のせいじゃ……ありません」
「すぐに答えられない時点で、お前はそう思っていない」
また口を閉ざした。
ここからは、交渉だ。
「それで、だ。今のままのお前でも、出来ることを提案してやるよ」
否定しきれずにいる女に笑顔を向けると、ようやく目が合った。
疑うような瞳だが、その奥にかすかな希望がある。
「疑うな、簡単な話だ。人の言いなりで生きていくなら、今度は俺の言いなりにならないか?」
驚いているが、今のお前に他の選択肢はないだろう。
俺も利用したい。お互い様だ。
「な、何を言っているんですか。私は貴方の言いなりになんて……」
「なら、いい。ただ、責任を他人に押し付けても、自分の罪からは逃げられない」
どんな理由があろうと、罪は罪だ。
「今のようなことを続けて、そのうち誰かが死んだら、お前はどうする? 高みの見物でもするのか?」
「っ……ひどい……」
「酷いのはお前の行いと、それを許しているギルドだ」
沈黙。
もう認めているようなものだ。
どれだけ逃げ道を作っても、事実は変わらない。
俯く受付嬢から、震えた声が漏れる。
「……どうすれば、いいんですか」
「あ? ああ、俺の言いなりになる気になったのか?」
「話を聞くだけです」
そこは慎重だな。
そういうところは、いいな。
「まず、お前に命令した奴を教えろ。それと、報酬は倍で用意しろ」
「え、報酬? なぜ……」
「当然だろ。面倒ごとを押し付けて自分は手を汚さない。そういう奴ほど持っているんだよ、これをな」
人差し指と親指で丸を作る。
受付嬢は目を丸くした。
「で、教えるのか、教えないのか?」
「……こちらへ」
アルカとリヒトを呼び、女の後ろをついていく。
※
通されたのは、カウンター横の扉の奥。
スタッフルームのような場所だ。
中央にテーブルと椅子が四脚。
端には白紙のホワイトボード。
特に変わったものはない。
「椅子にお座りください。ここなら誰にも聞かれません」
「おー……」
違和感はあるが、今はいい。
「では手短に。誰の命令だ?」
「……この村の村長です」
村長?
左右を見ると、アルカが目を逸らしている。
リヒトも、なんかアルカをチラチラ見ている。
なにかやらかしたな、あいつ。
「どんな命令だった?」
「絶対に攻略できないダンジョンに行かせろ、と……」
憎しみのこもった命令だ。
「なんで……」と、リヒトが呟く。
「理由を聞こうとすると、村にいられなくすると……」
相当脅されたらしい。
つまり――
「お前、村長に何をした?」
アルカの肩が震える。
「怖がらなくていい。何があったか教えてくれ」
「……俺は悪くない。悪くないんだ」
話を聞いていないな。
「俺は善悪を聞いているんじゃない。お前の行動を聞いている」
アルカとリヒトが目を見開く。
「質問を理解し、簡潔に答えろ」
「……簡潔には無理だ。それでもいいか?」
胸の前で指をいじるな。腹が立つ。
「…………………………うん」
「ため、長っ!!」
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