7日目 過去に生きる
路線階段を登り終えると、大きな門が待ち構えていた。
人間は凄い。あんなに引き篭もっていたせいで身体が重いというのに、こういう時は限界を越えられる。
門を開けると、そこにはノルマとミライがいた。奥に偉そうに腰を掛けている中年の男はこちらを見て笑っている。
「もう分かっている。お前が元凶なんだよな!」
俺は中年の男に指を指してそう言った。
そう、この男こそが俺を無限ループに閉じ込め、世界を滅ぼそうとする張本人。
「ほほう? どうやってだか知りませんが、記憶がある様ですね……」
いやらしい笑みを浮かべ、終いには拍手なんてし始める。
俺はその態度に心底腹が立った。
「弘祐!」
ミライは腕枷を付けられ、ノルマに連行されている様な形になっている。
「ミライ、全部思い出したよ。直ぐに終わらせるから、一緒に帰ろう」
そう言うと、ミライは嬉しそうにコクリと頷いた。
「はぁ? ここまで来ておいて帰られる訳ねぇだろ。馬鹿か?」
ノルマは俺に銃を向ける。俺は構わずノルマの方へと歩み寄った。
「お、おい! 打つぞコラ!」
「お前は本当は良い奴なんだよ」
「お前に何が分かる!」
「思い出せ! ノルマ!」
すると、ノルマは手から銃を落とし、頭を抱えて悶え始めた。
「俺は……兄を……うあぁ!」
ノルマは涙を流す。全てを思い出した様だ。
そう、俺やミライ達はこの男によって記憶を消されたのだ。そして、ミライやノルマに禁忌として存在を消された感情を消す手術『ロボトミー手術』を施した。
そのままノルマは気絶してしまった。ミライが倒れ込んだノルマを支える。
「お前だけは絶対……許さない!」
「俺はなぁ? お前の様な出来損ないの過去の人間を消し去り、今を生きる素晴らしい人間だけの世界を築きたいだけなんだよ!」
「出来損ない……確かにそうだ。お前よりかは劣っているかもしれない。だけどな! お前よりも人間としては上だ!」
「な、何を!? 過去の人間のくせにふざけた口を……!」
男はノルマの持っていた銃を拾い、こちらに向ける。目の焦点が合っていないと、完全に我を忘れている。
バンッ!
その音がした時には俺は倒れていて、目の前にはミライが立っていた。
ミライの胸からは大量の血が出ている。
「ミライ! しっかりしろ! おい、嘘だろ!!」
「弘祐……。私、貴方が好き……」
「俺も好きだ! だからもう喋るな!」
嫌だ、ミライが死ぬなんて。
震えが止まらない。自分が死ぬ事よりも怖い。
「また……駄目だった、ね……」
「諦めるなよ! 俺達は何度だって……」
こんな時だというのにあの言葉が浮かんで、ある決意が芽生えた。
「何度だって、君に会いに行く」
「うん……!」
その笑顔はとても綺麗で、今までの死んだ目をしたミライは何処には見当たらない。美しいものだった。
「未来で待ってろ。直ぐに行く」
俺は立ち上がり、身体を大きく広げた。
「何の真似だ? 良いだろう、殺してやるよ」
俺は見事に撃ち抜かれた。ミライの横に倒れる。
痛えよ、夏より身体が熱いし。視界が狭まっていく。
また最初からだ。
それでも、何度だってやってやる。
俺は意識を手放した。
『残りーーー7日』
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太陽は今日も輝きを放っている。
こんな暑い日にクーラーが潰れているなんて、生き地獄みたいなものだ。
つまらない日々も相まって、最悪な気分だ。だというのに、今日は何かが起こる気がしている。
俺は長い夢でも見ていた気がする。とうとう退屈で頭がおかしくなってしまった様だ。
急に思い出す。物入れには扇風機が入っている事を。
段ボールに入った扇風機を取り出し、コンセントを付ける。中古品だが、何とか風は吹いてくれた。
懐かしい気分になり、あの言葉を言ってみたくなった。
「我々は~」
あれ、前にもこんな事あった様なーーー
「未来人だ」