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救済のレクイエム ―俺の剣は、偽りの光の下で―  作者: 虎徹
【第一幕:偽りの英雄譚】

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第3話 残火に問う、救済(ひかり)の在処

硝煙と、焦げ付いた肉の臭いが鼻腔を刺す。

かつて堅牢を誇った「アイギス砦」は、今や音を立てて崩れ落ちる巨大な火葬場へと変じ果てていた。


「……あ、が……ああ……っ」


足元で、下半身を焼き切られた魔族の兵士が這いずり、絶望に濡れた瞳を勇者へと向ける。カイルは、その視線に一欠片の憐憫も抱かなかった。黄金に輝く聖剣『エクス・ステラ』を無造作に振り下ろし、断末魔ごと沈黙させる。


「一人だ」


カイルは、低く、掠れた声で呟いた。


「こいつらを一人殺せば、一歩近づく。あいつが笑う、あの日常に」


その瞳には、かつて妹を案じていた慈しみなど微塵も残っていない。あるのは、目的のためだけに燃え盛る剥き出しの狂気だ。

彼にとって、眼前の魔族たちは「命」ではない。歩を救うための対価として支払われるべき「燃料」に過ぎなかった。カイルが剣を振るうたびに、聖なる熱光が炸裂し、逃げ惑う魔族たちを塵へと変えていく。


「見なさい、勇者様。これぞ女神が望まれた救済ひかりの結末です」


背後から、朗々とした、しかし空虚な声が響いた。

神殿騎士団が送り込んだ聖女、エルゼは、血の海に沈む砦の中を、純白の裾も汚さずに歩み寄ってくる。彼女は祈りを捧げるような仕草で、カイルの背中を、そして彼が築き上げた屍の山を称賛した。


「貴方のその無慈悲なる刃が、不浄なる魔を祓い、世界を白日の下に導く。なんと美しき救済なのでしょう」


カイルは応えなかった。エルゼの称賛も、血塗られた正義も、今の彼には砂を噛むような退屈でしかなかった。ただ、エルゼが懐から取り出した魔鏡――そこに映る、病室で穏やかに眠る「彼女」の姿だけが、彼の壊れかけた自我を辛うじて繋ぎ止めている。


鏡の中の彼女は、まだ何も知らない。

自分のために、兄がどれほど無残な虐殺者へと成り果てたかを。

屍で築く救済ひかり。その眩しさが、彼女の命を静かに追い詰めていくという、皮肉な真実に。


一方、凍てつく北の最果て。

『氷の魔王』――ルナレスは、漆黒の玉座を立ち、帰還したわずかな生存者たちを迎え入れていた。


「……ごめんなさい。私が、間に合わなかったばかりに」


ルナレスは、アイギス砦から命からがら逃げ延びた子供の魔族を、その氷の翼で包み込むように抱きしめた。子供は、自分たちの親や仲間を焼き尽くした「黄金の光」への恐怖を震えながら訴え続ける。


ルナレスの深紅の瞳に、静かな決意が宿る。

彼女の記憶の底には、今も「温かな影」が揺れている。吹雪の夜、凍える自分を誰よりも強く、壊れそうなほどに抱きしめてくれた、不器用で、けれど絶対的な安心感をくれた背中の朧気な記憶。


名前も顔も、今は思い出せない。

けれど、その温もりこそが、彼女が「化け物」と呼ばれようとも民を守り抜こうとする唯一の根拠だった。


(……あの方なら、きっとこう言うわ。誰かを救うことに、理由なんていらないって)


ルナレスは、闇の神(と信じている存在)から授かった魔杖を強く握りしめた。


「ルナレス様、人間の軍勢……『勇者』を戴く本隊が、この魔王都へと向けて進軍を開始しました」


「……わかっているわ」


彼女は冷徹な魔力を全身に纏わせ、氷の玉座を後にする。

虐げられ、追いつめられた魔族の希望を背負う彼女に、もう迷いはなかった。


天界の特等席。

殺意を研ぎ澄ませる勇者と、存続を誓う魔王の様子を鏡越しに覗いていた女神ステラの唇が、悦楽に歪んだ。


「素晴らしい。これほど、最高の供物おもちゃになるとは思わなかったわ。勇者カイル、いや一ノ瀬駆、あなたが最後に本当の真実にたどり着いたとき、どんな顔をするのかしら!」


女神の指先が、鏡の中のカイルとルナレスの像を、愛おしげに、そして残酷になぞる。

光の勇者が捧げる「殺意」と、魔王が捧げる「悲哀」。その二つの力が戦場で激突し、真実という名の絶望が白日の下に晒されるその時。


偽りの救済を迎える。


AIの文章が含まれています。

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