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大捕り物

一週間後、「週刊 TRUTH」の最新号が発売された。

なんと、驚くべき事に「疑惑の三姉妹 連続去勢自殺事件に関与か」という見出しが表紙に躍っていた。

山本はびっくりして、「神原、これはいくら何でもヤバいだろ!」と咳き込んで電話した。

てっきり神原が手をまわして別府に書かせたと思ったのだ。

しかし神原は「俺は何にも知らねえよ。どうせ奴がいつものように俺らを付け回して、勝手に突き止めたんだろうよ」とすまし顔だ。

神原が二人と中村医院を訪れたあの日、別府が物陰から覗いている事は先刻承知の事だった。

もし神原が、別府の行動を予測して、わざと二人を誘って医院を訪ねたのだとしても、それを裏付ける証拠などどこにもないのだ。

とはいえ、これは別府にとって危ない賭けだ。下手をすると三姉妹から名誉棄損で訴えられるかもしれない。

…まあ、別府はこれまでから、こういう危ない橋をたくさん渡ってきた記者なわけだが。

「週刊 TRUTH」の記事に書かれた内容を簡単に要約すると…

確証はないが、極めて疑わしい三姉妹がいる。医療関係に従事する三人は、卑劣な男性による女性へのセクハラに敏感で、その行き過ぎた正義感で現代の仕置き人を気取っているようである。

というようなものだった。

無論、名前も場所も伏せてはいるが、ヒントになるキーワードが多すぎるので、調べれば簡単に特定出来そうである。

その点も含め、危険だなあ…と山本は不安に思った。


吉田は、いつの間にか山本以上にこの件に入れ込んでいた。

今日も中村医院の入り口付近を、向かい側の角の電信柱の影から見張っていた。

吉田は知らなかったが、そこは別府が三人を見張っていたのと同じ場所だった。

すると、フラフラと一人のやつれた女性が医院に入っていった。

しばらく経って、中で叫び声がした。

急いで吉田が駆けつけると、先程の女性が、血の付いた包丁を持って呆然と立ち尽くしていた。その前には、受付で薬剤師の次女、中村千秋が腕から血を流して壁に寄りかかっている。

吉田はすぐに、現行犯で女性を取り押さえた。

千秋は姉の五月によって、止血処置がなされ、軽傷で済んだ。


警察の取り調べ室で、山本の前に座っているのは、朝倉祥子であった。

祥子は「週刊 TRUTH」の最新号を読み、息子の無念を晴らす事だけを生き甲斐とする母の執念で、中村医院を突き止め、犯行に及んだのであった。


「とにかくこれで、家宅捜索礼状を持って、中村医院を調べることができるようになったよ」

山本は、上手く利用された口惜しさを若干滲ませながらも、神原の手腕を褒めた。

「別府とハサミも使いようさ。毒にもなれば薬にもなる男だよ」

神原は得意気に鼻を擦った。


家宅捜索の結果、三姉妹は逮捕された。

物証はすでに、三姉妹によって処分されていたが、洗面所の側壁に立てかけてあった白い台(おそらく手術台)の片隅に変色が見られ、そこから血液反応が数か所出て、それらの一部が時田と朝倉のDNAと一致したのだった。

手術台という事で、多くの血液がその上で流されては拭きとられており、その中の二人分の僅かな血液ではあったし、念入りに拭きとり掃除も怠らなかったので、バレないとでも考えたのだろうか。いずれにせよ、大きな物ではあるし、処分に困ったのかもしれない。

しかも台には同色の白いビニールカバーがピッタリと被せられていた為、よく見ないとカバーを剥がすという所まで気が付かない可能性もあった。

丁寧な念入りの捜査が功を奏した形だった。

また、神原が先日持ち帰った合成樹脂のカバンの中から、金属製の野球ボールほどのサイズの四角い印鑑のような焼きごてが二個見つかっていた。

それらは、「耳」と「心」という文字だった。

明らかにオリジナルのものだ。何処で作ったのかは、いずれ判るだろう。

今回の捜査に合わせて、それらの焼きごても鑑識に調べてもらう事が出来、中村五月、千秋の指紋が検出された。

また剣持にも再度、かなり無理やりではあったが依頼に応じてもらい、臀部と焼きごてとの照合がなされ、犯行に使われたものと同一と判定された。

三姉妹はそれぞれ別室での取り調べに応じたが、最終的には三人の話は概ね合致し、二名の男性の去勢の他にも、いくつかの犯行が明らかになった。その中には、もちろん依頼主の南条芳江の息子と、剣持靖男への焼き印も含まれていた。


翌週の「週刊 TRUTH」では、全ての真相が明かされることとなった。

その取材で、神原は別府と共に留置場にいる中村五月に会いに行った。


「あんたたちのお蔭で、これから先、卑劣な痴漢が野放しになったわよ」

開口一番、五月が怒りを込めた口調で言った。

「だからといって、焼き印や去勢を自己判断でやっていいわけじゃない」

神原が言い返した。

「あんたらは、男だから! 所詮男には女の気持ちはわからないわよ。あの子達がどんなに恐い思いをしたか、どんなに辛かったか、あんたらにはわからない!」

「そうかもしれない。だからといって、あなた方三姉妹のやったことが許される訳じゃないよ。結果的に二人の男性が死んでいるんだしね」

「あんな奴ら、死んで当然よ。せっかく更生のチャンスを与えてやったのに、性懲りもなくまた痴漢を繰り返したんだから」

「それは違うだろ! 人間が、他者の事を死んで当然とか、言っていいわけない。あんた、神様のつもりか!」

神原は久々に激高した。

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