74 よく似た2人
ゼールの屋敷に戻り、お茶をすることになった。
「・・・せっかくだし、もっと景色のいい場所でお茶をしようか。」
「いいアイディアですね!」
「では、ピクニック仕様に致しましょう。」
ゼールの命令で、バスケットにまとめられたティーセットが用意される。別に机ごと移動できるから、このような用意をする必要はないが。移動魔法を使うとは、あえて言っていないので、察してくれたのだろう。
「準備はできた?」
「はい。」
「じゃ、行こうか。移動魔法。」
バスケットを持つルトとゼールの腕に触れて、移動魔法を使った。ゼールはわかっていたのだろう、特に驚くことはなかったが、ルトは少し驚いた様子だった。
私たちが移動した場所は、ゼールの屋敷だ。今までいたクリュエルの屋敷ではなく、ウォームにある屋敷の人払いがされている部屋。
「・・・え、まさかここで・・・」
「いや、別に他の場所でもいいけど・・・とりあえずあの場所から移動魔法で移動する必要があったの。」
「監視されていましたからね。私はここでお茶をしてもいいですよ。サオリさんを待っている間は、四六時中ここにいましたから、今更です。」
「ルトは、鼻がいいから嫌だよね。・・・なら、森がいいかな。」
再度移動魔法を使い、アルクとリテと共に来たことがある森に移動した。周囲に魔物や人の気配がないことを確認し、近くの切り株に座る。
森の中にある、休憩所のような場所。屋根があったりするわけではないが、座れるような切り株があったり、人が使っていることがわかる、焚火の跡などがある場所だ。
「自然の中でお茶をするっていうのも、新鮮でいいよね。」
「そうですね!では、準備いたします。」
「よろしく。そういえば、ずっと聞きたかったんだけど、ゼールは何でクリュエルにいたの?」
「放置プレイは趣味ではありませんので。」
「はい?」
「サオリさんを一目見るためですよ。主人を待つ犬のように待っていましたが、一向に姿を見せていただけなかったので・・・まさか、記憶喪失になっているとは思いませんでした。」
「・・・私も、まさか2度も記憶を失うなんて、思ってもみなかった。」
「それはそうでしょう。ところで、先ほど監視していた者は、王女の護衛ではないですか?」
「あー、そうみたいだね。オブルっていったかな?私の護衛を頼まれているって言ってたけど、あの時限定じゃなかったのかな。」
「あの時?」
「ウォーム王国を出る直前に寄った町の領主に、私一人だけ招かれて・・・その時にプティが護衛としてつけてくれたらしいよ。」
「あぁ、あの領主ですか。それは、面倒ごとに巻き込まれたのでしょうね。」
「うん。領主の奴隷から助けを求められたり、領主に奴隷にされそうになったり・・・あの時はちょっと危なかったから、護衛を付けてくれて助かったよ。」
「危なかった?」
「・・・まぁ、牢屋でのトラウマがちょっとね。さっき話したやつだよ。」
「「殺してやりましょう。」」
何、声をそろえて言っているのだろう。2人して真顔で声を低くして言うもんだから、少し驚いた。
「そのような身の程知らず、生きていること自体が間違いです。間違いを正して差し上げましょう。」
「生まれたこと自体が間違いですね。そのような者を生かし続けた者たちも同罪です。一族郎党葬って差し上げましょう。」
「・・・とりあえず、それは魔王を倒した後にしてくれる?私が記憶喪失になったせいで、時間が無いから、別のことにかまっている暇はないの。」
「わかりました。では、僕は何をいたしましょうか?」
「私も協力させてください。私の財、権力、身体。すべてあなたのためにあります。必ずや、サオリさんの願いを叶えましょう。」
「僕の方こそ、すべてサオリ様のものです。奴隷の証はなくても、僕はあなたのものです。どうか、僕をあなたの役に立たせてください。」
「2人共、ありがとう。」
張り合うように、私に協力することを誓う2人。外見は全く似ていないが、時々兄弟なのではないかと思うほど、2人が似ていると感じることがある。
献身的なところとか、丁寧な口調なところとか。危険な感じがするところとか。
「お茶の用意ができました。どうぞ、サオリ様。」
「ありがとう。さっそく、本題に入るけど、ルトは私と共に特訓してもらうから。」
「特訓ですか?」
「うん。私が使う移動魔法に慣れてもらいたいの。」
「わかりました。サオリ様と一緒に特訓、うれしいです。」
「・・・でも、最後には私を恨むかもしれないよ。」
「そんなことは、ありえません。サオリ様は、僕の忠義を甘く見ているようですね。」
ルトが片膝をついて、私の手を取って上目遣いで私を見た。
「たとえ、あなたに殺されたとしても、それがサオリ様の幸せにつながるのなら、本望です。」
「・・・私は・・・私の幸せは、ルトが死んだら手に入らないよ。」
「サオリ様・・・!」
ぽたりと、私の手にルトの涙が零れ落ちた。うるんだ瞳で見上げるなんて・・・可愛すぎる。たとえ、ちょっと引くようなことを言っていてもだ。
「サオリさん。」
ルトがとっているのとは別の手を、ゼールが取った。見上げれば、その手に唇を付けようとしているゼールがいて、足の甲を踏みつけた。
「くっ・・・はぁはぁ。」
「・・・ゼール、座って。ルトも、紅茶が冷めちゃうよ。」
興奮したようなゼールに引いて、私は見なかったことにして紅茶を飲んだ。




