75 一人に知られたら
森の中で、興奮状態がおさまったゼールに、お願いをした。
「ゼールには、人を用意してもらいたいの。」
「わかりました。どのような人材をお求めですか?」
「・・・強くて、口が堅い人。ルトが移動魔法に慣れたら、実践に近い形で特訓をしたいと思うから。」
「強いですか。サオリさんのお馬鹿騎士程度でよろしいでしょうか?」
「うん。」
「それなら、すぐにご用意できます。いつでもお申し付けください。」
「ありがとう。」
すぐにってことは、ゼールの護衛かな?アルクやリテはそれなりに強いと思うけど、そんな護衛を雇っているなんて、ゼールはさすがだな。そういえば、ゼールのすごさって、いまいちわからないんだよね。有能なのは、何でもすぐ手配してくれるあたりでわかるけど。
権力もありそう。城のパーティーによばれてたし。
「他にも何か?」
「あ、うん。強い魔物を探して欲しいの。どこにいるかとか、そういう情報だけでいいから、探してくれる?」
「わかりました。一応聞きますが、今からする特訓は、魔王と戦うことを想定なさってのものですよね。」
「うん。だから・・・下手を打てば、ルトの命を危険にさらすことになるの。でも、死なせるつもりはないけどね。」
「大丈夫です。サオリ様が心配なさらないよう、僕はそれだけの強さを手に入れて見せます!」
「ふふっ、ありがとう。」
「ルトを勇者にするおつもりなのですね。」
「うん。ゼールがなりたいなら、ゼールでもいいよ?」
「遠慮します。私は今の立場が気に入っていますので。ある程度の自由が利き、周囲に侮られることがない程度には、影響力がある。これ以上の影響力は、束縛されるだけです。自由が無くなるのは、私には耐えがたい・・・あぁ、でもそれがサオリさまのご命令とあらば・・・」
「いや、自由に生きて、ゼール。」
「はい。自由にあなたのために生きます。」
「・・・」
それって、自由なのだろうか?と疑問に思ったが、別にどうでもいいことなので、それ以上は何も言わなかった。
クリュエル城のプティに割り当てられた部屋で、プティは黒装束の男を見下ろし眉をひそめた。
「見失った?」
「はい。勇者の移動魔法を使われてしまい、どこへ行ったのかもわかりません。」
「・・・移動前の会話から予測できないの?」
「景色のいい場所と言っていましたが・・・」
黒装束の男は、それを嘘だと感じ言葉を濁した。おそらく、勇者は自分の存在に気づき、またはいる可能性を考え、移動魔法を使って場所を移動することで、監視を巻きたかったのだろう。自分の任務は護衛だが、プティに聞かれればその時の状況は話すし、監視ともいえる。
「そんな場所、多すぎてわからないわね。わかったわ。あなたはゼールの屋敷で待機して、サオリの帰りを待ちなさい。」
「御意。」
勇者の記憶は戻った。しかし、プティはそのまま自分の護衛を勇者につけるつもりのようだ。それは、監視としてか、記憶喪失の勇者に情が移ったのか、黒装束の男にはわからなかった。
「サオリは当分戻らないでしょうし、現時点までの報告をしてちょうだい。」
「はい。勇者の睡眠時ですが、うなされており悪い夢を見ているようでした。朝方起床した勇者は、汗をかいて顔つきが全く違ったものになっていました。」
「さっきの勇者を見れば、その悪夢はここでの出来事なのだと容易に想像がつくわね。今日ここに行く予定だったから、記憶が呼び起こされたのかしら?」
「いいえ。城に行くと決まったのは、朝食時です。その時、勇者はゼールから自分自身のことを聞き出して・・・」
「そのあたりはいいわ。ごめんなさい、勇者がここでのことをどう話していたか、それが気になって仕方がないわ。その部分を話して。」
「わかりました。」
黒装束の男は、その時の状況を思い出した。
勇者が壊れてしまった瞬間を・・・いや、その再現を。
脚色はせず、ただ自分の見たものを淡々と話す黒装束の男。その話を黙って聞くプティの顔は血の気が引いているように見える。
「・・・以上です。」
「・・・その話は、本当なの?」
「俺は、見たもの、聞いたものをそのままお伝えしました。」
「そうね。あなたはそういう人よね。・・・サオリ。」
痛ましい。プティは、サオリに対して同情する。
サオリの能力、それを知っていたら・・・
自動治癒を知っていたら、自分はどのような行動に出ただろうか?
「ふっ。サオリが自分の能力を隠すのは、正しいわ。」
「プティ様?」
「私、最低ね。人としては、最低だわ。でも、私は人ではない者・・・王族なのだもの。」
「・・・」
「・・・明日、ゼールの屋敷を訪問するわ。あなたは、いつも通り私の命令を遂行しないさい。一応確認だけど、私の命令は他言無用よ。」
「・・・御意。」
「勇者は、後どれだけの手札を隠しているのかしらね。2人の騎士と1人の奴隷だけかと思ったのだけれど・・・四天王に恩を売っていたり、自動治癒だなんて能力を隠していたり。ここまでくると、何を隠していても不思議じゃないわね。」
「その通りです。ですが、心配は無用かと。」
「心配って、何を私は心配しているのかしら?魔王が倒せるかどうかということなら、もう諦めているわ。」
「・・・勇者は、今日目が覚めた時に独り言を言っていました。「早く、魔王を倒さないと・・・」と。この世界に恨みを持っていたとしても、目指すところは同じです。そして、勇者はそのための力を女神から与えられているはずです。」
「魔王を倒す意思はあるのね、本当に。なら、あとは勇者の力とやらを信じるしかないようね。・・・なら、決まりね。」
プティの中で、旅を続ける意思が固まった。




