表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/111

73 クリュエル城




 馬車に乗り込み、クリュエル城へと向かう。城が近づくにつれ、気持ち悪くなった。吐き気をこらえて、止まった馬車を降りれば、血の匂いがした。


「ずいぶんきれいになったようですね。友人の話では、本当にひどいありさまだったらしいですが。」

「ですが、かすかに血の匂いが残っています。」

「獣人は本当に鼻がいいですね。ご愁傷さまです。」

 鼻をハンカチで抑えるルトに、ゼールはにこにこと笑いかけた。


 濃い、血の匂いがする。

 でも、きっとこれは、本当に血の匂いをかぎ取っているわけではない。ただの記憶だろう。


 城内に入り、すたすたと歩くゼールについて歩く。


「おそらく、あそこが一番記憶を呼び戻す場所でしょう。」

「あそこって?」

「来ていただければわかります。」

 そして、城の奥、地下へと続く階段を下りて、私たちは鉄格子の並ぶ場所、牢屋へときた。


 じめじめとしていて、かび臭い。


 あぁ、ここだ。


 自然と足が動き、私は先頭きって歩く。

 とある牢屋の前で、何かがいたような気がして立ち止まった。


「・・・誰もいない。」

「はい。今は誰も囚われていません。」

 空っぽの牢屋に違和感があったが、私はまたすぐに歩き出した。


 気持ち悪い。吐き気がする。

 私は、目を背けて、とある牢屋の前を通り過ぎ、最奥の部屋の扉の前で立ち止まった。


「・・・」

「この部屋は、拷問部屋ですね。あなたにとっては、実験部屋だったのでしょうが。」

「サオリ様、戻りましょう。無理して思い出す必要はありません。」

「・・・思い出さないと、私はただの実験動物なんだよ。」

「え?」

 ノブに手を伸ばして、ノブを回す。かぎはかかっていないようで、あっさりと開いた扉。吐き気をもよおす空気が、部屋から流れる。


 悲鳴が聞こえた。


「うでが!うでがー!!」

「サオリ様!」

「いやぁあああああああああああ!」

 あぁ、私の悲鳴か。でも、悲鳴くらい上げるよ。だって、腕を切り落とされたんだ。次には、足を。また腕を、また足を・・・


「はぁはぁはぁ。」

「サオリ様・・・」

 額に流れる汗を、ルトがハンカチで受け止める。


「ここで行われていたのは、実験です。サオリさんの自動治癒が、どこまでの治癒能力を発揮するのか。それを実験していました。」

「ゼール!やめろっ!これ以上サオリ様を苦しめるなっ!」

 ルトが声を荒げて、ゼールの胸ぐらをつかむ。


「そう、私は実験動物だったの。」

「サオリ様、・・・おやめください。」

「初めは嘆いた。でも、それが無駄だってわかって、痛みにも慣れて・・・いつしか、腕を切り落とされても、燃やされても、叫び声すらあげなくなった。それが日常になったの。」

 記憶を整理するように、誰に聞かせるとかいう考えはなく、ただ事実を話した。


「逃げようなんて、考えたのは最初のうちだけ。だって、ここにいれば生きていける。殺されるわけでもないし、ご飯は少ないけどちゃんと出る。だから、ここで生活していた。」


「でも・・・あの日は、違った。」

「あの日?」

 私は、移動魔法を使った。

 私が過ごした牢屋。そこに私とルト、ゼールはいた。


「え?」

「移動魔法の使い方を思い出したようですね。」


「そう、初めてここで使ったの。使えるようになったの。だって、誰も助けてくれなかったから。自力で、どうにかするしかなかったの。」

「・・・サオリ様・・・」


「私が移動した場所は、玉座の間だった。」

 私は再び移動して、笑った。


「ははっ!ははははっ!」

「サオリ!?」

 アルクの驚く声が聞こえた。リテ、エロン、プティ、マルトー・・・その他大勢の声が聞こえたが、私は構わず笑って言った。


「兵が、私に乱暴しようとしました。」


「私はそういったの。そしたら、あの王は何て言ったと思う?」


「殺せ。」


「私をね、殺せって命令したの。そして、兵士に襲われた。だから、移動魔法で必死に逃げた・・・死にたくなかったから。」

 目をつぶる。深呼吸をして、興奮を抑えた。


 完全に思い出した。


 目を開ければ、旅を共にした仲間たちが、痛ましそうにこちらを見ていた。一番近く、ルトの視線を受けて、私は微笑んだ。


「やっと思い出せた。ごめんね、忘れちゃって。」

「いいえ・・・サオリ様、すみません。僕は、サオリ様が記憶を取り戻したと知って、うれしくなりました。忘れていたほうが幸せだと分かっているのに。」

「いいよ。忘れたくないことだって、たくさんあるから。」

「それは、私のことも入っていますか?」

 胡散臭い笑みを浮かべるゼールに、私は困った顔をして答えた。


「どちら様でしょうか?」

「はぁ・・・ありがとうございます!」

 体を震わせて礼を言うゼール。ま、感謝の気持ちだ。


「サオリ、記憶戻ったみたいだな。」

「うん。心配かけてごめんね。」

「サオリさん・・・もう、出ましょう。ここは、あなたにとって気分のいい場所ではないでしょう。」

「ありがとう、リテ。なら、お言葉に甘えさせてもらうよ。」

 先ほどから震えが止まらない。

 それが恐怖からくるものではないことは、私の口角が上がりそうなのを見ればわかる。


 この場所では、何を口走ってしまうかわからない。


「サオリ、私も一緒に行くわ。」

「エロン・・・ごめん、みんなと一緒にいてくれる?」

「え・・・」

 なぜ、彼女のことを無条件に信用していたのだろうか?今になって思えば不思議だ。彼女から何かを感じることはない。ただ、少し気恥しいというのはあるけど。


「では、僕が一緒に・・・」

「リテも、プティたちと一緒にいて、情報を集めてほしい。アルクもね。」

「サオリさん・・・」

「わかった。何をするつもりかわからねーが、頑張れよ。」

「うん、ありがとう。」

 私は、城に来た時と同じメンバーでゼールの屋敷へと帰った。


 記憶喪失のせいで、無駄な時間を過ごしてしまった。

 今から特訓をしなければ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ