救済と矜持
第3話 救済と矜持
ヤマタニはヤナークの街を通過し、セタンの街へとやって来た。
ヤナーク領地の東にある街だが、ヤナークの街よりも一回り小さい。
町外れに装甲車を停めて、いつものメンバーは出発の準備をしていた。
「あの、ヤマタニ様。」
「なんだい? レイナ」
「あたしも連れて行ってはくれませんか?」
「ん~~。」
ヤマタニはあれこれと考えたが、結局あまり良い答えは思いつかなかった。
「レイナは装甲車を見張っていてほしい。」
「それと、悪い奴らが来たらレイナみたいな可愛い娘を連れ去ってしまうかもな。」
「まぁまぁ、可愛いなんて♡」
レイナを上手く留守番させたヤマタニは、装甲車を後にした。
「そういえば、この街は初めてだな。」
スケさん、カクさん、コメリア、ハチもやはり初めて来た街だった。
建物は古いものもあったが、人通りもわりとあり、市場や商店街も活気があった。
「ちょっと昼を食べて行こうか。」
近くにあった、焼き肉のいい匂いがしていたレストランへ入った。
「中から焼き肉のよい匂いがしていたが、何という料理なんだ?」
中に入って働いていたおばちゃんに聞いた。
「それはただの焼き肉さ。さっき仕入れた新鮮な肉だから美味いよ。」
「おお、そうか。じゃあ焼き肉とパンとスープとサラダ、それと水を人数分くれ。」
「あいよ。」
「そのワンちゃんは外へやって下さいな。」
「わかった。」
ヤマタニはハチを入口へ行って待機させた。
「すまないな、ハチ。後で食い物を持ってくるからな。」
「ワン。」
ヤマタニはハチの頭を撫でて、席へついた。
「焼き肉か、なんだか楽しみだな。」
ヤマタニは家族でキャンプしたときのことを思い出していた。
あの日の夕食は皆でバーベキューと焼き肉を食べたな。 エールがよく冷えていて美味かったっけ。
などと思い出していたら、意外に早く焼き肉などの料理が運ばれてきた。
「早かったな。」
「焼くだけだからねぇ〜。」
おばちゃんが料理をテーブルへ並べた。
ヤマタニが代金とチップを渡した。
「すまないが、外の犬にも焼き肉をやってくれ。」
さらに代金を渡した。
「まぁ、チップまですいませんね。」
「幸せなワンちゃんですね。」
おばちゃんは上機嫌でカウンターへ戻っていった。
焼き肉は美味かったが、塩味と香草のみのシンプルな味だった。
「そうか、庶民料理だとスパイスが高いから使えないのか。」
「マスター、そうです。一般には高くて手が出ませんね。」
「そうだな。コメリア。」
「サンブレロなら電気があるから、冷蔵庫で肉を長持ちさせられるが、この店は電気は来てないよな。」
「国中にそのうち送電させて冷蔵庫を大量販売したいな。」
「しかし、殿の冷蔵庫は高価なのでしょう?」
「今は高いが、大量生産すれば価格を安く出来るさ。」
そう言いながら焼き肉を口に入れて頬張る。
「マスター、冷蔵庫よりも先に香辛料だと思われます。」
「そうだ。コメリアの言う通りだ。」
「我が商会の鉄の船が完成したら、南方の国とスパイスを貿易したいものだな。」
「そうしたら、この店の焼き肉料理もスパイスが使われますなぁ。」
スケさんが肉を全て平らげた。
ヤマタニ達は焼き肉料理を食べ終わると店を後にした。
「次はもっと街外れの場所へ行こうか。」
ヤマタニ達はセンター通りから、東の道に入った。
「ここは住宅地かな?」
「そのようですのぅ。」
さらに東へ歩いていき、右に曲がって細い道に入った。
細い道へ入ると、子供達が走り回っていた。
「きゃーあ! きゃーあ!」
子供達は追いかけっこをして走り回っているらしく、奇声を上げて駆けて行った。
それからしばらく東の住宅地を歩いたが、貧困者や倒れている人はいなかった。
そうして街の東側を見たあと、南側を歩き回った。
街の南側の中央には、比較的、裕福な家が並んでいた。
「南側は問題なさそうだ。」
「後は西と北か。」
西地域に行くと、ボロい家があった。
ヤマタニが初めて借りた賃貸物件みたいな小さい家がひしめいていた。
「そうそう、こんな感じだ。俺が住んでいたみたいな賃貸物件だ。」
「マスターは、この様な家に住んでいたのでしたか?」
「そうだ。」
「ホコリだらけでクモの巣がはっていて、掃除しても綺麗にならない家だったな。」
「信じられませんな。殿がそんな家にいたなんて……。」
カクさんがそう言ってボロい家を見つめた。
「まぁな。必死に働いて積み上げてきたから、今があるんだ。」
ボロい家を見ていたら、中から痩せた男が出てきた。
痩せた男の身なりは、継ぎ接ぎだらけのボロ服を着ていた。
家の前に置いてあった、空の荷車に荷物を載せようとしていた。
しかし男はふらついて倒れてしまった。
ヤマタニはそれを見て、男の側まで近寄った。
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫だ。ほっといてくれ。」
痩せた男は、倒れたことが恥ずかしかったのか、ヤマタニを追い払った。
ヤマタニは懐から銀貨を取り出して、痩せた男へ渡した。
「なんだ、この金は?」
「あんたがふらついていたから、これで何か食べなさい。」
男はヤマタニから渡された銀貨を投げ捨てた。
「施しなんかいらねぇ!」
投げ捨てた銀貨は転がっていったが、路地裏から走って来た汚い少年が拾って、素早く消えていった。
ヤマタニはあまりにも速かったので、銀貨を拾う余裕がなかった。
痩せた男は立ち上がって、荷物を荷車に載せてどこかへ行ってしまった。
「殿、あの男を捕まえて来ましょうか?」
スケさんがヤマタニに言った。
「いや、いいよ。俺が悪かったからな。」
「悪い?」
「ああ。あの男のプライドを傷つけてしまったからな。」
「この子供はどうしますか?」
いつの間にか、カクさんが銀貨を拾った少年を捕まえて聞いてきた。
「離せ! このオッパイ女!」
少年はジタバタともがいていた。
「いいよいいよ、離してやりなさい。」
「しかし、悪い子はお仕置きしないと。」
カクさんは少年の尻を叩いた。
「痛い痛い! このオッパイが!」
「はははっ。カクさんをオッパイ呼ばわりするとは、命知らずだな。」
ヤマタニは笑っていたが、少年はヤマタニを睨んだ。
カクさんは少年の尻を数回叩いてから、解き放ってやった。
「このオッパイ女! 覚えてやがれ!」
と捨て台詞を残して裏路地に消えて行った。
ヤマタニはため息をついた。
「何だか、歩き回って疲れたな。」
「今晩の宿を探しに行こうか。」
そう言って肩を落として街の中央へと向かうのだった。
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