神はグスタヴに現れ、人々を救い給うた
第10話 神はグスタヴに現れ、人々を救い給うた
ミリーナ達はジリン村へとやって来た。 しかし神ヤマタニは既に立ち去った後だった。
「神ヤマタニ卿は、何方にいますか?」
ミリーナの質問に村人は笑顔で答えてくれた。
「神様なら、この前やって来て病人や怪我人や家畜まで回復して帰りましたよ。」
「いやぁー、凄くて素晴らしい方でした。タダで村中の皆を回復させてくれたんですからね。」
「そうでしたか、やはり神ヤマタニは素晴らしい方でしたね。」
ミリーナは勝手にヤマタニを美化した。 凛々しい青年領主様で、カッコよくって自愛に満ちた神様なんだわ。
ああ、どうしましょう。 そんな素敵な神様から求愛されてしまったらどうしましょう。
二人は恋に落ちてしまうんだわ。 などと頭の中では、勝手に中年のヤマタニを恋人相手に妄想してしまうのだった。
「ちょっと。」
「ちょっと娘さん。何を赤くなってニヤニヤしてるんですか?」
「いえ、こっちのことですよ。おほほ…。」
「とまぁ、とにかく噂の神様は流行り病で危なかった村人達を救ってくれました。」
「まぁ、ステキ。本当に素晴らしい方ですね。」
「ああ、ぼくはこの事実を『ジリン村の奇跡』として伝記に記したいと思ってる。」
「それは素晴らしいです。」
「でもヤマタニの偉業はもっとありますから、ジリン村だけではありませんよ。」
「そうですね。神様についてもっと調べてみたいなぁ。」
「では、あたしが色々な神様の事を教えましょうか。」
ミリーナと村人の青年は美化された神様談義に花を咲かせた。
◆
ヤマタニはグスタヴの街を歩き回っていた。
「夕べはなんか飲み過ぎたな。」
「はい、マスター。かなり飲み過ぎましたね。」
「アルコールを分解するので、水分を多めに取って下さい。」
コメリアは鞄から水筒を取り出して、入っていた水をカップに移してヤマタニに渡した。
「あぁ、すまないな、コメリア。」
ヤマタニは公園のベンチに座って水を飲んだ。
ヤマタニ達が休憩していると、何処かで会った髭面の男が衛兵を連れてやって来た。
「いましたぞ!あいつが俺の奴隷を奪っていった、極悪非道の悪人です!」
髭面の男と衛兵達が、ヤマタニの座っているベンチを取り囲んだ。
「そこのお前達、奴隷を奪ったと訴えがあった。」
「それは本当か?」
衛兵の一人が厳しい顔をして言った。
「何処かで見たような男だと思ったら、この前の猫獣人の子供達を路地裏に座らせて、自分はのうのうと昼間から酒場で酒を浴びていた小悪党か。」
ヤマタニがそう言うと、顔を赤くして怒り出した。
「このー!」
「こいつ達の蛮行で、俺の部下はこの有り様なんだぞ!」
髭面の男の後ろには、包帯を巻いた怪我人の三人の部下がいた。
「窃盗、暴行、領主を騙る容疑で連行する。」
衛兵達はヤマタニを捕まえようと、捕縛用の縄をかけようとした。
「まぁ、待ちなさい。」
「奴隷を奪ったのではなく、俺の領地の住人を返してもらっただけだ。」
「ほんにほんに。殿は暴行してはおりません。」
「小奴らが、我らにいやらしい事をしようとしたから、払い除けただけじゃ。」
しかし衛兵達はヤマタニ達を信用はしなかった。
「うるさい!大人しく捕縛されろ。」
「まぁ、捕縛されてもよいが、後で泣きを見ることになるぞ。」
ヤマタニはそう忠告したが、衛兵達はヤマタニに縄をかけてしまった。
すると怒ったスケさんカクさんが、衛兵のかけた縄をぶち切った!
「殿に何をするか!」
「この無礼者が!」
コメリアも縄をぶち切って、ヤマタニの縄を解いた。
「反抗するか!」
「ピーーーーッ!」
公園周囲にいた衛兵達がわらわらとやって来た。
「奴らが反抗したから、痛めつけろ!」
「おーっ!」
「あーっ。仕方ないな、スケさんカクさん相手してやりなさい。」
「はっ!」
思わぬところで乱闘騒ぎになってしまった。
次々と衛兵達がヤマタニ達に向かってくる。 しかし圧倒的に三人の娘達によって倒されていく。
ヤマタニに近寄ってもハチに噛みつかれ、ヤマタニを殴ろうとした者は妖精メルルの魔法によって吹き飛ばされた。
いつの間にか周囲には人だかりができていて、ヤマタニと衛兵の乱闘を見物していた。
圧倒的に大勢だった衛兵達は、散々な目にあって衛兵隊長以外は全滅した。
「ぐぬぬぬ。」
「しかし隊長、あの妖精に強い犬、めっぽう強い美人二人にメイド!噂の神ヤマタニ卿では?」
倒された一人の衛兵が立ち上がって進言した。
「そうだぞ、これが俺のエンブレムだ。」
ヤマタニの見せたエンブレムを見て、隊長が手帳に記載してあるエンブレム表と見比べた。
「さらにあるぞ。」
ヤマタニは暗黒地帯総督の印のバッジと、国王からの委任状を見せた。
「あっ!あなた様は本物のヤマタニ卿!」
「ほれっ!頭が高い、控えろ!」
髭面の男達や隊長までもが、スケさんカクさんに蹴っ飛ばされた。
「こちらにおわす方は暗黒地帯を統一した暗黒地帯総督であるぞ!」
「姫と婚姻した神様、あの王族のヤマタニ卿でしたか!」
「大変申し訳ございませぬ。」
ギャラリーからも歓声が飛び、周囲の者はヤマタニに向かい膝をついた。
「この失態、どうかお許し下さいませ。」
衛兵隊長は泣きながらヤマタニに懇願した。
「領主権限で奴隷達を連れ去ったのはよかったか?」
「はい。正しいです。」
「暴行ではなく正当防衛だったことは?」
「はい。正しいです!」
「俺が本当の領主だったことは?」
「はい。正しいです!」
「悪いのは俺ではなくて、やつらだよな?」
「はい、その通りです!」
「その者らをひっとらえよ!」
衛兵達は、髭面の男と部下達を、縄でしばり縛らえた。
「うわーん。ごめんなさい。本物とは知らなかったんだ!許して下さい。」
男達は泣きながら衛兵達に連れて行かれた。
「この旅は大変申し訳ございませぬ。」
「うむ。」
「この事は我が領主様には内密にしていただけませんか?」
ヤマタニは、衛兵隊長の懇願した顔を見ながら、一考した。
「まぁよいか、しかしだな。」
「つまらない悪党の言う事を聞くよりも、この街に巣食っている悪人達を逮捕しろ。」
「悪人退治やスラムの貧困者を救うなら、内密にしてやってもよいがな。」
「はっ!」
「すぐにそのようにします!」
周囲からヤマタニに向かって歓声が上がった。
「ヤマタニ神様最高です。」
「ヤマタニ神様ステキです。」
「きゃーヤマタニ神様♡」
などと民衆の支持を無自覚に一気に増大させてしまった。
こうして悪人退治がはじまり、ヤマタニが直接やらなくても弱者救済は自動的に行われるのでした。
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