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NIGHTCROSS(ナイトクロス)  作者: wisemanjr4
LAP.1 悪魔のフィット編

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第三章 鏡

気づいた時には、もう映っていた。


バックミラーの中に、ヘッドライトがある。


自分は無意識にアクセルを踏み足した。この道でそう簡単に追いつかれる車ではない、という自負があった。しかし光は、縮まってくる。


おかしい。


首都高の壁が迫る。カーブが来る。自分はハンドルを切った。タイヤが鳴く。立ち上がり、アクセル。問題ない速度だ。悪くない走りだ。


それでも、縮まる。


「……なんだ」


誰かに話しかけるつもりはなかった。独り言が出た。


追ってくるのはコンパクトなシルエットだった。セダンでもクーペでもない、あの独特の形。ホンダのインテグラ。DC2型。峠でたまに見かけるが、ここ湾岸で本気のインテグラに会ったことはなかった。


ナメていた───と、自分は認めるしかなかった。


カーブのたびに詰められる。直線で離そうとしても、離れない。インテグラのヘッドライトはバックミラーの中で一定の距離を保ち続けた。揺れない。ブレない。ただそこにある。


それが、怖かった。


速さへの恐怖ではなかった。あの光の意志のようなものが、怖かった。諦めない、という感情が、ヘッドライトから滲み出ていた。


自分は逃げ切れなかった。


大黒PAに滑り込んだのは、意地でも逃げ切るという気力が折れたからだ。インテグラは追ってこなかった。そのまま湾岸を走り抜けていった。


自分は車を降りて、走り去るテールランプを見送った。


見覚えのある感覚だった。


少し前まで、自分もああいう目で誰かの背中を見ていた気がした。もっと速い何かに、追いつけないまま、それでも踏み続けていた頃の話だ。


「……あいつ、誰だ」


隣に停まっていた車から、別の男が降りてきた。同じものを見ていたらしい。


「知らないのか」とその男は言った。「最近よく出る。インテグラのやつ。名前は───」


自分は聞いていたが、頭に入らなかった。


テールランプは、もう見えなかった。

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