↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NIGHTCROSS(ナイトクロス)  作者: wisemanjr4
LAP.1 悪魔のフィット編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/65

第十三章 傷

涼がそれを知ったのは、翌朝だった。


オオタからの短いメッセージだった。


「ヤマネさんのRX-7、やられた」


それだけだった。


大黒PAに着くと、すでに何人かが集まっていた。


ヤマネのFD3Sは、フェンダーが大きく凹んでいた。右の後ろ。幅寄せをされた跡だった。ガードレールとの間に挟まれた形で、リアのクォーターパネルも逝っていた。走れなくはないが、レースが可能な状態ではなかった。


ヤマネは車に背中を預けて、煙草を吸っていた。怪我はなかった。


涼が近づくと、一瞥だけした。


「来たか」


「何があったんですか」


「走ってたら、挟まれたヨ」短く言った。「前に一台入られて、ペースを落とされた。後ろから来た2台が幅寄せした。壁との間に追いやられて、避けきれなかった」


「何台でしたか」


「三台」


涼は凹んだフェンダーを見た。修理代は安くない。しかしそういう話ではなかった。


「クロスです」とオオタが後ろから言った。「昨日、大黒で見た。三台で動いてた」


「証拠はないヨ」ヤマネは煙草を吸った。「ただ、まあ、そうだろうナ」


「怒らないんですか」


「怒ってるヨ」静かに言った。「ただ怒っても、フェンダーは直らない」


話は一日で広まった。


ヤマネは速い。この首都高で長くやってきた人間の中でも、知らない者がいない名前だった。そのヤマネがやられた、という話の広まり方は、普通の事故の話とは違った。


怒りの種類が、違った。


大黒PAで、何人かが声を上げた。クロスに文句を言いに行く、という話が出た。数で行けばいい、という話も出た。


ヤマネはそれを全部、一言で止めた。


「やめろヨ」


「でも」


「やめろ、と言った」煙草を踏み消した。「あいつらと同じやり方で返したら、こっちも同じになる。それは嫌だろう」


「じゃあどうするんですか」


「走って勝つ」ただそれだけ言った。「それ以外に、返す方法はない」


誰も反論できなかった。


その夜、涼はミウラのショップに寄った。


ヤマネのRX-7の修理の話をしていた。ミウラは黙って聞いていた。


「クロスは以前からいたんですか」と涼は聞いた。


「いたよ」工具を置いた。「ただ最近、やり方が変わった。前は普通に走ってた。……シノザキが来てから、変わった」


「シノザキ」


「リーダーだ。速い。本物の速さを持ってる」ミウラは少し間を置いた。「だから始末が悪い」


「速ければ、汚い手は要らないはずだ」


「そう思うよな、普通は」ミウラは腕を組んだ。「でもあいつの考え方は違う。速さは勝つための道具だ、と思ってる。道具を使うのに、きれいも汚いもない、とそう思ってる」


「それは間違ってる」


「確かに、間違ってるよ」ミウラはあっさり言った。「でも間違ってると証明するには、走って勝つしかない。言葉じゃ届かない相手だ、ああいうのは」


涼は少し黙った。


「オレに来ますかね、そのうち」


「来るだろうね」ミウラは即答した。「もう動いてる、たぶん。……お前のことを、あいつらは前から見てた」


涼はその言葉を、すぐには返せなかった。


「怖いか」とミウラが聞いた。


「少し」正直に言った。


「それでいい」ミウラは工具を手に取った。「怖くない奴は、怖さが来た時に対処できない。怖さを知ってる奴だけが、怖さの中でも走れる」


シャッターの向こうで、夜が深くなっていた。


涼はヤマネのFD3Sの凹んだフェンダーを思い出した。


あれはただの板金の話ではなかった。この首都高に流れるものへの、明確な侵犯だった。速さへのリスペクトが一切ない連中が、すぐそこにいる。


帰りの車の中で、涼はアクセルを踏みながら考えた。


走って勝つ、とヤマネは言った。それ以外に返す方法はない、と。


その言葉は正しいと思った。


正しいと思いながら、自分にそれができるかどうかは、まだわからなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。