表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
在りし日の空【架空戦記】~南方無人島の独立戦隊 零式観測機で かく戦えり~  作者: ともぞう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/8

第7話 刹那

スピットファイアの美しい楕円翼が、激しく明滅した。凄まじい閃光。


『クソがぁッ!!』


殺られる!

と歯を食いしばった次の瞬間——スピットファイアの主翼が根元からへし折れ、機体が文字通り粉々に爆散した。衝撃波と爆炎が、零観の風防を激しく叩く。


『え……? 何が起こった……!?』


呆然と目を見開いたエースの視界を切り裂いて、一条の影が猛烈なスピードで視界を奪った。

銀色のスマートな胴体。その主翼に描かれた、鮮烈な…あまりにも鮮烈な「赤い日の丸」


陸軍の一式戦闘機「隼」だった。


前を横切った「赤い日の丸」に続いて、上空の雲を切り裂き、次々と銀翼の影が舞い降りてきた。

五機、八機、十機——「隼」が舞い降りる。

零観をハチの巣にしようと群がっていたスピットファイアの編隊は、上空から襲いかかる隼の猛烈な一撃離脱と、軽快な格闘戦の連携によって一瞬にして陣形を崩される。

そして次々と立ちのぼる黒煙…。

生き残った機体は命からがら南方の青空へと敗走していく。 激しい爆音と銃声が遠ざかり、静寂が空に戻ってきた。

エースが荒い息を吐きながら操縦桿を握り直したその時。一機の「隼」が速度を落とし、傷ついた零観の右斜め前方へと、滑るように並んできた。風防の向こうには、飛行帽を被った陸軍パイロットの姿がはっきりと見える。 隼は、海軍の不格好な水上機をからかう風でもなく、ただその健闘を称えるように、キャノピー越しに深く、敬礼を送ってきた。


『——感謝する、陸軍』


エースもまた、敬礼を返した。 隼のパイロットは小さく頷くと、スロットルを開けた。隼は機体を左右にひらり、ひらりと傾けて翼を振る。 空の挨拶を残し、見事な上昇旋回で仲間たちの待つ編隊へと合流していく。 朝日に照らされる十機の銀翼が、遠くの雲海へと吸い込まれていくのを、静かに見つめていた。


エンジンの音が…さっきまでの戦闘が…

嘘みたいに静かになっていく。

いや、静かじゃない。

ただ――もう、戦っていないだけだ。

雲は薄く、海は鈍く光っていた。

さっきまでの旋回の感覚が、まだ腕に残っている。


(…重い……)


何度も繰り返した動きの“遅れ”が、今になってじわじわと効いてくる。


「旦那……帰れるんだべか」


後ろの新米の声は、さっきよりずっと小さい。


「……さぁな」


答えながらも、確信はない。

機体は無事じゃない。

だが、落ちてはいない。

それだけだ。

波が細かく砕けて、銀色に光っている。


(あの四角い箱……)


あの光景だけが、頭の中に引っかかっている。

あそこに当てた時だけ、白煙が出た。

何発撃っても落ちなかったのに。

あれだけは、違った。

敵は白煙を吹き出し落ちかけて、離脱した。

勝ったのかどうかも、分からない。


とりあえず帰路につく。

俺たちには味方の編隊も、援護も、帰る列もない。

勝っても、負けても、戻る先は同じだった。


「島が見えてきたべ……戻ってきただ」


新米の声。

その言葉だけが、少しだけ現実に戻してくる。

機体がゆっくりと高度を落とす。

フロートが海面をかすめる。

次の瞬間、鈍い衝撃。

ドン、と短く跳ねる。

水しぶき。

それで機体は止まる。

静かになる。

本当に…静かになる。


「……戻ってきた」


どちらの声か分からない。

ただ、事実だけがそこにあった。

お読みいただきありがとうございます!

続きが気になる方、応援してくださる方は、

画面下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで

応援していただけると執筆の励みになります!

次回更新は7月1日13時30頃を予定しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ