第6話 後ろの番人(2)
直後――バリバリバリバリバリババババッ!!!
と、主翼の八門から放たれた、とんでもない密度の七・七ミリの火線の網が、俺たちが一瞬前までいた空間を冷酷に切り裂いていった 。
「これは……まずい!」
もう一回機体を激しく捻って雲の中へ降下したものの、スピットファイアの編隊は狂ったような鋭い旋回で、すぐに俺たちの後ろへ回り込んでくる。
だが、最初に突っ込んできた敵が、速度を出しすぎて前方へと勢いよく飛び出してきた。
「そこだぁッ!!」
その一瞬の隙を見逃さず、機体を鋭く捻り込ませて敵の胴体へ機首の七・七ミリを撃ち込んだ。命中した手応え(火花)はあったものの、敵は煙すら吹かずに加速して逃げていく。
「なん…だと…。落ちない?」
一瞬、気を取られた。
直後に別の敵機が向かって来る。
喉がちぎれるほどの声で伝声管に怒鳴りつけた。
「新米、来たぞ! 撃て!!」
金属の管を通じて、耳元で新米の悲鳴に近い怒号がダイレクトに響く。
「……う、うわぁぁぁッ!? 旦那、景色がグルグル回って、どっちが空だか海だかさっぱり分かんねぇ」
後ろの席の新米も必死に七・七ミリ旋回機銃を撃ち込んでいるが、一発も当たらない。山での熊撃ちの天才だろうが、強烈なG(重力)がかかりながら天地がひっくり返る本物の空中戦はこれが初めて。そんな簡単に当てられるわけがなかった。
上空から猛スピードで降下してくる敵の機首が映る。
ズババババッ――!
敵の7.7mmが空を裂く。
操縦桿を倒した次の瞬間、違和感が走った。
(重い……?)
なんとか避けきったが、反応がワンテンポ遅れる。
フロートと複葉構造の抵抗。 そして長距離哨戒による燃料と機体負荷。
さらに――もう一つ。
(クソ……まだ“九六式の感覚”が抜けてねぇ)
軽く、鋭く動ける前提で操縦してしまう癖が残っていた。その“遅れ”が、命取りになり始める。
「旦那! 後ろ来てるだ!」
新米の声と同時に銃声。
バララッ!
新米の弾が敵機をかすめる…
「くそ……当たらねぇだぁ……!」
新米の声に焦りが混じる。
敵機の一機が、オーバーシュートして滑り込んでくる。咄嗟に相手の下に潜り込む…そして一撃。
バッ!
乾いた音。
翼の付け根にある四角い装置に弾が当たった。
白煙が、遅れて噴き出した。
シューッ――
敵機は一瞬バランスを崩し、慌てるように降下して離脱していく。
「旦那!流石だべ!でも、、何でだぁ?…今の、なんで煙さ出たんだ?」
エースは一瞬だけ眉をひそめる。
「知らねぇよ。たまたまだろ…また来たぞ!」
被弾した敵機は退避していく。
あそこは、なんなんだ…
混乱する頭をなんとか整理し飛び続ける。
押し寄せる敵機…回避の連続…
旋回する度に速度が落ちて緩慢な動きになる。
「くそ!速度が足りねぇ。」
後部座席の新米も必死だ。
でも弾は当たらない。
その時だった…
「弾コはな、当てようとしたらダメだっぺさ。心を落ち着けて…」
…ふと新米の頭に父の声がよぎる。
ドドド!
いつの間にか引き金を引いていた…
その刹那…敵機はグラッと傾き…煙も吐かずに降下していく…。
そして、もう一機突っ込んでくる。
ドドド!
敵の風防付近がチカッと光った。
(外した…べか……?)
だが次の瞬間、敵機は機体を起こし、
急上昇して逃げた。
「あの四角い箱みてぇなやつ…」
ドドドドドド!
箱に弾が吸い込まれていく…
シュー!
白い煙が立ちのぼり、またも敵機は退避していく。
「何がおこってるんだべ…」
「やったな!流石だ!このままいくぞ!」
だがその瞬間…エースの目に飛び込んできたのは、真上から降下してくる敵機だった。
「マズイ!これは、、くそ!」
間に合わないのは、分かってる…
だがめいっぱい操縦桿を倒した。
「動け!頼む!」
だが、次の瞬間 敵機の翼が光った…
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次回更新は28日13時30頃を予定しております。




