第45話 不屈
─────旦那あ!!!!
「うるせぇ!生きてる!!」
左肩が焼けるように熱い。
だが……
動く。
腕も……
動く。
「新米!俺は大丈夫だ!!」
「違うべ!!前!前だべ!!」
「前……?」
白煙の向こう。
僅かに見えた。
─────油。
風防に黒い油が飛び散っている。
「クソ……発動機か!」
回転計の針が……
震えていた。
─────ガッ……ガガッ……。
今まで聞いたことのない音がする。
「旦那!また来るべ!!」
「どこだ!」
「7時!上!」
見えない。
もう……
前も……
後ろも……。
「クソがぁ!!!」
叫んだところで、聞こえるはずもない。
それでも叫んだ。
─────ドドドドドド!
頭上を二式水戦が駆け抜ける。
その直後。
─────ガガガガガ!
また機体が震えた。
「ぐっ!」
操縦桿が……
重い。
「なんだ……これ……」
右に倒す。
─────戻らない。
もう一度、力いっぱい倒す。
「戻れ!戻れってんだよ!!」
零観が、ゆっくりと左へ傾いていく。
「旦那!海近いべ!!」
白煙の隙間から……
青い海面が見えた。
近い。
近すぎる。
「新米!!機銃捨てろ!!」
「まだ撃てるべ!」
「弾がねぇだろ!!」
「機銃はあるべ!!」
「バカ野郎!!」
思わず笑った。
こんな時まで……
こいつは……。
─────ガッ……ガッ……。
発動機の音が途切れる。
「……新米。」
「なんだべ!」
「捕まってろ。」
「へ?」
スロットルを押し込む。
反応はない。
高度計を見る。
見る必要もなかった。
海面が……
もう、すぐそこまで迫っている。
機体が傾く。
風防の向こうで、海が跳ね上がる。
「新米!!頭を下げろ!!」
「旦那!?」
「早くしろ!!」
それでも背後では、
二式水戦が敵を追い散らしていた。
「本間……。」
小さく呟く。
「俺は……諦めねぇぞ。」
操縦桿を両手で握り締めた。
戻らない。
機体は傾いたまま。
海面が迫る。
あと数秒。
いや……
もう、数秒もない。
「新米!!」
「おう!!」
「─────着水するぞ!!」
─────バァン!!
左側から……
とんでもない衝撃が来た。
「ぐっ!!」
身体が前へ投げ出される!
左のフロートが……
海面に食いついた!
「上がれぇぇぇ!!」
操縦桿を腹に叩きつけるように引く。
─────バキッ!!
嫌な音。
機体が左へ引っ張られる。
「旦那ぁぁぁ!!」
海面が……
横に見えた。
─────ひっくり返る!
「この野郎ぉぉ!!」
右のフットバーを蹴り込む!
─────ザザザザザザザッ!!
右のフロートも海面を叩いた。
一瞬……
機体が水平に戻る。
だが……
─────ガン!
もう一度、左に持っていかれる。
「止まれ!!止まれぇぇぇ!!」
─────ザァァァァァァ……
…………。
……。
「…………。」
波の音。
それしか……
聞こえない。
発動機も……
機銃も……
何も聞こえない。
「…………新米。」
返事がない。
「おい。」
振り返る。
後席で……
新米が俯いている。
「新米!!」
身体を捻る。
「おい!!返事しろ!!」
「…………。」
「新米!!」
ゆっくり……顔が上がった。
「…………旦那。」
「……なんだ。」
「おらの機銃……。」
「は?」
新米が後ろを指差す。
「曲がっちまったべ……。」
「…………。」
「これ……チーフに怒られるべか?」
「…………バカ野郎。」
力が抜けた。
「生きて帰ってから心配しろ。」
その時だった。
─────ブォォォォォォ……。
遠くから……
聞き慣れた音。
いや。
聞き慣れたくもない音。
新米と同時に空を見上げる。
「……旦那。」
「ああ……。」
白煙を吐く零観の上空。
旋回する二式水戦。
その……
さらに上。
黒い点が……
一つ…二つ…三つ。
「まだ……来るのかよ。」
機銃を見る。
弾はない。
発動機は止まっている。
左のフロートから……
ゆっくり海水が入り始めている。
逃げることも……
戦うことも出来ない。
「旦那……。」
「なんだ。」
「どうするべ?」
「…………。」
空を見上げた。
二式水戦が一機。
敵は……三機。
「決まってんだろ。」
拳銃を抜いた。
生き残るんだよ─────
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次回公開日は
10月10日(土)の予定です。




