第42話 残刻
───最悪だ。
昨日のことを思い出すだけで、
まだ口の中にいるような気がする……。
隣では、新米が朝食の芋を頬張っている。
「旦那!うまかったべか?」
「その話は…するな!」
ただ…今はそれどころではない。
晩に出撃した、田中一飛曹のペアが
帰ってきていない。
「そろそろ日の出か…。」
苦虫を噛み潰したような表情で
チーフが入ってきた。
「チーフどうですか?出た方がいいかな?」
「アカンやろ…もう、この時間は…。
ボンのように入江に待機してるかもしれんしな。」
でも…今、帰還しなければ…
定期便が来る時刻になる。
「野田大尉の所に行ってくる!」
チーフが、俺の肩を…ぐっと掴んだ。
「アホ!今、上がったらアカン!
ボンは確かに凄腕や!でもなぁ…
無理はアカン!」
チーフの手を振りほどき
野田大尉の元へ向かった。
─────捜索ですか?
「はい。」
「……もうすぐ定期便が来ます。」
「分かっています。」
「大尉が上がれば、基地の防空が一枚減る。」
「分かっています。」
「それでも行くと?」
「……まだ、生きているかもしれません。」
窓の外では朝日が昇ろうとしていた。
「……日の出から三十分。」
「!!」
「それ以上は出せません。必ず戻ってください。」
「了解!!」
走って機体へ向かう。
生きてて欲しい…不時着でもいい…。
無我夢中で走った。
ふと機体を見ると…
エンジンが回っている!?
新米が後部機銃の確認をしている!?
整備員が最終確認をしている!?
呆然と眺めていると…肩を掴まれた。
「どうせ行くんやろ?準備はOKや!
ただなぁ…帰ってこいや!」
「……ありがとう!」
零観に飛び乗る。
「新米!三十分だ!」
「了解だべ!!」
まだ暗い水面を零観が滑るように動き出す。
「絶対に見つける!」
零観が力強く水面を蹴った。
─────どこだ!!
目を皿のようにして周囲を見渡す。
海面……
海岸線……
入江……
どこにもいない。
「新米!何か見えるか!?」
「なんも見えねぇべ!!」
くそっ……。
もう20分は経っている。
「なんで昇ってくるんだよ!もう少し寝てろ!」
空が明るくなってきた。
「旦那!泳いでるべ!」
「なに!どっちだ!!」
「9時の方角!1人!」
くそ…1人かよ!零観は…。
手を振る搭乗員の姿を捉えた!
「新米!降りるぞ!
後ろに入れられるようにしとけ!」
「了解!」
着水後、通り過ぎないように
距離を調整する。
「もうすぐだ!頑張れ!」
徐々に海面が近づく。
機首を軽く上げようとした時…
彼が海の中へ…消えた…。
─────ザバァッ!
「新米!どこだ!?」
「分かんねぇ!さっきまでいたべ!!」
エンジンを絞る。
海面には小さな波だけが揺れている。
「おい!!どこだ!!」
返事がない。
「新米!右を見ろ!俺は左を見る!」
「了解だべ!!」
頼む……
頼むから出てきてくれ……。
「旦那…。」
「どうした!」
新米の指差す先を見ると…
海面の色が真っ赤に染まっていた。
「…………戻るぞ。」
「…………。」
あと数分…
あと数分…早ければ!!
朝日に照らされながら、基地へ帰投する。
─────どうやった!?
皆が詰め寄る。
俺は首を横に振った…。
「お疲れ様やったな…。まぁ、休まんとな。」
「……ああ。」
俺は操縦席から離れようとした…。
その時────
「敵襲!!!」
見張り員の声が響いた。
「敵編隊接近中!!」
「…………。」
来やがったか……。
空を見上げる。
「新米!」
「分かってるべ!」
外しかけたゴーグルを、もう一度つけた。
回せ!!!─────
お読み下さりありがとうございます。
次回公開日は
9月29日(火)の予定です。




