第39話 余燼
────乾杯!!
定期便も来ない静かな夜だ。
だが、兵舎内は違う。
熱気に満ち溢れていた。
「野田大尉、助かりました。ありがとうございます。」
「いやいや…。お膳立てしてくれましたからね。」
全機無事…補給も完了…物資も隠せた。
「それにしても…
駆逐艦一隻で、よくこれだけ運べましたね。」
「ほんと…首の皮一枚って、感じですけどね。」
野田大尉がグッと、酒を飲み干す。
「久々に空に上がりましたよ。
やっぱり空は良いですね!」
天井を仰ぐ彼の目には何が映っているのだろう…。
「平井大尉殿、今日はお見事でした!」
二式水戦のもう1人の搭乗員…
石川少尉も酌に来てくれた。
「よくあんなに躱せますね。
秘訣とかあるんですか?」
俺はチラリと、不良少年を見た。
「秘訣はアレですね。
あいつが教えてくれるんです。」
湯呑みを掲げ、酒を飲む不良少年を指さした。
「なるほど…後席が見てるんですか!
いい連携ですね!」
「無電はさっぱりだけどね。
でも、撃つのは凄い!何度も助けられてますよ。」
昔は一人で飛んでいた…
でも今は…。
「そういえば、大尉殿の機付長が騒いでましたよ。
リベット飛ばしやがった!被弾もしとる!
ボンのやつなにやってんねん!」…って。
あれだけの弾丸を避けて帰ってきたんだから
もう少し労ってくれても…鬼だな。
そんなことを思いながら…
不良少年に目をやった。
「お前タバコも飲む気か!?
むせるぞ!やめとけ!」
新米が周りに勧められて
タバコを吸おうとしている。
あのニヤニヤした顔をしたら…
多分…吸う。
────ゲホゲホ!!
皆、大笑いだ。
「なんだべこれ! うまそうに吸ってるから、
うめぇんだかと思ったけんど……まずいべ。」
そりゃそうだ…最初は皆、そんな感じになる。
今度は肺に入れないように吸っているようだ。
「新米!肺に入れないのは煙の色で分かるぞ!
吸わないなら、他の人にあげろよ。勿体ない。」
「旦那!ちゃんと吸えるようになるべ!
待っててけろ!」
まったく…酒の次は煙草か。
どんどん悪いこと覚えやがって…。
酒と、煙草か…俺の弟もやってるのかな…。
ふと…窓の外を見てしまう。
ここで頑張ることが大切なんだよな…。
それにしても…今日は人が多いな!
そして、皆いい顔してる。
今日は大変だったからな。
「なんやボン!黄昏とるなぁ!」
「どうでした機体?なんとかなりそうですか?」
「大したことないわ。
ただなぁ…補強はしといたが、
フロートの付け根が弱なっとる。
結構、横滑りさせとるやろ?
その影響かもしれん。」
確かに…最近は横滑りを多用している。
もう少し飛び方も変えないとな…。
「ボン!お前…飛び方変えんと…
とか思ってるやろ?そんなことせんでえぇ。
変にかえると…飛んでる時のテンポ狂うやろ。
機体はなんとかしたる!
とりあえず…帰ってこいや。」
この人には頭が上がらないな。
本当に凄い人だ。
飛んでいて機体に不安を感じたことなんて
一度もない。
エンジンも、いつも仕事してくれる。
「平井大尉…ちょっといいですか?」
真顔の野田大尉に外に出るよう促された。
さっきまで楽しそうにしてたのに…
どうしたのだろう?
「カイアピットが、落ちたみたいです。」
カイアピット?どこだそこ?
不思議な顔をしている俺に
野田大尉が、教えてくれた。
「ここから130キロくらい離れた場所です。」
「130キロだって!?」
野田大尉が慌てて人差し指を口に当てる。
「今、士気が上がってるので…。
ただ、平井大尉には伝えておこうと思いまして。」
130キロなんて零観で飛んでも
1時間もかからないぞ。
そんなところまで来ているのか…。
「皆には、伝わると思いますが…。
せめて今日くらいは…お願いします。」
「分かりました。」
どんな顔で戻ればいい…。
俺はすぐに顔に出るからな。
少し歩き…砂浜に座った。
空を見上げるとたくさんの星が瞬いている。
「本間…俺たち…なんとかなるかなぁ。
一生懸命飛んでるんだけどなぁ…。」
────流れ星が一瞬…横切った。
「そっか!いけるか!頑張るよ!」
ありがとう…本間────
お読み下さりありがとうございます。
次回公開日は
9月20日(土)の予定です。




