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『在りし日の空 』~南方無人島の独立飛行隊 零式観測機で 斯く戦えり~  作者: ともぞう


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第38話 再翔

 ────生真面目に毎日来やがって!



 雲の切れ間に敵が一瞬見えた。


 今日はいつもより早いお出ましだ。


 だが…今、基地に行かれては困る。



「新米!かつお節だ!」



「樽っこじゃなくて良がったべ!」



 下は雲に覆われているが…



 タイミング的には…今!



 目の前の青空が反転し、雲海が広がる。



 次の瞬間…




 何も見えない。




 翼端すら消えた。



 ただ真っ白な世界だけが、



 機体の周りを流れていく。



 風防を水滴が叩き…



 速度計の針はすでに振り切っている。



 そして…


 ひとすじの光が見えた。




「新米!抜けるぞ!気合入れろ!!」




 パッと広がる海面…。


 そして…




 ────敵!




「頭の奴から喰うぞ!!」



 無数のかつお節が平然と飛んでいる。


 機体から嫌な振動を感じる…が…



「喰らえ!!」



 ドドドドドドドドド!!



 編隊の中を突っ切る。



「敵バラけたべ!!!」



 機体をゆっくりと引き起こし


 上昇に移る。




「どうだ?敵は??」



「モテる男はつれぇだべなぁ…

 みんな追っかけて来てんだもの。」




 後ろから新米の笑い声が聞こえる。


 まったく…。




「高度、取るまでもちそうか?」




「無理だべ!距離400!急速接近…

 まずは5時!7時、8時の順……来る!」




 その瞬間、ラダーを蹴り飛ばす。


 光の束が追いかけてくる。




 ドド…ドド…ドド!




 短い連射音が後ろから聞こえてきた。



「牽制してる…まだ遠いんだな。」




 ドドドドドドドドド!




 新米が撃ち始めた瞬間、機体を捻る。



「旦那!すんげぇ数来てるべ!

 どうするだ?これ?」



「そんなの知るか!ここで引きつけるんだよ!」



 敵に追い回されながらも、


 零観は、木の葉のように舞う。



「旦那!そんなに動いたら当てられねぇべ!」



「バカ!こっちが当たっちまう!」



 ふと…笑みがこぼれた。


 なんだ…余裕あるじゃないか…俺。




「7時深い!上から被られ始めたべ!!」




 もう上取られたか…。




「海面まで下がるぞ!!」




「んだ!前に回り込もうとしてるのがおるべ!」




「了解!!」



 敵の一撃を躱し、一気に降下する。




「…これは…何個か…弾けるな…。」




 海面ギリギリで引き起こすと


 嫌な音が聞こえてきた。



────パン…パパン!



「リベット飛ばすとチーフに怒られるべ…これ。」



「うるせぇー!これは、許容範囲だ!」



「絶対ダメなやつだべ!」



 新米の笑い声が聞こえる。


 戦ってるんだか、漫才やってるんだか…。




 ────ガン!




「胴体に被弾!まだいけるべ!」



「おうよ!」



 海面がキラキラと輝いている。



「8時深め…来るべ!!」



 ラダーを蹴る。



 直後、さっきまで機体がいた場所に



 水飛沫が上がった。



 右へ…左へ…。



 白い飛沫が機体の周囲を覆う。



「こりゃ、頭上げたら殺られるな。」



 時折、フロートが水面を叩く。



「うわぁー!来たべー!」



 ラダーを蹴る!



 だが、水飛沫は上がらない。



 後ろを振り返ると…




 煙を吐いて海面に落ちる敵…。




 その後ろでも…敵が落ちていく。



 頭上を…



 翼を振りながら上昇していく機体が見える。




「1枚羽が来ただー!」




 バカ…それは二式水戦だよ。




「旦那!今だべ!!」



 一気に操縦桿を引きつける!



 零観は跳ね上がり海面から離れていく。




「乱戦だな…。」




 高度を取りたいのだが…



「4時!1枚羽が追われてるべ!!」




 機体を反転させ、援護に入る。



 だが…遅い…。



「6時!急接近!浅いべ!!」



 こんな時に…



「来るんじゃねぇ!」



 機体を滑らせ避けるだけにする。



 援護に入りたいが…なかなか追いつけない。



 速度計を見ると振り切っている。



 前方に目を移した、その瞬間…



 二式水戦がひらりと舞った。



「無茶だ!この高度で捻り込みは!!」



 だが、二式水戦はクルッと回り込むと



 簡単に後ろを取ってしまった。



「捻り込みじゃない…何をした??」



 かつお節が、煙を吐いて海面に突っ込む。



「新米!敵は!!」



「離れて行くべなぁ。」



「どっちに向かってる!基地か!?」



「たぶん…違う?べな?たぶん。

 グルグル回り過ぎて…分からんべ!」



「そうだな。そうなるよな。」



 とりあえず高度を上げる。



「7時、1枚羽二機接近。」



「了解!」



 それにしても…


 二機しかない二式水戦を


 全部上げたのか…。



 二式水戦が横に並ぶ。



 操縦席を見ると…


 搭乗員が笑顔でガッツポーズをしている。



 ────野田大尉!?



 落ち着いた感じのイメージだったが…。



 三機で編隊を組む。




「飛ばしたくても…飛ばせない…か…。」




 眼下には、静かな海が広がっている。


 さっきまでの騒ぎが嘘のようだった。


 横を見る。



 彼はまだ笑っていた。

 そして、しきりにガッツポーズを見せる。



 ……なるほど。



 俺は少し、この男を見誤っていたらしい。



「新米!」


「なんだべ?」


「帰るぞ。」


「んだ!」


 機首を基地へ向ける。



 ────基地の上空では



 二機の零観が旋回している。



 着水姿勢に入ると、



 別の二機の零観が滑水を始めた。



「全力出撃だな。」



 浜にはまだ物資が残っていた。




 着水し…補給して…また上がる…。




 日が海に沈もうと赤々と燃えている。



 だがその日…



 敵は来なかった────





お読み下さりありがとうございます。


次回公開日は


9月15日(火)の予定です。


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