第36話 夜航
お読み頂きありがとうございます。
次回公開日は
9月8日(火)13:30となります。
────大尉お願いします!
野田大尉にお願いされ、
今日は護衛の任務につく。
深夜の空は、
昼間の騒がしさが嘘のように静かだった。
雲の切れ間から、
淡い月明かりが海面へ落ちている。
波は黒い絹のように揺らめき、
翼の下をゆっくりと流れていった。
エンジンの音だけが、
夜の底で低く唸っている。
地上の灯りは、もう見えない。
機体は風を掴み、暗闇の中を滑っていく。
「旦那ァ…海面見てればいいんだべなぁ??」
「あぁ、何か発見したら教えてくれ。」
夜間…
大発(大発動艇)や小型艇による輸送…
量は少ないが、
貴重な物資を運んでくれている。
だが…最近は、
被害が急増して届かない事が多い。
今回は、必ず成功させなくては…。
「敵を圧倒できるのは、大尉しかいないんです。
大尉…お願いいたします。」
野田大尉は、俺たちに出撃を命じた。
「とりあえず大発を探さないとな。」
「こんな真っ暗でねぇと、
喰われちまうんだべか?」
「暗くても狙ってる奴らがいるんだよ。」
海面を凝視する。
この辺りを航行しているはずなのだが…。
まずは大発を…
「旦那?変な事聞いてもいいべか?」
「……?何だ?」
「海の上で…不規則に瞬くべか??」
「……??何言ってるんだお前?
日本語が変だぞ。」
「10時方向…下で何か、瞬いたべ。」
緩やかに機体を降下させていく。
「あ!また光ったべ…。なんだべな?あれ?」
俺には、まったく見えない。
新米だけが頼りだ。
「旦那、見えねんだべか?
…うっすら見えてきたども。」
「まったく見えん!!」
新米の言う方向に降下しているが…
操縦桿が重い。
もう500キロは出ている。
「あっ!光った…光ったな!!」
「それだべ。なんだべな??」
「新米!後ろ向け!戦うぞ!」
「……?了解だべ。」
あれは排気炎だ…
間違いない。
速度530…
そろそろ…危険だな。
リベットを飛ばすワケにもいかないし…。
────見えた!
P38か…。
やるなら…上面…エンジン付近…だったよな。
速度550…
もうちょっと…頑張ってくれ。
もうちょっと…。
「一撃かける!右発動機!
ダメだったらお前が仕留めろ!」
「んだ!!」
速度570…振動が出始めた…だが…
────照準眼鏡に捉えた。
ドドドド…ドドドド!!
機体を傾けながら
操縦桿を軽く引き付ける。
新米が撃ち始める!
ドド、ドド、ドド…!
「かつお節だべ!!煙さ吹いて降下してくべ!」
まったく…
メザシって皆呼んでるみたいだが…
俺たちは、かつお節…か。
右エンジンから、炎が上がる。
その光が海面を照らした…その時…
下方に船影が見えた。
「あんなとこにいたのかよ…。」
「旦那!4時下方なんか咲いてる!!」
「ん?咲いてる??」
見ると…
空に落下傘が花開いている。
「あれは、敵の落下傘だ。脱出したな。」
「上から見だことねぇから…綺麗だべなぁ!」
敵の機体が海に突っ込むと…
また…空には漆黒の闇が広がる。
月明かりだけが
海面を照らしていた。
「この距離なら、もう一晩必要…か…。」
無事に着いて欲しいのだが…。
「周囲を警戒しろ!まだいるかもしれん!」
「了解だべ!!」
…だが、この日はそれ以上敵は来なかった。
────翌日
俺たちはまた…
漆黒の闇が支配する空にいた。
今日は雲の位置が高い。
下にも雲が広がっている…
「今日は月明かりもねぇべ…。
船っこ…見つけられるべかな?」
「その分、大発も敵に見つかりにくい。
悪い事ばかりじゃないさ。」
そうは言ったが…
大発が見つからない。
どこだ?昼間に沈められたか?
「このままじゃ、どうにもならない。
雲の下に出るぞ!」
「了解だべ。」
雲の下は…雨が降っていた。
風防に…
雨粒が当たっては…吹き飛んでいく。
「こりゃ…無理だな。
新米!何か見えるか??」
「んー……。無理だべ。」
「分かった!雲の上で様子を見よう。」
敵も雲の下では、何もできないだろう。
もう少し経ったらもう一度雲の下に行こう。
これで状況が変わってないのなら…。
「旦那ぁ。綿あめ…いっぱいだべな!
あれ全部食べたら、お腹壊すべな!」
相変わらず呑気な事を言うなぁ。
綿あめかぁ…縁日とかで食べたっけな。
弟と二人で…。
「おい!しっかり見張れ!
…まぁ、食べたいよな。綿あめ…。」
「あれ、作れねぇべかな?九州兄貴。」
九州にか…あいつは、何でも作れそうだもんな。
「何でも九州に作らせるんじゃねぇ!
とりあえず…雲の下行くぞ。気を抜くな!」
「んだ!!」
雲の下は相変わらず荒れていた。
雨も風も強くなっている。
「これじゃ無理だな!帰投しよう。」
基地に向かって引き返す。
しばらく飛ぶと、雲が切れた。
月明かりが海を照らしている。
────旦那!航跡!!
「なんだって!?どこだ!?」
「10時下方!」
見ると波をかき分けながら、
海面を疾走する船影…。
「敵…か??」
基地まで20キロもない。
「確認するぞ!!」
翼端灯を点灯させ、船影に近づく…。
────チカ、チカチカ!
「発光信号だべ!!
…で、何て言ってるべか??」
「お前なぁ…勉強しろよ!
昨晩の…援護…感謝す。…だとさ。」
とりあえず、ギリギリまで上空を
旋回する事にした。
「大発じゃねぇ…駆逐艦かよ。」
駆逐艦が湾に入ると…
岸から発進した
大発が一斉に駆逐艦に群がる。
「アリんこが、餌に群がってるみてぇだべな。」
「餌…だからな…。俺たちの大切な…。
そろそろ俺たちも降りるぞ。燃料が少ない。」
駆逐艦を横に見ながら…着水する。
────ザァァァァ……
フロートが水面を滑る。
速度が落ちるにつれて
水を切る音も小さくなっていく。
すぐ横には…
さっきまで空から見下ろしていた駆逐艦。
その大きな船体の脇を、
零観はゆっくりと進んでいく。
発動機を絞ると…
機体は小さな波に揺られながら
浜へと向かっていった。
浜辺では…
灯火が揺らめくように光っていた────




