第33話 看破
────まわせー!!
チーフと九州が
エンジンの始動ハンドルを回し始める…
いつもの流れだ…
回す速度がどんどん早くなる…
親指を立て、チーフが叫ぶ!
「“Contact!”(コンタクト)」
エンジン始動。
浜辺に轟音が響く。
「好き勝手…させねぇ…」
スロットルを開け機体を加速させる。
浜辺からの視線を振り切るように
離水していく…。
────数時間前
「ダメです!それはできません!」
野田大尉が叫んだ。
「毎回上がっていたら…… 敵より先に、
こちらの燃料がなくなります。」
言っていることは分かる。
分かるが……。
「だから、壕に入って爆弾が落ちるのを
待っているのか?」
「……そうです。」
即答だった。
「悔しくないのか?」
「悔しいですよ。」
昨日までの柔らかい表情が消えていた。
「悔しくないわけがないでしょう。」
しばらく沈黙が続いた。
「それでも…… 飛ばせないんです。」
…………。
俺は立ち上がった。
「なら、俺たち214独飛だけで行きます。」
野田大尉も食い下がる。
「でも、燃料が…。」
「俺たちは、ちゃんと食いぶちも持ってきた。
文句はないだろう。あれは、俺たちの燃料だ。
お前達のものではない。」
「……………。」
────まったく…弱気でどうするんだよ
そう思いながら高度を上げていく。
新米はもう準備を整え始めている。
頼もしくなったもんだ…。
「新米!今日は高度上げるから酸素マスク付けるぞ。」
「了解だべ!」
基地から距離を取りながら上昇する。
────高度5000m
自分の酸素マスクの息使いが聞こえる。
下をみると…攻撃は始まっていた。
基地を銃撃する…敵。
「なんか…樽に翼生えたような敵だべなぁ」
新米が笑う。
また新しい敵か…こいつは…「樽」…かな。
新米が名付けるなら…。
そんな事を考えながら、旋回しつつ敵を見る…
硬そうだ…。
だが…重そうだな…機動が悪い。
周囲を確認する…
俺たちより、高度が高い敵はいない。
徐々に高度を落としていく。
「いっちょいくか!とりあえず発動機付近…
そこら辺が狙い目だな!いくぞ!!」
まずは強そうな奴から…
一気に降下する。
丁度、相手は引き起こした直後…
「これで、どうだ!!」
ドドドドド!
煙は出ている!…でも、落ちはしない。
一旦機体を引き上げる。
「旦那!8時下方から突き上げ!」
ラダーを蹴り…軽くロールさせる。
「新米!他は?」
「着いてきてるのは、一機のみ!」
「わかった!」
案の定…敵はオーバーシュートした。
「狙っても…いいよね…」
敵に銃弾を叩き込む!
煙は出る…煙は…。
「火は吹かねーな!それにしても…」
敵の機体は凄い!
俺達なら、火を吹いて落ちている…。
そして、発動機付近以外に当たった弾は…
意味を成さない。
「7時、5時、深い!来るべ!」
新米が撃ち始める…。
後ろを軽くみると7時方向に曳光弾が走る。
7時狙ってるのか…それなら!
左のラダーを蹴り、操縦桿を引きつける
「新米!やれ!!」
新米の銃弾が敵に突き刺さる…
だが…まったく効いていない。
「旦那!ダメだべ!かつお節とは違うべな!」
機体上面は硬い…か…。
「旦那!今日の敵…遠くから撃ってくるべなぁ。」
そう、今日の敵は射撃が下手だ。
遠くから撃ち始める…射線が読める。
故に余裕がある。
「旦那…風車の真ん中って、装甲あるんだべか?」
か、風車…
多分プロペラのことかな?
あのデカい風車の奥は発動機だが…。
「お前が狙えるまで、引きつけるのは無理だぞ!
こっちがやられちまう。ただ…
風車の真ん中…辺りに当てられれば、
効果あるかもな!」
「わがった!やってみるべ!」
俺はカウルフラップ辺りを狙うしか
相手にダメージを与えられない。
でも、新米なら…。
左下方で基地を銃撃している敵が
腹をみせながら上昇した。
「正気か?アイツ…敵に腹みせるとか…。」
少し遠いが射撃してみる。
────ドドド、ドドドドドドド!!
「あ、偏差間違えた…。」
弾丸はエンジンではなく…
胴体後部に吸い込まれていく。
「やっちまったなぁ…せっかくの好機だったのに…」
────ボッ!!!
いきなり炎が上がる!
「え、えぇー!」
「旦那!何やったべ!火吹いたべな!!」
なんだ、何が起こった??
アイツもしかして…
「新米!アイツは腹の下…翼の付け根より
後ろが弱点かもしれん!」
「わがった!…8時上方浅め…来る!」
相変わらず遠くから射撃してくる。
射線をかわし、周囲を確認する。
「やる気ないのか?消極的だな。」
後ろをみると…
新米の放った銃弾が風車付近に着弾している。
────ブファ!
敵が煙を吐いた!
そして焦った敵が
機体を引き起こし腹をみせた、その時…
新米の銃弾が機体後部に吸い込まれた。
────ボッ!!
「樽っころ!やったべー!!!」
あの瞬間に正確に撃ち込めるもんなのか?
どんな動体視力してるんだ…まったく。
「敵…引いてくだべなぁ。」
「俺らも1回この上空から離脱する。」
「なんでだべ??」
「着水狙って来るヤツがいるかもしれないからな。」
────少し飛ぶと…
小さな入江のある島が見えた。
「新米!後ろから来てるか??」
「おらんだべ!」
「よし!あそこに降りるぞ!!」
島へ近づく。
上空を一周しながら
入江の中を確認する。
波はほとんどない。
周囲に人影も見えない。
「新米!着水するぞ!」
「了解だべ!」
スロットルを絞る。
さっきまで唸りを上げていた
発動機の音が少しずつ静かになっていく。
木々に囲まれた小さな入江。
水面は穏やかで…
空の色をそのまま映していた。
「……いい場所だな。」
機体を大きく旋回させ 入江へ向ける。
高度……10メートル。
5メートル……。
水面がすぐそこまで迫る。
操縦桿を少し引く。
────ザァァァァ!
フロートが水面を撫でる。
一度だけ軽く跳ねた。
白い飛沫を左右に上げながら水面を滑っていく。
「あそこなら上からでも見えにくそうだな。」
木々がせり出してる浜に向ける。
速度が落ちるにつれて飛沫も小さくなり……
やがて止まった。
発動機を切る。
────カラ……カラ……
プロペラがゆっくりと回り……止まる。
急に静かになった。
聞こえるのは…
フロートに当たる小さな波の音だけ。
ついさっきまで何十機もの
敵の中にいたとは思えない。
「静かだべなぁ……。」
「あぁ……。」
「新米、弾は?」
「結構使ったべ。あとで数えでみるべな。」
「そうか……。」
機体の横から水面を覗き込む。
何事もなかったように、小さな波が揺れている。
「……樽っころ、硬かったべなぁ。」
後ろから新米の声がした。
「…………。」
思わず笑ってしまった。
「お前……もう『樽っころ』で決定なのか?」
「樽っころ以外に見えねぇべ。」
「……そうかよ。」
樽っころは…硬かった。
発動機周辺なら煙を吐いた。
そして……腹。
翼の付け根より後ろに弾が入った瞬間
あいつは炎を噴いた。
「…………。」
「旦那?どうしたべ?」
「樽っころだが…腹が弱そうなのは
分かったけどさ…。
普通に戦っていたら、あんなとこを
撃たせてくれないなぁ…って、思ってさ。
新米は、どうなんだ?なんか分かったか?」
「オラは風車周りだべな!
風車の下側さ当だった時に、煙吹いただ!
他は、ダメだべ…」
もう一度、空を見る。
敵影はない。
「少し休むぞ。」
「んだ!」
新米が後席で大きく伸びをする。
「なんか…前にいたとこみてぇだべな……。」
「そうだな…。退避する時はここを使うか!」
「んだ!!!…そうだべ!旦那…これ食べるべか?」
出撃前に九州が持たせてくれた
稲荷寿司を見せてくる。
「俺はいい。お前が食べろ…。」
機体は小さな波に揺られながら
入江の中をゆっくり漂っていた────
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は8月29日(土)
13:30頃を予定しております。




