第30話 継承
───翌朝
昨日の夜は…激戦だった。
それでも…
今日も、俺たちは海に向かう。
海の中に沈んでいる
あるものを引き上げるためだ。
「……チーフ、本当にやるんだべか?」
新米が海を見ながら言う。
「このままにしとったら、どんどん腐食するやろ。」
チーフが腕を組んで答えた。
「でも、結構深いべな。」
「せやから、みんなでやるんや。」
「俺は?」
俺が聞くと、チーフは即答した。
「ボンは上で待機や。」
「……。」
「なんや、その顔は。」
「俺も潜る!」
「やめとき。」
「なんでだよ!」
「昨日カニから逃げとったやろ。」
「カニと海は関係ないだろ!」
「関係あるがな。」
「ない!」
「あるたい。」
「あるべな!」
「……お前らまで。」
俺はため息をついた。
海面は穏やかだ…
この下に、玉田の二式水戦が沈んでいる。
あいつが乗っていた機体だ。
「……引き上げよう。」
俺は海を見ながら言った。
「使えるものは、全部使う。」
「そうやな。」
チーフが頷く。
「物資も少ない。あの機体から使えるもんが
出てくれば助かる。それに……リベットも欲しい。」
「玉田少尉も喜ぶべ。」
「そうたい。」
九州が静かに笑った。
「……そうだな。」
俺たちは準備を始めた。
巻き上げ機の先に
ロープを括りつける。
そのまま砂浜へ向かう。
「よし、いくで。」
「おう。」
「任せんしゃい。」
「分かったべ。」
砂浜に3人が並ぶ。
3人の荒鷲が…って……あれ?
「……新米…お前…身体の傷…凄いな…
やたらイカついし。」
いつも真っ暗で気が付かなかったが…
「山でイノシシさ…突っ込まれだり、
谷に落っこっちまったり、
熊に引っかかれた事もあんだべ…
死ぬかとおもったけんど。
まぁ、獲物さ狩っだら麓まで担いで降りるべ。
結構重いんだべよ。」
そうか…山で鍛えられてるのか…
着痩せか…?
隣を見ると…九州もイカつい。
…整備で鍛えられてるもんな…。
それに比べると…俺は…。
屈強な男2人と…んー…
「旦那ァ…なにジロジロ見てるんだべ?
ま、まさか…!?ハレンチだべ!!」
「んな訳あるか!
どうやって引き上げるか考えてたんだよ!」
全く…困ったやつだ…。
玉田にまた会ったら
変な事を吹き込まないように
釘を刺さねば!
また…会ったら…か……。
3人で水没地点付近まで泳ぐ。
泳ぎの上手い九州が先に潜った。
「……あったたい。」
九州が顔を出す。
「どんな感じなんだ?」
「多少はバラバラになっとるけん、
部品は回収できそうやね。」
「よし。」
俺たちも潜る。
エンジンは爆発で吹き飛んでいた。
左翼も、衝撃で胴体から折れている。
だが、胴体と右翼はまだ形を留めていた。
何度も潜る。
何度も浮かび上がる。
「九州、そこ!」
「分かっとるたい!」
「新米、そっち持って!」
「今やってるべ!」
やがてロープを巻き終えると
浜辺のチーフに合図を送った。
チーフが巻き上げ機のスイッチを入れる。
……動かない。
「重いな……」
「砂に食い込んどるたい……重か。」
ロープが切れないか、少し不安になる。
それでも、機体は少しずつ動き始めた。
「動いたべ!」
「もっとたい!」
少しずつ…少しずつ…
機体は砂浜へ近づいていく。
適度に引き上げたところで
ロープを外し、また戻る。
その繰り返しだ。
水面に、顔を出すか出さないかのところで見えた。
────二式水上戦闘機。
玉田が乗っていた機体。
フロートには大きな穴が開いていた。
だから沈んだのだろう。
「……玉田。」
思わず呟く。
「お前の機体、使わせてもらうぞ。」
「ボン……。」
「なんだ。」
「玉田も、きっと喜んどるで。」
「……そうだな。」
俺は機体に手を置いた。
それから、ひとつずつ確認していく。
「これは使える!」
チーフが声を上げた。
「何が?」
「工具や!」
「工具かよ!」
「工具は大事やで!」
九州が点検ハッチを開ける。
「こっちは無線機が……駄目たい。」
「使えないのか?」
「水に浸かっとるけんね。」
「じゃあ、これは?」
「……使えそうたい。」
「何だ?」
「食料。」
「食料!?」
四人の目が一気に輝く。
「玉田……。」
「なんや?」
「あいつ、こんなところに食料を隠してたのか。」
「違うやろ。」
「でも、食料たい。」
「そうやな。」
「なら、ありがたくいただくべ。」
「……お前ら。」
思わず笑ってしまった。
玉田の機体から出てきたものだ。
大切に使おう。
「せやな。」
「んだ。」
「そうたい。」
俺たちは、
使えるものをひとつずつ取り出していった。
機体はもう飛べない。
でも…その機体はまだ…
俺たちの役に立っている。
そして、また戦うために。
────その日の夕方
「このリベットは使えるのか?」
倉庫で部品を整理しているチーフに尋ねる。
チーフは首を横に振りながら…
「甘かったわ……これ、沈頭鋲やねん。」
「沈頭鋲?」
チーフは翼の一部を撫でながら続けた。
「凹凸が無いやろ。
うちらのはボコボコしとる。
空気抵抗を減らすために、
鋲の頭を潰しとんねん。
零観のは丸鋲がメインやな。
一部は使えそうやけどな。」
「へぇ……じゃあ、リベットは無理か」
チーフがニヤリ…としながら
翼を撫で回す。
「この外板なぁ、えぇジュラルミン使うとるで!」
「それは?いったい…??」
「簡単に言うたら…めっちゃ硬いねん!
補強材に使うなら、問題無しや!
ホンマやったら、焼きなましして…
加工して使いたいねんけどな…。
ま、設備ないから無理やろな。」
専門的用語が多過ぎで…
焼きなまし??…なんだそれは??
「焼きなましっちゅうてな、
一度熱入れて、加工しやすいようにすることや。
このままやと硬すぎんねん。」
整備士というより…
鍛治職人みたいだな。
「ただなぁ…全部は使えへん。
二式水戦の胴体とか…めっちゃ薄いねん。
リベット止める時の補強材にでも…
せやけど…腐食するでなぁ。油脂も塗らな…」
この人がいるから…
俺はこんなとこでも
飛べているんだ。
そんな事を考えていると…
「なぁ。」
チーフが言った。
「今日、魚あるで。」
「昨日の残りか?」
「せや。」
「カニもある!」
「おう!」
「じゃあ、
今日は玉田の機体から出てきた食料も使おう。」
「豪華やな!」
「豪華だ!」
「九州に頼んどくわ!豪勢にいこうや!ってな。」
俺たちは笑った。
戦いは続いている。
明日も、戦いがあるかもしれない。
それでも今夜は、腹いっぱい食べよう。
玉田が残してくれたものも…
昨日獲った魚も…
全部大切に使おう。
そして、また明日も生きよう。
玉田…ありがとう。
お前の機体は…
まだ俺たちと一緒にいる────
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は8月22日(土)
13:30頃を予定しております。




