第27話 残影
────数日後
写真館の方が
写真を持ってきてくれた。
「おい!本間!お前…なんて顔で写ってるんだ!?」
鬼の形相で
睨んでいる本間がいた。
「いや!小隊長殿!この方が男前ですよ!」
古川一飛曹が笑いながら
本間の肩を叩く。
だが、本間は…そわそわと…
どこかに行こうとする…
「本間どうした?どこに行く?」
「これば、お父さんとお母さんさ
送ろうと思ってて…」
古川一飛曹が強く肩を掴む…
「本間…検閲ってのがあってな。
そのまま送ったら…
一生…親御さんのとこには…届かない。」
本間が泣きそうな顔になる…
「写真なんて撮ってもらったことねがら…
お父さんとお母さんさ送りてぇんです…。」
古川一飛曹は
強く本間を抱きながら
本間の耳元で…囁いた…。
「任せろ!やり方はいくらでも…ある。
…とりあえず、親御さんの住所を
封筒に書いてもってこい。」
本間が凄い勢いで走っていく…。
しばらくすると
凄い勢いで戻ってきた。
「い、一飛曹殿…こ、これ…。」
よっぽど急いでいたのか…息も絶え絶えだ。
古川一飛曹は
それを受け取ると…
「小隊長殿!これから古川は周囲偵察に
行ってまいります!
多少遅れるかもしれませんが…。」
「許可する!全力で行ってこい!」
古川一飛曹は笑顔で敬礼すると
本間に写真を渡した。
「これ!一飛曹がもらった写真でねが…これは…」
「これはお前の記念品だ…手放すな。」
そう言うと…
本間から渡された
封筒と写真を持って…
救護所へ消えていった。
───翌日…早朝…
搭乗員割を見に
黒板へ。
ふと見ると古川一飛曹もいた。
「小隊長殿…今日も出撃ですな!」
「あぁ、そうだな!よろしく頼むよ!」
そこに…眠たそうな眼で
本間が現れた。
「おはようございまず!
今日も飛ぶんだべな!がんばるじゃー!」
「気張り過ぎるな!落ち着いていけ!」
本間がモジモジしながら…
「あのぉ……写真のほう、どうなったんずが?」
「負傷して内地に帰るやつに持たせた。
これなら検閲はないしな。
向こうに行ってから投函するように頼んでおいた。」
「古川一飛曹………。」
本間が泣きそうだ。
「とりあえず!まずは作戦に集中だ!
気合い入れていくぞ!!」
────高度1500m
3機で編隊を組む。
右を見ると…
本間が何か食べている。
喉につかえたのか…
慌てて水筒の水を飲んでいる。
相変わらず…呑気なやつだ。
左を見た…
古川一飛曹の発動機から
薄く煙が出ている。
古川一飛曹も気にしているようだ。
手信号で「帰れ」と伝える。
最初は首を横に振っていたが…
煙の色が濃くなってきた。
再度「帰れ」と伝える。
古川一飛曹が
本間の横に並んだ。
何か伝えているようだが…
本間が大きく翼を振ると
古川一飛曹は飛び去っていった。
しばらく飛ぶと
雲が広がってきた。
今日は雲が多い…厄介だな…
そんなことを考えていた時…
後ろから曳光弾が飛んできた。
離れた位置だったが…
慌てて後ろをみる。
本間が斜め後方を指さしながら
バンクしている。
……敵だ!
慌ててバンクしながら編隊の前に出る。
編隊長も気がついたようだ。
敵が降下して攻撃しようとしている。
「くそっ!後手に回った…」
何とか旋回して
相手に向き合おうとするが…
攻撃は始まっていた。
曳光弾が機体の周りを飛び交う。
「まずいな……」
何とか…かわし切れたが…。
チラッと後方を見ると
本間がきっちりついてきていた。
「おお!あの乱戦でついてきたか…腕を上げたなぁ」
そんなことを思っていると…
目の前で、敵に追われている味方機が目に入った。
一瞬だけ…周囲を確認する。
「…………よし!」
俺は前方の敵機に照準を合わせ…引き金を絞る。
曳光弾が空を裂き、敵機の胴体に食い込んだ。
「落ちろ……!」
炎を噴いた機体が、ゆっくりと傾く。
これで六機目だ。
胸の奥が熱くなった、その瞬間だった。
落ちていく敵を眺め余韻に浸ってしまった…
────浸ってはいけないのに…
後ろを見ると、本間がガッツポーズをしながら
無邪気にバンクしていた…
その視線の先に……敵…
「後ろだ、後ろを見ろ!」
俺の表情に気がついたのか
本間も後ろを振り返る。
振り返った視界の端に、黒い影が滑り込む。
急旋回しながら振り返ると
本間機が曳光弾に包まれていた…
「本間!死ぬ気で操縦桿を引き続けろー!!!」
急旋回しながら本間機が
何とかそこから抜け出してくる!
煙も炎も噴いてない!
「よく避けた本間!!」
九六式艦戦はよく曲がる…
アッという間に敵の後ろに回り込んだ。
「お礼参りだ…覚悟しろ!」
俺は敵機を追い、引き金を引いた。
7機目が…落ちていく。
直ぐに周囲を見渡す。
さっきは余韻に浸り…これを忘れていた。
そこで、本間機が後ろに…
いないことに気がついた。
戦闘は遠くの方で行われているようだ…
下を見ると…
よろよろと飛んでいる味方機がいる…
周りには敵も味方もいない。
それを確認して…
よろめくように飛んでいる
味方機に近づいた…。
──── そして
俺は…言葉を…失った…
風防が破壊され…
操縦席周りには無数の弾痕…
そして…
血まみれの本間三飛曹…
必死になって操縦している。
「本間!しっかりしろ!」
聞こえるわけはないが…叫んでいた。
本間がこちらを向いて
笑顔で力なく腕を掲げる。
「俺が、俺が…気を抜いたばっかりに…」
出血で意識を保つのが辛いのか…
頭を何度も振りながら飛んでいる。
「基地まであと少しだ!頑張れ!!」
寄り添う事しかできない…
機体がよろめくように降下し始めた…
本間の顔が俯いている。
「ダメだー!」
俺は咄嗟に自分の機体の翼で
本間の機体の翼を叩いた!
────ガン!
衝撃で本間が目を覚ます!
「寝るな!寝るな!気合いだ!!」
しばらくするとまた降下し始める…
────ガン!
これを何度も繰り返した。
あと5分も飛べば
基地が見えるところまできた。
あと少しだ…
あと少しで基地が見える。
なのに…その少しが…もどかしい…
──── その時
本間が…顔をこちらに…向けた…
たぶん…笑顔……だったと…思う…
腕を上げたように…見えた…
次の瞬間、ガクッと頭が下がった。
慌てて翼を当てようとしたが…
すり抜けた…
機体がどんどん地上に吸い込まれていく…
「 本間!引き起こせ!引き起こすんだ!
貴様!それでも帝国海軍軍人かぁぁ! 」
────次の瞬間…
機体が地上に激突し…炎上した。
燃え上がる機体を…ただ呆然と眺めていた…。
「もしかしたら、衝撃で機外に…
投げ出されているかもしれない……。」
そう考えて慌てて基地に戻る…
そう考える事しか…出来なかった…。
基地に着陸すると、直ぐに古川一飛曹が走ってくる。
「本間は?どこに?」
「…………。基地近くに墜落した!捜索にいく!」
「わかりました!」
そう言うと近くの整備兵に何かを話している。
「小隊長殿はそこに居てください!」
しばらくすると側車付きのバイクで
古川一飛曹が現れた。
「小隊長殿!乗ってください!飛ばしますよ!」
本間の機体は衝突でバラバラになっていた。
────そこからはあまり覚えていない。
遺品を回収し…基地に戻り…報告した。
遺品を置こうとした時、遺品の中から…
何故かボタンが1つ転がって足に当たった。
「本間のやろう…まだ小隊長殿に甘えてますな!
いつもベッタリでしたから…。」
俺も…古川一飛曹も…泣いた。
悔しかった…護ってあげられなかった…
「このボタン…貰っても大丈夫だろうか…。」
「本間も喜ぶと思います…。」
────ポケットから
1つのボタンを取り出して
チーフにみせる。
「これがあるから、
あいつの分も生きなきゃいけないし…
あいつの分も落とさなきゃいけないんです。」
気がつくと…
だいぶ暗くなってきていた。
「気持ちは、分かったで…せやけどなぁ…
無理はアカン。無理はな。」
「了解です…。」
九州と新米が鍋を抱えて入ってくる。
「今日は、おらが味付けしたべなぁ!食ってけろ!」
「お前味付け出来るのかよ!?
九州、味の方は…大丈夫だよな!?」
「……食べたけんって死ぬことはなかですよ。」
「九州兄貴ぃ…ひでぇべー!
まごころ込めで作っだのに!」
「おっ!まごころが調味料かぁ…
これは胸焼けするかもしれへんなぁ!」
皆で笑いながら食事の準備をする。
そして…
そっと…ボタンをポケットにしまった────
お読みいただきありがとうございます。
次回、第28話は
8月15日(土)12:00公開予定です。
追悼の祈りを込めて…




