第26話 回想
────しっかり狙え!!
1937年秋…中国戦線…
俺は操縦席から叫んでいた。
3番機の本間三飛曹が敵を追っている。
何度か射撃しているが…
敵を捉えられない。
「偏差!…偏差射撃だ!前を狙え!」
叫んでも届く事はないのだが…
俺の後ろにはベテランの古川一飛曹が
後方を固めてくれている。
やっと…
敵に命中弾が入る。
グラっと傾き…炎を上げて落ちていく。
「何発撃ってるんだ…
こりゃ…叱られるな古川一飛曹に…」
翼を大きく振りながら
本間三飛曹が近づいてくる…
ロールするのか??
と、いうくらい翼を振っている。
興奮しているんだろう…
本間の顔も真っ赤だ。
「よし帰るぞ!ついてこい!!」
俺も翼を振る。
96式艦上戦闘機は素晴らしい。
素直で、どんな機動も思いのままだ!
俺は惚れ込んでいた。
本間を見ると…何かを食べている。
多分…出撃前に貰った稲荷だろう…。
しかし、良く食うやつだ…
暇さえあれば何か食っている。
横を見ると古川一飛曹が
後方を警戒している。
流石………抜かりなし…か。
基地に着陸すると
本間が走ってきた。
「小隊長!落どしました!落どしましたよ!
見でらったんずが!?」
「見てた!見てたよ!!単独撃墜1だ!」
本間が飛び跳ねてるところに
古川一飛曹が来た…。
「浮かれるな!お前が夢中になっている間…
小隊長殿が後方を守っておられた…
敵を追う時は、後方をよく見ろ!
…と、あれだけいってるだろうが…
それに!どこを狙っている!
あれほど相手の先に撃ち込めと…教えていただろ!
小隊長殿の教えを…貴様ぁ!!……」
「まぁ、まぁ古川一飛曹…」
本間の顔が青ざめているのが分かる…。
「とりあえず、一機撃墜だ。人間失敗から学ぶ事が多い。
一機撃墜はよくやった!
でも、今後はケツも気にしろ。いいな!」
本間の顔色が戻っていく。
古川一飛曹は古参の搭乗員…
この隊でも指折りの腕利きだ。
「…話は変わりますが…小隊長殿…
単独5機目、撃墜…流石です。
兵学校卒の口だけ上官とは違いますなぁ!わははは…」
我々…兵学校卒は…すぐに上官になる。
古川一飛曹のような叩き上げの
古参からみたら腕は無いのに上官…
…という事がよくある。
故に…煙たがられる訳だが…
運良くこの出撃で5機目の撃墜…
面目躍如…というとこか。
「今日は本間の1機撃墜の祝いだ!どっかで飲むか!」
「ほんとだんずが!?うれすなぁ!」
古川一飛曹が苦笑している横で
本間が飛び跳ねている。
「とりあえず…報告行くぞ!!」
3人で報告に向かった。
────その日の夕刻
料亭には3人の姿があった。
古川一飛曹が料亭を手配してくれた。
「小隊長殿の5機目の撃墜と、本間の初撃墜に…乾杯!」
古川一飛曹は俺よりも3才以上年上だろう…
大陸では8機落としている。
新米少尉の…
俺のお守りをしてくれている。
ひとしきり酒を飲むと…
古川一飛曹が酌をしながら話しかけてきた。
「小隊長殿!じ、自分は、とても嬉しいです…
う、腕のない上官の世話ばかりしてきました…
でも小隊長殿は違う!つ、ついていきます!」
顔を見ると古川一飛曹の顔は真っ赤だ…
彼は酒には弱いらしい…。
少しすると…
「お待たせしました…木村写真館です」
「古川一飛曹…これは?」
「小隊長殿!今日は記念日ですから…
写真を撮ろうかとおもいまして!」
気を利かせてくれたのか…
ありがたいことだ。
「では、撮りますので…」
横を見ると本間が
ガチガチに固まっている…
「おい!どうした??」
「小隊長さま…写真さ撮られるど…
魂抜がれるって聞いだんずけど…
ほんとだんずが…」
おいおい…江戸時代かよ…
全く困った奴だ…
「本間、大丈夫だ!
それなら俺は何回も魂抜かれて
干からびてる!心配するな!」
「それなら、いいんずが…」
────バシャ!
「それでは後で隊にお持ちしますので」
「さて!今日は飲むぞ!
古川一飛曹もちゃんとついて来いよ!
まだまだ夜は長い!」
「小隊長…殿…も、もう…目が回ります…」
「あったげ空でクルクル回っても平気だばって…
一飛曹殿、酒はダメなんだな」
「ほ、本間ぁ…き、貴様というやつは…
明日から地獄の特訓だ!覚悟しとけ!!」
「ひーー!!!」
3人で飲み明かした…夜だった。
本当にいい思い出になった…
本当に────
【あとがき】
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は8月13日(木)
13:30頃を予定しております。




