第25話 追憶
────海面が近づいてくる。
零観は優しく着水した。
波が穏やかに
機体を包み込むように
受け止めていく
機体はゆっくりと速度を落とし
そして、止まった。
水面は鏡のように空と
静まった心臓を写し出していた
長い一日が…終わった。
…だが、いつまで経っても
後部座席の新米が降りてこない。
そういえば…
さっき空の上で
「全部出た!!」
とか叫んでいたっけか。
俺は発動機を止めると
振り返って声をかけた。
「おい、新米。着いたぞ、乾いたか?」
しかし、新米は縮こまったまま…
「あ……あんだば、旦那……」
「…想像以上の…大洪水だったべ…全然乾く素振りがねぇべ…」
「まぁ… 曳光弾が目の前をかすめまくって、
いつ撃ち落とされるか分からなかったんだから…
仕方ないさ!気にすんな!」
二人で話していると九州が近づいてきた。
「なんかあったと?」
後部座席を覗き込む。
真っ赤な顔をした新米が
ちょこんと座っている。
「……ん? …あぁ……。海水ば被ったとね」
九州が新米に手を伸ばし
そっと抱き上げる。
「あ、いや、九州……その……新米が……」
「 戦場で戦った…男の勲章みたいなもんたい」
「お、おらのも、勲章だべか……」
「それより、冷えた体を温める熱々の味噌汁つくるけん。
………ん?この写生帖…使ったと??」
写生帖を九州が眺めていると
チーフが覗き込んできた。
「これ…なんでこんなん書いたんや?」
実は………
俺は戦闘後の話を二人に伝えた。
「そりゃ笑うわな!新米…なんて書いたつもりやったんや?」
「グッバイ…さよならだべ?」
「お前が書いたんは…GOD BYEや…Oが1個足らん」
そう言うと笑いながら
新米の肩に手を置いた。
「これな、直訳したら…神よ、さらば…やけど、
もうちょっと違う見方したら…神に委ねて、別れる…
とかの意味合いもある。
敵にとっても記憶に残る1文やな!」
「えぇ!間違って書いてたんだべか!?恥ずかしべ…」
「いいじゃないか!多分伝わってるさ…きっと。」
横ではチーフが機体を確認している。
「………ボン!またリベット飛ばしたんかい!!
どうやったらこんなに飛ばせるんや…。
飛びながら翼に乗って引っこ抜いてる…とか…
してへんよな??とりあえず倉庫行きや!
いつものやるで!」
台車に乗せられ
巻き上げ機がゆっくりと動き出す。
零観は、そのまま静かに
倉庫へと引き込まれていった。
4人で待機所に戻る。
九州が食事を作り始め…
チーフが工具を磨く…
俺達は飛行服を脱ぎ…片付ける…
いつもの光景だ…
帰ってきたと実感する。
「ボン…捜索の報告したんか?」
「あ!?……全くしてませんね…」
「アホか!まぁ、報告しとくで大丈夫や。
で、、お偉いさんは、生きとったんかいな?」
俺は首を横に振った。
「…ま、そうやろな。ラエも落ちたらしいし…厳しくなるなぁ」
そう言いながら
チーフは待機所から去って行った。
そうか…ラエも落ちたか…
ガダルカナル…ラエ…
これからどうなるのだろうか。
しばらくすると
新米が洗濯を終え…
九州の手伝いをしている。
それを見ていて
ふと昔の事を思い出した。
────あいつは
今日も見守ってくれたのだろうか…
あれだけの激戦で
弾もほとんど喰らわなかった…
護ってくれてたのかな…
「ボンどうしたんや?遠くを見つめて…」
チーフが報告を終えて帰ってきてたようだ。
「ちょっと昔を思い出しましてね…」
夕日を眺めながら
あの頃の記憶が…
まるで昨日のことのように蘇ってきた────
【あとがき】
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次回更新は8月11日(火)
13:30頃を予定しております。




