第24話 爽風
───上昇しながらロールする
周りを見渡すと
凄い勢いで
敵が駆け上がってくる。
「…ったく…化け物かよ…」
低空戦に持ち込めば
勝機はあるかと思ったが…
上昇能力は凄い。
双発の重戦闘機…
速度も火力も…圧倒的だ。
「旦那! 下から三機追ってきてるべ」
新米の叫び声が後部座席から響く。
「わかってる! 構えてろ!」
操縦桿を引きつけ続ける。
青空が…
一気にジャングルの景色へと変わる。
周りを見渡せば…
上昇しながら追ってきている機体もある。
だが、旋回し終わっていない奴もいる…
全員手練…
…って訳でもなさそうだな…
ヨタヨタしてるアイツが狙い目か…
向かって来る敵に
牽制で一瞬射撃…
直ぐにロール…
敵を避けつつ…
ヨタヨタ旋回してる
カツオ節を狙う。
「そんなにゆっくり旋回してたら…出汁取られちゃうぜ!」
照準眼鏡いっぱいに
カツオ節が映っている!
ドドドドド、ドドド!
────ブァッ!
エンジン付近から煙が吹き出す!
「…これで、落ちてくれないんだもんな…世知辛い世の中だよ…まったく…」
敵は速度を上げながら…離れていく。
新米が叫ぶ!
「5時…4時…んー!いっぱい!角度深い」
前方上方からも来ている。
「満員御礼かよ…と、いうか…早く帰れよお前ら!」
一瞬、操縦桿を倒しラダーを蹴る。
その直後に操縦桿を引きつつ…
左へ倒す…
曳光弾が横を通り抜け…
新米の射撃音が聞こえる。
オーバーシュートして
すり抜けていく…敵の背中が見えた。
攻撃したかった…が、
ここで攻撃しては…
正面から来る敵の射撃を受け
…死ぬ。
「何とか逃げ切るぞ!!」
正面からの射撃も間一髪避けたが…
しつこく後ろから
攻撃を仕掛けてくる
敵が1機いる。
低速なのに
しっかりと機体をコントロールして
追従してくる。
曳光弾が
機体の左右を飛び交う。
「オーバーシュートしないのかよ!?」
後ろばかりを気にしていた…
ふと、、前方を見ると
巨木の幹が眼前に迫っていた。
距離は数十メートル…
「くそ!避けろー!」
操縦桿を限界まで引き、機首を上げた。
零観は仰角90度近くになり、ほぼ垂直に上がった。
木の枝が機体をかすめる。
───カキーン!
音を立てて擦れ違った。
「はぁ……はぁ……ギリギリだった……」
俺は息を切らしながら
下を見下ろした。
────バン!!!
炎が木々を焼き尽くすように広がる。
P-38は二つに折れ、森の床に墜落した。
「……あぁ、やっちまったなぁ」
燃え盛る炎を眺めながら
敵の無惨な死を眺めていた…
戦闘機乗りとしては
最悪の死に方だよな…
そう思いながら…。
その時…新米の声が伝声管に響いた。
「だ、旦那ぁ…て、敵…離れていくだ…」
少し離れた場所で
敵の数機が旋回している。
そこに向かって…
残った敵機が向かっている。
周囲には敵は見当たらない…
生き残った…みたいだ。
「キツかったなぁ…本当に…」
「弾…もうないべ…」
その時…敵の集団から
一機…離れてこちらに向かってくる!
「旦那!翼を振りながら…一機くるだ!」
翼を…??振りながら??
「新米!機首はこっち抜けてるか??」
「機首はこっちには向けては…ないべな。でも、近づいて来るべ」
いつ襲われても良いように
身構えていた…だが…
ゆっくりとその機体は
横に並んできた。
目と目が合う…
少しの間…見つめ合っていた。
「新米!写生帖あっただろ。なんか書いてやれ!」
「なんかって…なんだべ!?」
「任せる!!」
新米が…何かを書いている。
この前の勉強の成果を見せる時だ!
新米が写生帖を見せて…手を振る。
一瞬…驚いたような表情に見えたが…
その直後…
彼は大笑いしていた。
笑い終わると…
親指を立て頷いている。
翼を振り…彼は敬礼しながら
飛び去って行った…。
彼が編隊に戻ると
その影は小さくなっていく。
「なんだったんだべなぁ?」
「日本人の顔でも見たくなったんじゃないか?」
ふと見ると…
翼の外板の一部が細かく揺れていた。
「あっちゃー…またやっちまった…整備長に怒られるな…」
「前もこんな感じだったべな!」
ここ数回の戦闘では
リベットを飛ばすことが多い。
それだけ激しい機動をしないと
生き残れないのが現実だ…。
「そういえば…。お前…今回も…出そうだ!!とか言わないよな!?」
「今回は大丈夫だべ!だって…もう…全部出ちゃった……」
「………!?」
流石にそれは…マズイ。
全部…出た…だ…と…
「お、おい…大きい方じゃ…ないよな??」
「んだ!ちっちゃい方だべ!」
「……だから…遠回りして帰ってけろ」
「無理だ!燃料がない…最短だ!」
「それじゃ~乾かねーべな!」
また、二人で大笑いした。
それもそうか…
自分に向かって発砲してくる敵…
飛び交う曳光弾…
それを面と向かって見続けながら
反撃しなければならない。
怖いよな…
お前の席は…本当に…。
「多少遠回りするから、早く乾かせよ!!」
「旦那ぁ…乾くと思うべか…」
「知るか!気合いだ!気合い!」
空はいつもより青く
遠くまで広がっていた────
【あとがき】
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は8月8日(土)
13:30頃を予定しております。




