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『在りし日の空 』~南方無人島の独立飛行隊 零式観測機で 斯く戦えり~  作者: ともぞう


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第23話 乱翔

───やったか!?


 新米の放った一撃を受け

 敵機が煙を吹きながら離脱していく。


「新米! よくやった! 凄いぞ!」


「だ、旦那……当たっただ! 狙ったとこに当たっただ!!」


 思った通りだ…

 敵は被弾にそこまで強くない。


 だが、異常に速い!速すぎる!

 相手の攻撃を避けながら

 タイミングを合わせる…

 一歩間違えれば、こっちが狩られる。


 ──だが、やるしかない


 上空を見ると、旋回していたP38が編隊を解き始めていた。


「こりゃ……敵さん、本気にさせちまったかもな」


「ハチの巣を突ついちまったべか……」


「いいか新米。これからはずっと旋回し続けることになる。射撃に集中しすぎるな。周りを見て、向かって来るヤツを教えてくれ。さっきみたいに、方向と角度だ」


「分かったべ!」


 雲一つない青空…

 その太陽を背負って

 今まで静観していた上空の編隊が

 一斉に牙を剥いた。


「15機……だべ……!?」


 新米の声が伝声管に響く。


 ───上空の群れ。


 15機のP38ライトニングが

 怒涛の急降下を開始した。


 双胴の巨体が陽光を反射し

 殺意の塊となってこちらへ迫る。


「来るぞ!」


 少し高度を上げる。


 敵は二機一組になって、次々に攻撃してきた。


 横滑り…上昇…

 そこでまたラダーを踏んで横滑りし

 ロールさせて旋回する。


 どの向きで飛んでいるのか

 分からなくなりそうだ。


「8時浅い! 次が5時深い!」


 新米はしっかり敵の位置を伝えてくれる。

 俺は前半分にだけ集中すればいい。

 背中はアイツに任せた。


「6時下からだべ!」


 下から?

 俺たちが上昇して避けるから

 突き上げる感じか……。


 だが、それは…

「それやっちゃうと、速度が死ぬぞ……カツオ節君!」


 素早く機体を滑らせ

 ロールしながら降下する。


 下の木々に手が届きそうだ。


「新米! やれ!」


 ロールが終わり、水平に戻った瞬間…

 大きな機体が

 頭上を通り抜けようとしている。


 新米の機銃が吠えた。

 曳光弾がエンジン付近に吸い込まれる。


 ───シュー!!


「あれ?ラジエーターだべか? 白い煙出ただ!……んあっ!」


 新米の話が終わらないうちに機体を引き起こす。

 敵の曳光弾が機体を掠める。


「新米! 余韻に浸るな! 死ぬぞ!」


「……すまんだべ」


 少しずつ、基地へ向かって逃げていく。

 少しでも燃料を気にして

 退却してくれればいいのだが…。


「8時深い!」


 ふと見ると

 10時方向からも同時に迫ってきていた。


「こいつは……厳しいねぇ……」


 なぜか笑みがこぼれた。

 無意識で操縦桿を横に倒し

 10時方向の敵に合わせる…


 一連射…


 操縦桿を押し込み

 一瞬機体を沈ませる…


 一気にラダーを蹴り

 操縦桿を引きつけた…


 新米の機銃音…

 機体の横を、後方からの敵弾が掠める…


 操縦桿を横に倒してロールする…

 目の前には

 上昇していこうとする敵機…


 ドドド、ドドドドド!


 当たったようだが、そのまま離れていく…


 全てが…コマ送りのように見えた。

 時間がゆっくり流れているような感覚だ。

 B25とやった時も、こんな感覚になったな……。


「旦那!なんか、敵の動きが悪いだべな。高度を…捨てたから…速度が出ない…だべか??」


「……!」


 そうか…

 あんな大きな機体。

 双発とはいえ、低高度の格闘戦では速度が鈍る。

 ギリギリ一撃入れられたのは、そのせいか。


「新米! よく覚えてたな! そうだ……敵さん、焦って低高度の格闘戦を始めている。格闘戦ならこっちの方が有利だが……気を抜くなよ。数が違いすぎる」


 確かにこちらの方が有利だ。

 だが、数が違いすぎる。


 動きを止めたら…

 それだけで終わる。


 俺は荒馬を乗りこなすように

 零観を激しく左右に揺さぶり…

 新米は後部機銃で

 迫りくる敵を正確に見張ってくれる。


「旦那、キリがねぇべ! 後ろにも横にもカツオ節だらけだべ!」


 操縦席は硝煙と焦げた臭いで満ちていた。

 零観の周囲は

 無数の曳光弾が交錯する

 死の空間と化している。


 圧倒的な数的不利。

 回避運動だけで

 精一杯の時間が過ぎる。


 なんとか接近戦を続けていれば…

 奴らは自らその鋭い牙をすり減らし

 泥沼にはまっていく…はず…


 ───ここだ!!


 一気にスロットルを全開にし

 操縦桿を引きつけて上昇する。


「何とか低空戦に引き込んだが…劣勢は変わらん!何とか活路を見出すぞ!」


「気合いだべ!!」


 零観のエンジン音が

 周囲に響き渡った────


【あとがき】


 お読みいただきありがとうございます。


 次回更新は8月6日(木)

 13:30頃を予定しております。


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― 新着の感想 ―
いつも続編を楽しみにしいますが、今回は所用のため拝読が遅くなりました。 史実では、山本長官を撃墜したロッキードP38ライトニング。 私が小学生の時に父に連れられて行った映画館で観た(残念ながら題名は覚…
零観1機 VS P-38 15機 絶体絶命!ドキドキハラハラ どうやって切り抜けるのか次回が今から楽しみで堪りません
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