第2話 中国戦線…栄光…そして
ギィィィィィィン――。
静寂を裂くように、九六式艦上戦闘機のエンジンが唸りを上げた。鮮烈な赤に塗られた機体。尾翼には黄色い稲妻が走っている。
コックピットの中、若き東京のエースはゴーグルの奥で獣のような目を光らせていた。
視線の先には、必死に逃げながらも旋回を続ける敵機。相手もまた格闘戦を挑んでくる。
だが、それを読んで一瞬で間合いを詰める。
そして、エースは機体を一瞬だけ失速させる。
そのまま敵の旋回の内側へ滑り込むように食い込んだ。
「へっ、その程度で逃げ切れると思ってんじゃねえよ!」
短く鋭い射撃。
機銃弾は敵機のエンジンを正確に貫き、煙を吐いた機体はそのまま海の向こうへと落ちていった。
別の敵機が後ろにつこうと迫ってくる。
「おっ!いい動きだ!…だが…」
エースは一瞬スロットルを緩めた。
速度が落ち、機体は失速寸前。
敵が喰らいつく。
その瞬間…機体を落とす。
敵機にはエースが一瞬消えたように思えた。
次の瞬間…敵機の腹の下…
ドドド!
敵機は煙を吐いて落ちていく。
「あんまり速度殺すのは良くないけど…
今回は良しとするか」
速度を上げながら、上昇してゆく。
それを見ていた僚機の若いパイロットが、思わず呟く。
「化け物かよ」
夕暮れ。
滑走路へ帰投する編隊。
だが途中から、空に雨が混じり始める。
エースは上空で旋回を続けながら、部下たちを先に降ろしていく。
「足場が悪くなる前に降りろ。つんのめって機体壊したら、帰ってきた意味がねぇからな」
次々と機体が着地していく。
最後に降りたエース機は、まるで水面を滑るように静かに停止した。
地上の整備員がぽつりと漏らす。
「……やっぱ、隊長はさすがだなぁ」
だが、その空気を切り裂くように、一人の上官が近づいて来る。
「また独断行動か。機体を赤く塗るなど軍紀違反だ。部隊の統制を乱す気か」
エースはゴーグルを外し、冷えた目で上官を見た。
「統制を乱すのかと、聞いてるんだ!答えんか!」
ゆっくりと上官に近づく…鋭い眼差しのまま…。
「……机の上から指図してるあんたに、空の何が分かるんだよ」
「何だと……貴様、上官に向かって――」
言い終わる前に、鈍い音が響いた。
エースの拳が、上官の顎を打ち抜いていた。
上官は泥の中に崩れ落ちる。
エースはそれ以上何も言わず、背を向ける。
「二度と空の話をするんじゃねえ。このクソ野郎が」




