第18話 導標
───船団に挨拶を行い上昇する。
少し飛ぶと…下方に4機の
二式水戦が編隊を組んで飛んでいる。
だが…おかしな事に気がついた。
なんで俺達が二式水戦隊に
追いつけるのだろうか?
二式水戦の方が速度は速い。
巡航速度もだ。
…それなのに何故追いつく?
よく見ると…先頭の機が
よろめきながら飛んでいる。
黄色二本線の機体!?
左へ、右へ。
まるで酔ったように機首が揺れる。
警戒されないように
翼を振りながら近づく。
一瞬…周りの
二式水戦が戦闘態勢に
移行しようとした。
だが、気がついてくれたようだ。
ゆっくりと近づいていく。
近づくと…異変に気がついた。
「旦那……様子がおかしいべ」
「エンジンだな……」
機首の辺りは黒く煤け
カウリングには幾つもの銃痕が見えた。
敵弾がエンジンを貫いたのだろう。
プロペラの回転数が安定しないようだ。
部下なのだろう…
1番機を一生懸命護衛している。
護衛している3機も
所々穴が空いていた。
やはりあのB25という敵は
とんでもない敵だった…
そう思わずにはいられない。
ここから直進すれば
彼等の前線基地があるのだろう。
934空の本拠地は遠い。
我々は、ここで
進路を変更しなくてはいけない。
「あれで、、前線基地まで…いけるのか…」
そんな疑問が浮かび上がってくる。
速度が落ち…高度も下がり始めている。
このままでは、
前線基地まで持たないだろう…
こちらの基地は近い。
彼等の前にでる
そして…翼を振った。
『俺について来い』
1番機の操縦士は
一瞬こちらを見たあと
小さく翼を振り返した…
──分かった。
そう返事をしたようだった。
俺は速度を落とし
傷ついた水戦が離れないよう
慎重に先導した。
島影が見えた。
「…見えてきたぞ」
翼を振り…
二式水戦に島を指差す。
頷くだけだ。
もう翼を振る余裕もないようだ。
白い浜辺。
椰子の木。
見慣れた俺たちの家だ。
「なんとかなったか…良かった…」
だが、その瞬間だった…
───ボフッ!
一瞬、黒煙が噴き上がる。
「まずい!」
二式水戦の機首が沈む。
プロペラの回転は
目に見えて落ち…
機体は海面すれすれまで
高度を失っていく。
「頑張れ……もう少しだ!」
祈ることしかできない。
湾が見えてきた…
浜辺でチーフと九州が
異変に気がついたのか
駐機場へと走っていく。
1番機のエンジンからは
黒煙しか出なくなった。
「早くしろ!もう…もたないぞ!」
なんとか湾内には
入り込んだ。
あとは着水…
エンジンが生きてない状態で
着水するのには
かなり技術がいる。
彼なら問題ないだろう…
しかし…発火しないだろうか…。
ゆっくりと1番機は
高度を落として…いく。
やがて機体は海面へ滑り込んだ。
大きな水柱。
一度跳ねる。
二度目でようやく浮きを取り戻す。
黒煙を引きずりながら、
惰性だけで浜辺へ向かっていく。
そして…
────ボッ!!
エンジンから炎が上がる。
「脱出しろ!!」
思わず叫んだ !
その瞬間…
搭乗員が
海へ飛び込んだ。
──ドーン!!
二式水戦が爆発…
大きな火柱が上がる。
「搭乗員は!?」
海面に目を凝らすと
少し離れた所に
浮かび上がってくる
頭が見えた。
そして
岸に向かって泳いでいる。
「助かったか……。」
思わず息を吐く。
だが、人の心配ばかりも
していられない。
こちらも燃料が
ギリギリだ。
波は穏やか…
風は弱い…
スロットルを絞り…
ゆっくりと降下する。
零観は速度を落としたまま
海面へ降りた。
低い水音とともに白い飛沫が散る。
機体は一度だけ大きく揺れたが
そのまま水面を滑るように
減速していった。
…松明の様に燃える
二式水戦の横を通り抜ける。
無意識のうちに敬礼していた。
ふと…横を見ると新米も
敬礼していた…
木の生い茂った
洞窟基地のような浜辺へと近づく。
浜辺に接岸すると
チーフがロープを結びつけてくれた。
「お疲れ様やったな!大丈夫なんか!?」
「なんとか…帰ってきましたよ」
「輸送船は、どうやったんや?」
「行った時には…もう…
2隻しか…いませんでしたね」
「………。なるほどなぁ。パッとみたところ…補助翼と胴体の穴くらいやな。これならすぐに直せる。心配せんでもえぇで。…とりあえず…ゆっくり休んだらえぇわ」
チーフはゆっくりと機体を触りながら
確認を続けていく。
新米と共に
駐機場を抜ける。
浜辺を見ると
九州が二式水戦の搭乗員に
水をあげていた。
怪我はないのか?
不安な気持ちを抑えながら
2人に駆け寄る。
よく見ると…階級は少尉…
「大丈夫だったか?怪我は?」
「助かりました。ありがとうございます」
搭乗員は
飛行眼鏡を外しながら答えた。
その瞬間…思わず…
叫んでしまった!
「た、玉田!お前…どうして!?」
搭乗員もビックリした顔で答える
「…隊長!!!隊長だったんですか!?赤い機体…もしや…とは思いましたが…ご無沙汰しております!」
言い終わらないうちに…
ビシッ…と敬礼する。
こちらも敬礼を返すが…
驚いて声も出ない。
「お知り合い…なんだべか??」
新米が不思議そうな顔でこちらをみる。
「あぁ…昔の…戦友だ」
その時だった。
上空を旋回していた二式水戦が
低く翼を振った。
玉田の無事を確かめるように…
島を一周すると
ゆっくりと機首を西へ向ける。
彼等も帰らなければならない…
自分たちの戦いが残っているからだ。
夕日に照らされた銀色の機体は
小さく翼を振ると……
そのまま水平線の彼方へ消えていった。
「貴様にまた会うとはなぁ…」
正直…驚いた…
中国戦線で…
俺の後ろを護ってくれていた
大切な部下に会うことになるとは──
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次回更新は7月25日(土)
13時30頃を予定しております。




