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『在りし日の空 』~南方無人島の独立飛行隊 零式観測機で 斯く戦えり~  作者: ともぞう


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第16話 技量

―――チーフと九州が

エンジンの始動ハンドルを回し始める…

回す速度がどんどん早くなる…


親指を立て、チーフが叫ぶ!


「“Contact!”(コンタクト)」


エンジン始動。

浜辺に轟音が響く。


九州が離れた所から

俺にエンジンの調子を手信号で聞いてくる。

絶好調だ。


チーフは後部座席の新米に近寄る…


「新米!今日はこの『信号銃』を持ってけや。使い方わかっとるか?」


「大丈夫だべ!昨日、九州兄貴に教えてもらっただ!敵ば見つけたら、空に撃つんだべな!」


「そうや!しっかりたのむで!お前の合図で、船団や一緒に護衛しとる味方にも、敵の来襲を早く知らせることができるんや!」


伝え終わるとチーフは機体から海へ飛び込む。

海面に頭を出して敬礼している。

九州がロープを解き、敬礼する。


「んー…潜水艦見つけたら…こっちの弾だべ…。緊急時は…こっち…だべ…。あれ?これは??…」


―――本来なら

敵発見は無電で報告する。

だが…新米は大の機械音痴…

無電は苦手だ。


苦肉の策で、チーフと九州は

信号銃を持たせる事にしたらしい。


「行ってきます!」


エースも敬礼を返すと

エンジンを全開にし…空へと登っていった――


浜辺が少しずつ小さくなる。

下を見ると…

チーフと九州がいつまでもこちらを見上げ

手を振っていた。

新米も小さく手を振り返す。


「今日は…弾当てられるべかなぁ」


「直掩任務は敵を落とすことじゃない。船を無事に届けることだ。」


「わかったべ!」


眼下には、どこまでも続く青い海。

点々と浮かぶ小島を追い越しながら

零観はゆっくり高度を上げていく。


波は穏やかだ。

雲もほとんどない青空が広がっている。

こんな静かな空でも、一歩間違えれば帰れない。

そんなことを考えながら水平線へ目を向ける。


……会合時間より少し早いか。

やがて、白い航跡が見えてきた。


船団というには…

波間に二つの白い航跡が伸びている。

四隻と聞いていたが……


「旦那。6時下方……なんか……くるべ。」


「その方角なら、一緒に直掩する味方かな。ただ、気を抜くなよ。変な動きがあれば、すぐ知らせろ。」


「わかったべ!」


しばらくして、伝声管から弾んだ声が響く。


「日の丸だべ!隼にフロートついてるだ!」


多分あれは…昨日、九州が話していた…


―――二式水上戦闘機(二式水戦)


零戦にフロートを付けた様な機体だ。

俺達から見れば、大抵の飛行機は速い。

だが……

二式水戦も速いが…とんでもなく速い!…

という訳ではなさそうだ。


二式水戦が上昇してきた。

5機で編隊を組む。

胴体に黄色の二本線の機体が

横に並んできた。


「今日はよろしく!」


お互い軽く手信号で挨拶。

その後…

二式水戦の搭乗員が下を向いている。

何をしてるんだ??


頭を上げると

写生帖に文字が書いてある。


「索敵お願いできるか?」


…との事。

了解の合図を送る。


翼を振り、編隊を離れ索敵に向かう。


「でも、考えたなぁ!…写生帖かぁ。あれなら確実に意思疎通できるな。新米!今度俺達もアレ積もうぜ」


「誰が…文字書くべか…??」


「新米に決まってるだろ」


「…おらの文字…読めるべかなぁ…不安だべなぁ」


「…………。」


「まぁ…と、とりあえず…索敵だな!文字はチーフが書くの綺麗だから教えてもらえ!」


「……索敵頑張るだ!」


文字の件には触れたくないらしい…

とりあえず、敵の出現しそうな方向に飛ぶ。


「高度上げるぞ!」


「了解!」


零観が高度を上げていく。


俺の頭の中では

射撃の事で頭がいっぱいだ。

垂直…心臓…いかに撃ち抜くか…

こればかりが巡り巡っている。


やはり…上からが定石…

緩降下しながら距離を詰め…

一気に角度を付けて一撃!


いやいや…待て…

降下して相手の下に入ってから…

引き上げながら一撃…

上方に抜けて…

反転して一撃…

―――これなら二撃入れられる。


でも、早い相手だと…

二撃目は刺さるのか?

速度がかなり落ちる。

というか…追いつけるのか??

…流石に無理か…。

やはり降下して…


「旦那…どこまで行くべ??」


…はっ!?

考え過ぎて…周囲の警戒どころか

進路まで考えずに飛んでいた。


「こ、ここら辺でいいだろう…向きを変えるぞ」


向きを変え始めた…その時だった…


「3時下方…いるべ!」


「3時!?俺も見てたけど…」


「いる!発動機2つ、今…5時…6時…」


読み上げるタイミングは掴んだ。

とりあえず旋回を維持して正面まで持ってくる。

発動機2つ…直掩機としては考えにくい。


「新米!信号弾だ!信号弾上げろ!!」


「了解!!」


だが…いっこうに信号弾は上がらない…

推定では10時方向…間もなく正面に捉えるはず。

その時…伝声管から、泣きそうな声が聞こえてきた。


「旦那ぁ、どの弾…撃つべか…これだべか?…こっちだべか…教えてくんろ…」


チラっと、後部座席を見る。

風防越しに信号弾を両手にもって

慌てふためいている新米が見えた。


「何でもいい!とりあえず…撃て!!」


「…分かっただ」


カシャ……ポシュッ!


肩越しに信号弾が登っていくのが見える。

鮮やかなオレンジ色………オレンジ!?


「お前…それ………」


「撃っただー!!!!」


俺が肩越しに見たのは

オレンジ色の信号弾…


そう……それは……

―――救難信号弾……である。


普通は赤色などの信号弾を使い

危険を知らせる。


だが、俺達は敵を発見し…

救助を求めてしまった…ようだ。


まぁ、新米らしいか…


その時、フッ…と笑みがこぼれた。

今まで考え過ぎていた雑念が

一気に吹っ飛んだような気がした。


「とりあえず良くやった!行くぞ!」


「了解!」


まぁ、何かしら伝わっただろう。

そう思いつつ…正面を見据える。


―――見えた2時下方。


やはり新米の言う通り双発…

これは識別表で見た事がある。


米軍の飛行艇…PBYカタリナ。


二つの発動機を背負ったその巨体は

まるで空を飛ぶ城壁のようだった。

すでにこちらの存在に気づいているようだ。

機体側面の水泡型銃座から

機関銃の黒い銃口がこちらを睨んでいた。


「新米、昨日教わった通りにいけよ!」


「んだ! やってみるべ!」


俺は操縦桿を強く握り直し

ラダーペダルを踏み込んだ。


カタリナの死角である上方へと回り込む。

狙うは、昨夜チーフたちと語り合った


「直上からの一撃」


高度のエネルギーをすべて速度に変え

敵の防御の薄い上空から襲いかかる。


―――やるぞ!


機体を軽くロールさせ

敵に向けて突き進む。

照りつける太陽が足元へ去り

視界のすべてが青い海と敵の巨体で満たされる。

速度計の針が跳ね上がる。


―――だが、タイミングが合わない

斜め上からの突入になってしまった。


敵の銃座が撃ち始めた。

曳光弾が前から飛んでくる。

照準眼鏡の中でカタリナの巨体が大きくなる。


「クソッ、とりあえずいくぞ!」


「当てるべ、当てるべぇッ!!」


ドドドド、ドドドドドドドド…


どうだ!!

エンジン付近にかなり撃ち込んだ。

カタリナとすれ違う。


振り返って確認しようとした

…その瞬間

新米が引き金を引いた。


ドドドドドドドド!


旋回機銃が乾いた音を立てて

火線を吐き出す。


弾丸は確かにカタリナのエンジン付近に飛んでいる。

たまにパチパチと小さな火花を散らしていた。


機体を直ぐに上昇反転させ

二撃目を狙う。


だが、撃たれた敵は煙すら吹いていなかった。


「多少は当たったども…あー!!!肩への引き付けが甘かったべ!」


新米の悔しがる声が聞こえる。

弾を当てようと焦るあまり…

肩への引き付けが甘くなってしまったようだ。


「次だ!次、決めるぞ」


「了解!」


その時だ


――パス!…ガン!


軽い音と振動があった。

ふと見ると…布製の補助翼が千切れている。


曳光弾の太い光束が、零観の風防をかすめていく。


「胴体に穴があるべ…」


カタリナより高い高度にはいるものの

真横付近にいる。

同じ方向に飛んでいる…


―――いいかぁ、お前ら。

「敵爆撃機を攻撃する時は後ろから迫るな!

後ろから近づくと、同じ方向に飛ぶことになる。

そうすると…それだけ敵の防御機銃の

射程に入ってる時間が長くなる!

気をつけるように!―――」


昔…部下に訓示した内容を思い出した…。


「おいおい…こんなことも忘れてたのかよ」


「なんか言ったべな??」


「何でもねぇ!もう一撃だ!」


ただ、俺は焦っていた。

撃たれている恐怖感もあった。


「いくぞ!」


少し早いタイミング…

敵機を追う様な形で斜め上から突入した。


ドドドド、ドドドドドドドド


機銃を撃ちっ放しながら突入した。

エンジン付近に命中している。


敵機の横を下方に抜ける…


ドド、ドドドド、ドドドド…


後部の旋回機銃が射撃している。

新米の弾は確実にエンジンに当たっていた。

でも…煙はでない。


機体を引き起こし…

3撃目に移る。


やはり…7.7mmではダメなのか…

そんなことを考えていた…その時…


前方斜め右上方から…

二式水戦が近づいて来るのが見えた。

俺が射撃位置に着くまでには時間がかかる。

お手並み拝見だ。


1番機には黄色の線が2本入っている。

その1番機が2番機に翼を振った。


2番機が突っ込んでいく。

1番機は、上方で待機するようだ…


普通は1番機が先頭で突っ込む。

だが、手頃な相手だと踏んだ場合は

教育の為…部下に行かせる事がある。


…手頃な…相手…か。

こっちは苦労してるんだけどなぁ。

そう思いながら眺めていた。


2番機は、俺と同じ様な角度で突っ込んでいく

そろそろ…撃つかな…そう思った次の瞬間…


機首と両翼の機銃が火を吹いた。

翼から見た事もない大きな曳光弾が飛んでいく。


あれが…20mmか…凄ぇ…


放たれた弾丸が

カタリナの右翼エンジンに当たる。


エンジンから炎…火を吹いた!

二式水戦はすれ違うと下方に退避していく。


「やるなぁー!!」


だが、次にカタリナに目をやった時には

火は消えていた…


1番機が動いた。

敵の直上まで進んでいく…

どうする?と、思った…その瞬間…

機体をクルっと反転させて背面飛行に移るや

そのまま真っ逆さまに

突っ込んでいった…


流れるような華麗な機動に

思わず…みとれてしまった。


ぶつかる!と思った瞬間…

20mmが火を吹いた!

カタリナの右エンジンに命中。


炎が上がったかと思うと…

翼が折れて錐揉みしながら落ちていく。


何事も無かったかのように

二機の二式水戦は編隊を組み直し

船団へと戻っていった。


あのタイミング…あの機動…あの射撃…

何者なんだ…彼は…とんでもない技量だ。

そう思いながら

戻っていく彼等の背中を眺めていた―――


お読みいただきありがとうございます!

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次回更新は7月21日13時30頃を予定しております。

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