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『在りし日の空 』~南方無人島の独立飛行隊 零式観測機で 斯く戦えり~  作者: ともぞう


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第15話 学び

―――パーーン!


「……なんだべ??こんな朝から…」


新米が外に出てみる。


―――パーーン!


小川の向こう…

少し開けたところで

エースが銃を撃っていた。


「旦那ぁ、おはようござえます。何してるんだべか?」


「おう!おはよう。昨日…色々教わっただろ。だから…まずは弾が当たったときに、どんな感じで当たると良いのかな?って思ってな。整備長に頼んで鉄の切れ端を何枚か貰って試してたんだ。」


鉄板を見て、首を傾げながら

新米が話しかけてくる。


「なんじょ、こんな近ぇどごさ鉄板置いで撃ってるんだべか?」


「…あんまり遠いと当たらないんだよ(笑)」


鉄板は手のひら程の大きさだ…

そんなに大きな鉄板ではない。


銃を構え…撃とうとすると…新米が近づいてきた。


「旦那!撃づ時ぁもっと脇締めねぇどダメだべ。そんなに猫背はダメ!違う!顎引いて。立って撃つより…最初は膝をついて…そうだべ…左の肘を膝にのせて。んだ!そうすると安定するべ。あぐら…かくのもありだべな。…あぁっ!指は撃つまで引き金にかけたらダメだぁ!危ねぇべ!それによ、そったに近けぇど、跳弾さ当だっちまうがら危ねぇべ。…なんなら、おらが撃ってやっぺか?」


やけに…的確な助言だ。

いつもはのんびりしているくせに

銃のことになると機関銃の如く喋る。


だが…

新米に頼む方が良いかもしれない。

何しろ彼はマタギ。

撃ち慣れている。


「なら、頼む!」


そういえば跳弾とは…?

そう考えていると新米は鉄板を持って歩きだした。


「あいよ! 鉄板ぁもう少し離れたどごさ置ぐべ。」


そういうとかなり離れ所に

鉄板を置きに行った。

こんなに離れていて当たるのか?

少し疑問に思っていると…

新米が戻ってきた。


「なあ新米、跳弾ってなんだ?」


「跳弾だべか?弾がはじかれることだべ」


「弾がはじかれる??」


「見てて」


そういうと横の方に歩いて行ってしまった。


「こうやって鉄板の正面でねぐ、斜めさ弾を撃ぢ込むど…」


―――パーン


鉄板に弾が当たった

そう思った次の瞬間だった。

甲高い金属音がして

弾は横へはじかれた。


「えっ……跳ねた?」


思わず声を上げてしまった。


「んだ!こうなるだよ!」


今度は正面に戻ってきた。

もう一度発射。

すると、今度は弾が鉄板に食い込んだ。


「浅い角度だと、はじかれるだな…。」


「んだ!当てる角度……大事なんだべ」


「……ほほう!上手いもんやなぁ!」


背後から声がした。チーフだった。


「どうや?成果は出たんか?というか……新米、よぅ当てるやん。凄いやんか!あんな小さい的に、こんだけ離れとっても当てるんかいな!」


離れた場所では九州が黙々と

朝ごはんの支度をしている。


味噌の匂いが、まだ冷たい朝の空気に

じんわりと広がっていた。


新米は鉄板を見つめたまま、

ぽつりと続ける。


「弾ってな、ただ当だればいいってもんでねくて……角度が浅ぇど、滑るみでぇに跳ねちまうんだべ。」


チーフが片眉を上げた。


「……お前、そんなんどこで覚えたんや」


新米は恥ずかしそうに頭をかく。


「山で熊さ撃つ時に、とっつぁんに叩き込まれただ」


「く、熊!お前……鳥だけじゃなくて…熊も獲っとったのかよ!!」


「んだ! 山で熊さ狙う時ぁ、頭さ狙ったら絶対ダメなんだべ。熊の頭の骨はうんと固ぇし、丸ぐ湾曲してっからな。真っ直ぐ当だれば抜げるごどもあるだども、動いでる相手だべ? そう上手ぐはいがねぇ。斜めさ当だるど、弾ぁ滑って逃げちまうんだ。だから、頭は狙わねぇんだべ。」


チーフは腕を組んで感心している。


「新米、お前……ほんまに本物のマタギやったんやなぁ」


「あったりめーだ!チーフ、疑ってたんだべ?酷いだべ…」


「すまん!すまん!悪かったて。今日のおかず…オレの分ちょっと分けてあげるから…機嫌直せや!」


「うおー!ホントだべか!?」


新米はゲンキンに飛び跳ねて喜んでいる。

さすがチーフ、機嫌を取るのが上手い。


一方でエースも

少しだけ目を細めて鉄板を見つめていた。


「浅い角度だと弾かれる……。逆に言えば、ちゃんと直角に近い角度を取って当てれば、同じ弾でも威力が変わる…か」


新米はこくりとうなずいた。


「……当たる角度って、奥が深いんだべ」


エースは足元の薬莢を拾い上げながら

静かに言った。


「ありがとう。勉強になったよ。今度は撃つ角度や、狙う場所を意識して戦ってみる。……俺は今まで、熊の頭ばっかり狙ってたようなもんだな(笑)」


朝の光の中で

穿たれた鉄板の端がかすかに光った。


でも…どうしたらいい。

垂直に当てる…

敵に対して垂直…

空中戦の中で…


「なぁ、新米。熊撃つ時はどこを狙って射撃するんだ?頭はダメなんだろ?」


「熊がいる場所にもよるけど…とりあえず…体の面積が大きく見えるとこだべかな。それで心臓を狙うだ。

横からだと肩や腕の筋肉があるから、出来れば正面がいいだべなぁ」


相手の心臓部を狙う…

弾が貫通し、なおかつ致命傷になるところ…か。


「ご飯出来ましたよー!」


九州が呼びに来る。


四人で卓を囲むと、朝の緊張感が少しだけ和んだ。


「なぁ新米、そんだけ射撃が上手いくせに、敵には、いまいち弾が当たらんと嘆いとったなぁ」


エースもつぶやいた


「スピットとやった時は、最後の方…凄くいいところに当ててたけどな」


「それなんだべ……なんで普段は当だらねぇんだべなぁ。あの時は、とっつぁんの声ば思い出して必死だったがら当だったんだけども……」


そう言いながらも

新米は早くも味噌汁をおかわりしている。

相変わらずよく食うやつだ。

白飯をてんこ盛りにした茶碗を渡しながら

九州が物静かに…

けれど確かな調子で話しかけた。


「新米っち、いっちょ訊いてよかですか。いつも後部座席でどうやって機銃ば構えとります?」


「それはなぁ、こうやってだべ……」


箸を置いて、新米がその場で

機銃を構える身振りをしてみせた。

それを見た九州が、少し首を傾げる。


「なるほど……。それでは山で小銃ば撃つ時と同じごつ、左手で銃身の前の方ば支えとるとですね」


「んだ。山でもこうやって撃ってるから、こっちのほうがしっくりくるべ」


「機関銃ば撃つ時は、ちょっとコツが違うとですよ」


そう言って

九州は新米の左手をそっと動かし

銃床を後ろから包み込むような位置へ導いた。


「銃身の先ば持つより、銃床ば体側にしっかり引き寄せて支えた方が、飛行機の振動に負けんで安定するっちゃんね」


「でも、これだと……銃の先っぽがフラフラしそうだべ?」


「大丈夫ばい。零観の機銃はちゃんと台座に乗っとるけん、重さは台座が支えてくれます。自分の手で抱え込んで撃つ小銃とは、根本的に違うとよ」


「そ、そうなんだべか!?……よーし、今度試してみるべ!ご飯食べ終わったら、教えでけろな。」


目からウロコが落ちたような顔をして

新米は勢いよく飯をかき込み始めた。

その頼もしい様子を見ながら

チーフがふと思い出したように口を開く。


「ボン、そういえばさっき無電が入っとったわ。船団の直掩依頼や。明日、飛んで欲しいらしいわ」


「船団護衛ですか……。うちの零観一機だけで、守りきれるかな……」


「安心せぇ、他の隊からも応援が来るらしい。単機直掩じゃないでぇ!」


「他にも味方がおるんだべか!?」


新米が口の周りに米粒をつけたまま訊ねる。


「そうらしわ。どんな奴らが来るかは、行ってからのお楽しみやけどな。まぁ、第934空が来るみたいやけどな。」


「大…きゅーさんよん?食う?なんだべそれ?美味いんだべか?」


「部隊の名前だよ。」


「うちらは?なんての?」


「うちか?」


「第214独立飛行隊…」


「おぉ!かっけぇなぁ……『独立』だべ!てか、名前なんてあったんだべな!」


新米は分かっていない…

たった1機しかいない飛行隊…

たった4人しかいない隊員…

そらが…この隊だ。


新米以外は、卓を見つめていた。


「おら!この隊が好きだべ!九州兄貴のご飯美味しいしぃー、チーフは面白いしー、旦那は空では凄腕だしー!」


「空では…って、なんで限定なんだよ!」


「だってぇ……虫さ見っと、逃げちまうんだもん。」


「…………。」


エースは顔を真っ赤にした。


「そういうことは、早く忘れろ!!」


ドッと笑い声が弾ける。

卓を囲む四人の顔に笑顔が戻る。


だがエースは笑いながらも、考えていた。


(当てる角度……敵に対して、垂直か……)


新米がいっていた


「熊の心臓を狙う」


という言葉が、胸の奥で静かに熱を帯びていく。


今まで、熊の頭ばかり狙ってきた。

―――心臓

…相手の急所に一撃で決める。

角度、タイミング、そして技量。


明日までに答えを出さなければ……

エースは熱い味噌汁をすすりながら

ただ一人、空の戦場を想い描いていた―――


お読みいただきありがとうございます!

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次回更新は7月18日13時30頃を予定しております。

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― 新着の感想 ―
横から土手っ腹に打ち込まないと深く弾が刺さらんと、ほんとイメージし易くて読みやすい
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