表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『在りし日の空 』~南方無人島の独立飛行隊 零式観測機で 斯く戦えり~  作者: ともぞう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/32

第14話 職人

――チーフが機体を確認している。


「今回は特に弾は喰らってないようやし、外板のつけ直し位で、すみそうやわ。お前ら頑張ったな!小川で冷やしてるヤシの実でも飲んでたらえぇわ。俺らもすぐに戻る。明日は天気荒れそうやし、今日はもう店仕舞いや。今日の話も聞きたいしな!」


待機所に戻ると、

新米が横に流れている小川から冷やしていた

ヤシの実を取ってきた。

慣れた手つきでくり抜いている。


「旦那、冷えてて美味そうだべ。」


「おぉ!ありがとう!」


ほのかに甘みがある。

疲れた体に染み渡る。

二人で味わっていると新米が話しかけてきた


「旦那。今日はこの前より高く飛んでたべな?あれは、なんでだぁ?」


「そうだなぁ…俺たちの乗ってる零観ってな、正直…速い機体じゃない。むしろ遅い!だからこそ、高度を速度に変える必要がある」


新米が眉間にシワを寄せる。


「高度を……速度に、だべ?」


「そうだ。水平で追っても間に合わない。

だが、上にあがってから降りれば、その高度がそのまま速度になる。つまり、上で“貯めた分”を、一気に使うんだ」


「貯めた分を…つかう??」


更に眉間にシワが寄ってくる。


そこへチーフと九州が帰ってきた。

九州はなぜか一升瓶を抱えて戻ってきた。

中には白く濁った液体が入っている。

エースは一瞬首をかしげたが、

九州は何事もないように湯呑みを並べ始めた。


「なに難しい顔しとるんや?新米?」


「なして高く飛ぶかを、旦那にきいてるんだべ。

そしたら、貯める…とか…んー…。そんなに敵は速いんだべか?そんなに気にはならんかったけんど」


「そりゃー全然ちゃうで!月とスッポンやがな!」


「月と…?スッポン…だべか????どんだけ違うんだべ?」


「せやなあ…零観がスーって感じだとするやろ。敵機は…やなぁ…ギューーンって感じや!ギューーン!」


「ギューン??」


新米が天を仰いでしまった。

理解に苦しんでいるようだ。


「速度でいうと、150キロくらい差があるとよ」


九州が助け舟を出す。


「150キロ!…って、どんだけ違うべな??」


九州は持ってきた一升瓶の中身を

4つの湯呑みに注いでみんなに回してゆく。

そして…

自分の前にある白濁した飲み物を

一気に飲み干して…

話し始めた。


「そうですねえ、新米っちの地元にはイヌワシおるとですか?」


「いだなぁ!でっけーの!」


新米は目を閉じ腕を組んで

故郷の山の事を思い出しているようだ。


「イヌワシが普通に飛びよるときは、だいたい100キロくらい言われとりますけん。やけん、止まっとる新米っちをイヌワシが追い抜いていく感じたい」


九州は説明を終えると、

また何も言わず白濁した液体を湯呑みに注ぎ、

くいっと飲み干した。


「そったら速いのけ!!」


「そいで、新米っちの周りば回りよる感じですたい」


即座に理解できたようだ。

九州は新米に分かりやすく説明するのが上手い。

俺も気なる部分を聞いてみる。


「実際はどれくらいなんでしょうか?」


「せやなぁ、、メッサーシュミット…シュミットな!

…は、550キロ位は出たと思うわ。零戦の22型でも540キロ位だったはずや。180キロ近くは違うやろな」


「イヌワシの2倍だべ!はえーなぁ!でも、旦那ぁ…そんなに速く感じなかったど」


「降下して速度を稼いでいたし、相手もいつも全速で飛んでいるわけじゃないからな」


「せやからな、ボンは高度を高く取って降下して速度を稼いで仕掛けるんや。今までの戦い…だいたい上から被ってやろ?そこが腕やな!零観みたいな機体は、最初から速さで勝つんやなくて、高さを速度に換えて勝負するんや」


九州が静かにうなずいた。

そして、また湯呑みを飲み干す。

この液体はなんなんだろう?

と、思いつつも美味しいヤシの実の汁を

飲んでしまう。


「ほんでな、攻撃したあとにも上がる。これがまた大事なんや。一回当てたら終わりやない。上昇して次の位置を取らな、また同じ高さで戦うことになる。それやと零観の強みが死ぬんや」


「……攻撃して、上がるべか?」


九州が指先で空中に線を描く。


「一撃したあと、そのまま低空に居座っとったら、遅か機体は不利になるっちゃ。けど、上がり直せば、次の索敵につながるとです。高かところから見れば、敵の動きもよう見える。攻撃と索敵は別々やなかと。上昇ば挟んで、つながっとるとよ」


新米はゆっくり息を吐いた。


「なるほどなぁ……。つまり、高度ってのは、速さを作って、また見つけて、また攻めるために使うもんなんだべな」


「その理解でいい。零観は遅い。だから速度が要る。速度を得るには、高度を使う。攻撃のあとには上昇し、また索敵に戻る。その循環があって初めて、機体の性能を戦いに変えられる」


チーフは満足そうに頷いた。


「ただなぁ、新米…これだけはいえる。普通の搭乗員と組んでたら、こないな戦い方はせんな。ボンと組んでるからそういう戦い方になっとる。考えながら飛ぶってちゅうんは、大切なんや。」


九州が外の空を見上げる。


「空は広かばってん、何もせんと勝てんとです。上がる、下がる、当てる、また上がる。その繰り返しで、遅さば埋めるっちゃ」


そう言うと、また湯呑みの液体を飲み干した。

チーフも湯呑みを飲み干し、ニヤリと笑った。


「なんや九州…今日は、よう喋るやんか!」


九州は空になった湯呑みを見つめ、小さく笑う。


「チーフの作ったヤシ酒…効きますたい!」


「それ、三杯目やぞ」


「四杯目ばい」


「飲みすぎやろ!」


これは自家製酒だったようだ。

匂いを嗅いだが…

とてつもなく独特な強い匂いがする。

1口飲んだが、喉が焼けそうだ。


前から少し気になっていた事があったので

聞いてみる。今日の九州なら答えてくれそうだ。


「そういえば……いつも『チーフ』って呼ばせてますよね?なんでですか?俺は整備長って呼んでますけど」


チーフが湯呑みを眺めながら語りだした。


「それなぁ…エンジンの勉強してときにな、英語の勉強もしたんよ。それでな辞書にな、『Chief』って載っとったんや。『長』とか『親分』とか、そんな意味らしい。これやわー!っておもったわ!かっこええやん!」


「それになぁ…長…とか言われるん、ムズムズするんや…偉そうやん!嫌やわ!チーフがえぇ!チーフ!」


九州が少し考えて……

ヤシ酒を煽る。


「昔、一度だけ『整備長』って呼んだことがありますたい。」


チーフが慌てて手を振る。


「やめろや!その話はアカン!」


九州は笑いながら続ける。


「最初は整備員みんなで反対したとですけどね……。」


「でも、頑として変えんとですよ」


「そのうち、みんな諦めました。」


俺も思わず笑う。

「みんな諦めたんですか…困った人だなぁ」


「しかも、一回基地のお偉いさんに怒られたことあるんですたい。『チーフは敵性用語だ! 日本語で呼べ!』って。」


新米が目を丸くする。

「そったら、どうしたべ?」


チーフが胸を張る。


「そんなん言われてもなぁ!『飛行機かて、もともとは外国人が考えたもんや! 呼び方が、敵性用語でつこうたらアカンいうんやったら、うちらが整備してる飛行機も元々は外国製や!つこうたらあかんやろ。飛行機なんか止めて、刀と槍と弓で戦わなアカン!』って言うたったわ!」


一瞬、部屋が静まり返る。

九州が苦笑いする。


「……あの日は、大変でしたたい。」


「まぁ、営倉送り一歩手前やったもんなぁ。」


「でも、結局『チーフ』のまんまやったとよ」


あんぐりと口を開いていた新米が一言


「そ、それでもチーフがいいんだべか?」


「大事やぞ!呼ばれる方も気分っちゅうもんがある!」


みんなで笑ってしまう。

さらに聞いてみる。


「じゃあ……俺の『ボン』は?」


チーフが少し真顔になる。


「あぁ、それなぁ…最初会った頃、お前さんな…まだ子供みたいやった。好きなもん取り上げられて…イジけてる感じのな!…せやからボンや。」


「でも今はなぁ…」


「立派な隊長さんや!せやけど、今さら変えられへん!ボンはボンや!」


そう言うと…

チーフは湯呑みの酒をぐぃっと飲み干した。

確かに…当時はイジけていたかもしれない…


そんなことを思い出していると…

俺の湯呑みに酒を注ぎながら

チーフが話しかけてきた。


「そや!オレからも聞きたいことあんねん」


「なんでしょうか?」


「ボンお前…機銃撃つ時…どこ狙ろうとんねん」


「…???…機体ですけど…」


「機体のどこ狙ろうとんねん…って、話や。敵が落ちん!落ちん!って言うとるやろ」


「胴体ですかね…当てやすいし」


「そらアカンわ」


九州も湯呑みの酒を飲み干す


「ダメですねぇ。胴体は当てやすうても、落とすには弱かです」


「……だ、だめなんけ?」


「当てるだけやない、落とすんや!…というかな、ボン…むか~し撃ってた感覚で弾当てとるやろ?」


「えぇ…まぁ…」


俺も湯呑みの酒を飲んでみる。

凄い…一気に体が熱くなる。

九州が俺の湯呑みに酒を注ぎながら…


「隊長……もう時代が違うとです。昔より防弾板もつけとるし、装甲も強うなっとりますたい」


確かに…昔の感覚で射撃していたが…

そんなに違うのだろうか。

だが、確かに今回確実に落とせたのは

操縦席を撃ち抜いた時だけだった。


「エンジンにも当てたんですが…火が消えました」


「それなぁ、消火装置入っとんねん」


新米が不思議そうな顔をしている


「消火装置ちゅうとは、エンジンが燃えた時に火を消す装置のことたい」


「すっごいなぁ!それウチのにも付いてるのけ?」


「我が―――

大日本帝国海軍―――

観測機に――

消火装置など―――

ありゃせん!

気合いや!気合い!」


「気合いで消えるんけ!?」


「そや!急降下して消すんや!気合い!…と言いたいとこやが、メッサーシュミット見た時はもう付いとったわ。…何年も前の話やけどな」


「そういうとこは遅れとるとです」


そう言うと、チーフと九州は湯呑みの酒を飲み干してしまう。


「だからなぁ、狙うとこ考えて撃たなぁ…落ちへんのよ。今の敵はな。俺は直接戦っとらんから…何とも言えへんけどなぁ…これだけは言える。進歩してるんよ…技術は…」


なるほど…俺は進歩してなかった。

ただ昔のまま飛んでいるだけだった。


「でもなんや、横っ飛びとか編み出したんやろ?それと同じや。必殺技編み出したれ!そやなぁ…秘技!乱れ撃ち!…みたいなやつ…どや?かっこええやん!」


九州が真顔で答える

「弾ば無駄にするんは、ダメですたい」


「じょ、冗談やがなぁ。直ぐ本気にしよる」


チーフは、苦笑いしながら九州の湯呑みに酒を注いでいる。


「撃つ場所を、考えないといけないんですね」


そう言うと、俺は湯呑みを置いた。


「そうやぁ…昔のままやったら、届かん相手もおる」


九州が静かに笑って、湯呑みを置く。


「そげんです。空戦は、当てた方が勝つとじゃなくて、落とした方が勝つとです」


チーフが最後に湯呑みを持ち上げる。


「ほな、零観職人への第一歩や!乾杯!!」


みんなで乾杯をして湯呑みを飲み干した。

よく見ると新米も飲み干してしまった。

大丈夫だろうか。


だが…

敵を落とす撃ち方…これは研究せねば―――

お読みいただきありがとうございます!

続きが気になる方、応援してくださる方は、画面下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけると執筆の励みになります!

次回更新は7月16日13時30頃を予定しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
「気合いで消えるんけ!?」のセリフが、印象に残りました。 消火装置を付けたいなどと言おうものなら「大和魂が足りない」と言われかねない、当時の空気感。 その中で、敵機の性能が見る見る向上していく現実…
現場は当然判ってて、上も判っていたとしても人も資源も技術も予算も足らなぬ…悲しいなぁ
五臓六腑に沁みてくる作品です。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ