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『在りし日の空 』~南方無人島の独立飛行隊 零式観測機で 斯く戦えり~  作者: ともぞう


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13/33

第13話 帰還

 ──帰投のために機首を戻した時には、

 もう戦闘の熱も少し冷めていた。


 海面は相変わらず鈍く光っているが、

 さっきまでの空戦が嘘みたいに静かだった。



「……戻るぞ」



「了解だべ」



 新米の返事は短い。


 だが、どこか興奮が残っている。


 零観は波を拾いながら基地へ向かった。

 エンジン音は安定していた。


 あの横っ飛びも、無理がなかったわけではない。

 だが、どうにか持ちこたえてくれた。


 やがて、湾の入り口が見えてくる。

 草木に覆われた小さな入り江。


 遠目にはただの密林にしか見えぬその奥に、

 こちらの居場所がある。



「見えてきたべ」



「……あぁ。」



 砂浜には、チーフが先頭に立ち、

 こちらを見上げている。



「おう、帰ってきたか!」



 その声は大きかった。

 だが、どこかほっとした響きもある。


 俺は零観からゆっくりと降りた。

 ようやく肩の力が抜ける。



「ただいま」



 そう言うと、チーフがすぐに手を振った。



「おう、おかえりや!遅かったやんか。

 試運転どうやった?機体は無事そう…

 …って、なにしてきたんや!

 リベットが何本も抜けとるやないかい!」



 そういうと…

 翼の外板が小刻みに揺れていた部分を

 睨みつけていた。

 急降下して引き起こした時の…あの異音…




 ―――バンバンバンバン…




 あれは、リベットが弾け飛ぶ音だったようだ。



「様子見のつもりだったんですが…

 ちょっと気張り過ぎました…」



「どんだけ突っ込んだんや?普通こないならんぞ。」



 新米が口を開く


「翼が、鳥っコのようにバタバタしてただ」



 チーフが口をあんぐり開けて驚いている。


「ボン…分かっとんのか?

 リベットだけで済んだから助かったんやけどな。

 零観は全金属製ちゃうんやで!

 補助翼とか一部の部分は布張りや!

 高速で突っ込み過ぎると…

 たわんで舵が効かんようになる事もある。

 気をつけなアカンでぇ、ホンマに。

 ……まぁ、

 それでも戻ってきたんやから上等や!」



 砂浜へ寄せると、皆が引き揚げの支度を始めた。


 転輪を下ろし、機体下に潜り込ませる。

 いつもの面倒な作業だ。


 合図をすると倉庫にいるチーフが巻き上げ機の

 スイッチを入れる。


 だが、今はその手間すら妙に頼もしい。


 ゆっくりと零観が倉庫に向かって動き始める。


 その後ろを、足元を気にしながらゆっくりと歩く。


 倉庫に機体が収まり

 巻き上げ機のモーター音が止まると

 静寂が戻ってきた。



「…隊長」



 振り返ると、九州が立っていた。

 メガネを指で押し上げ、

 落ち着いた顔でこちらを見る。



「無茶ばなさいましたね」



「分かってる…でも、戻ってきたさ」



 それだけ言うと、

 九州はそれ以上何も言わなかった。

 責めるでも、褒めるでもない。


 ただ、事実だけを口にする。



「味方が一機、襲われててな…。」



「相手は何機やったとですか?」



「よ、四機…かな…。」



 九州は短くうなずいた。

 その横で、新米が目を輝かせながら口を開く。



「旦那、さっきの横っ飛び、痺れたなぁ!」



「……あれしかなかっただけだ」



「でも、ほんとに鹿みてぇでした!」



「褒めてんのか、それ」



「褒めとるべ!」



 そのやりとりに、チーフが吹き出した。



「ははっ! えぇやないか。

 味方助けて、帰ってきて、機体も…

 そこそこ無事やった!今日はそれで十分や。」



 そう言って、チーフは零観の胴を軽く叩く。



「こいつも、よぅ頑張ったやんけ」



 俺は機体を見上げた。

 まだ熱を持った胴体…。


 さっきまで死地を飛んでいたとは思えぬほど

 静かにそこにある。



「……ああ。よく持った」



「明日、整備し直しやな」



「すみません、よろしくお願いします」



「隊長」



 九州が、少しだけ声を落として言った。



「次は、あんまり無茶ばしなさらんごつ」



「善処する」



「そげん言われても、信用できまっせんね」



「ひどいな」



「それが事実ですたい」




 その言い方に、

 少しだけ笑いがこぼれた。


 張り詰めていた空気が、

 ようやくほどけていく。


 基地はいつもより静かだった。


 だが静けさの中には、

 確かにひとつの手応えが残っている。


 一機を助け、敵を退け、零観も戻った…




 それで十分だった───



 

【大切なお知らせ】

【7月14日 13時30分頃公開予定】

今後とも、よろしくお願いいたしますm(*_ _)m

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