表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『在りし日の空 』~南方無人島の独立飛行隊 零式観測機で 斯く戦えり~  作者: ともぞう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/33

第12話 反撃

――だったら…

鹿みたいに横っ飛びできねえべか?


そうだ…

あれなら、相手の狙いを外せるかもしれない。


「……やってみるか」


口の端から、独り言のように漏れた。


「旦那!どうしただ!?」


「横だ……横っ飛びするぞ!」


ラダーを強く蹴る。

機首が横へ跳ねた。

そのまま、機体を一気に倒し込む。

零観が大きく傾く。

海と空が、視界の中でひっくり返った。


「うおっ……!」


体がシートに押しつけられる。

だが、その瞬間!

背後で敵の曳光弾の束が空を切った。


避けた!

動きにも余力がある。


「……やれたぞ」


俺は息を飲んだまま、さらに機体を滑らせる。

横へ跳び、追撃を外す。

まっすぐ逃げるのではなく、相手の予想を裏切る。


「旦那…今の……」


「そうだ!鹿だ!!」


敵一機が、こちらの動きに惑わされ遅れた。

照準がずれる。

その隙に、別の機が隼の方に向かおうとする。


「来いよ……!」


俺はあえて機体を乱し

敵の意識をこちらへ引き寄せた。

隼を逃がすには、こちらが囮になるしかない。


「隼が……抜けてくべ」


新米が言った。


「なら、十分だ」


再び一筋、曳光弾が走る。

今度は遠い…

さっきまでのような、肌を裂く距離ではない。


「よし……!」


そのまま横っ飛びを続ける。

敵の射線を外し、隼から少しずつ離れる。

周りを見たが隼の姿はもう見えない。


「……あいつは助かった…か…」


そう言うと、新米が小さく息を吐いた。


「……今のは、ほんに鹿みてぇでした」


「だろうな」


「最初からそれやれば、よかったんじゃ……」


「最初から思いつくわけないだろ」


そう返しながら、機体を戻した。

遠くで、まだ銃声の残響が聞こえる。


「……来る!」


新米の声が背後で弾けた。

追ってきた敵一機が、わずかに前へ出すぎた。


横っ飛びに遅れ、射線がずれたその瞬間…


――敵の機体が、わずかにオーバーシュートした。


「今だ……!」


ラダーを蹴り、操縦桿を倒す。

零観が横へ滑り、敵機の脇へ回り込む。

見えた…

コックピット…

距離は、ほとんどない…

敵と一瞬、目があった!


「そこだ!!!」


引き金を絞る。

機銃が吠え、曳光が一直線に飛んだ。

次の瞬間、敵の風防が砕ける。

操縦席が、赤く弾けた。

敵機はそのままふらつき、

翼を震わせながら海へ落ちていった。


「……仕留めた!」


思わず叫んでしまった。

新米が息を呑んだ。


「や、やったべ!!」


残る敵機は、こちらの動きに一瞬たじろいだ。

その隙に、さらに距離を取る。


「よし、離れるぞ」


「んだ!」


降下し速度を上げながら、海面すれすれを滑った。

さっきまでの死闘が嘘のように、

空は少し静かになっている。


「……最後の一発、効いたな」


「旦那!かっこよかったべ!」


「これで、あの隼も逃げ切れたか」


「たぶん、もう見えんべ。チーフが言っでた…なんちゃら…なんちゃら…も強がったな」


「ハリケーンな!」


「そういえば、機銃は?」


機銃に手を伸ばした新米が、急に黙った。

返事が返ってこない。

後ろを振り返ると何故かモジモジしている。


「なんだ小便か?」


「………違うだ」


「お、お前!まさか…デカい方か!それは止めろ!」


安心して気が抜けたのかもしれないが…

さすがにマズい。


「…弾さ…切れてた…だけだったべ…」


「は?再装填しなかったのか?」


「………。今は、撃てるべ。」


緊迫した状況で混乱してしまったようだ。

実戦は数回…仕方ないことだ。

しっかりと敵機の報告はしてくれている。

遠くの敵もよく見えている。

今はそれだけでもありがたい。


「今度はちゃんと再装填しろよ!それと…デカいのは勘弁してくれ(笑)」


「大丈夫だぁ!我慢すっだ!!」


「はぁ!?普通に出そうなのかよ!?」


「……早く、帰ってけろ」


「おう!遠回りするわ!」


「漏れてまうべ!!」


二人で大笑いした。

ふと見ると翼の外板の一部が小刻みに揺れている。


「こりゃー、整備長に怒られるな…」


そんな事を思いながら帰路についた―――


お読みいただきありがとうございます!

続きが気になる方、応援してくださる方は、画面下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけると執筆の励みになります!

次回更新は7月12日13時30頃を予定しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
鹿の横っ飛びの伏線が、しっかり回収されましたね。 苦戦が続く中でも、搭乗員と整備員の絆が少しずつ深まっていく様子が、とても美しく描かれています。 また、少し前の回でしたが、ラジエターからの煙の話題…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ