8話 友達でよければ
「さぁて、そろそろお開きにするか」
あれから2時間が経った。澪桜は結城と打ち解け、いろんな話をした。
美術館に行くのが好きなこと。
天文学に興味があること。
三半規管が雑魚過ぎて
プラネタリウムは酔うこと。
猫が好きなこと。
映画が好きなこと。
絵を描くのが好きなこと……
結城はそれを嬉しそうに、時には共感し、時には聞き役に転じて澪桜の話を聞いていた。もっと知りたい、些細なことでも何でも。そう思いながら
(……こんなに話していて楽しい人は初めてだな)
それは澪桜も同じだった。
こんなに話しやすい人は珍しい。
澪桜は人見知りであまり話すタイプでは無かったのに、いろんな話がしたくて仕方なかった。優しく聞いてくれて、盛り上がってくれる、こんなしょうもない話なのに共感してくれる人は初めてだった。
それが新鮮で、嬉しくて。
今までは白い目で見られるか、呆れられるか話を遮られるかで、最後はいつも絶縁。それがセオリーだったのに、結城は自分の知ってる範囲で話題を広げてくれる、笑いながら。
(この人とは仲良くなれそうな気がする)
もう少し話したい。連絡先を聞いてみたい、自分からそんな風に思うのは初めてだった。
しかし思う。澪桜は今日の”残念会の主人公”
(結城さんは私と友達になりたいから来てくれたと山本さんが言っていた。それはそうなのかもしれないが、流石に今日このタイミングで私から聞くのは軽い女だと思われそうだな……残念だけどやめておこう)
そう自分に言い聞かせて澪桜は首を振る。
結城は結城で同じことを思っていた。
(連絡先聞きたいけど、彼女の残念会なのにさすがに今日の今日連絡先を聞くのは、焦りすぎだ。がっついてる感じがして、悪い印象を与えかねないよな……)
ここまで仲良く話せたんだ。きっとまた近いうちに山本が場を作ってくれるだろう、というか絶対作らせる。そう決意し澪桜に別れを告げようとした時――
二人の背後に彼女が立つ。
「とりあえずさっさとLINU交換ですね!!」
松井は二人のスマホを出させ、合コンのノリで無理矢理交換させた。早く早く!と急かされながら慌ててLINUを交換した。
「よ、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
名刺交換のような態度で交わす挨拶
薄く頬を染めた結城が誤魔化すようにレジのほうを見ると、山本が会計していた。
「あ、僕も会計してきます……!」
さりげなく澪桜の追加注文の伝票と自分の伝票をサッと持って行こうとする。慌てて財布を取り出す澪桜。
「わ、悪いです! そんな!」
だが結城はそっと手を伸ばし微笑みながら制止した。
「いえいえ、これは僕のワガママですから」
「うへぇ〜動きがイケメーン」
颯爽とレジに向かい会計を済ませる結城の後ろ姿に、酔っ払った松井が言った。
申し訳なさそうな澪桜が手元で口を抑えながら呟く。
「……そんな。その追加伝票は山本さんに払わせればいいのに」
「よしお前1発殴る」
戻ってきた山本の俊敏なツッコミが炸裂した。
みんなでワイワイと話しながら外に出た後、澪桜は深呼吸し、山本と松井の方に振り返る。
「はー、今日は本当に楽しかった。山本さん! 誘って頂いて、そして奢って下さって本当にありがとうございました!
沙也加ちゃんも来てくれてありがとう! 思ってた以上に心がスッキリしました!」
丁寧に頭を下げてお礼を言った。
そして結城の方に体を向け、目線を合わせ微笑んだ。
「結城さん、先程はご馳走様でした。お話が出来てとても楽しかったです」
「とんでもないです。こちらこそ、楽しい時間をありがとうございました。お話出来て光栄でした」
とても深い、吸い込まれそうなほどの優しい笑みで澪桜を見つめる。結城の髪が春の夜風に揺れてふわりと舞った。
澪桜は、やっぱり綺麗な人だなと思いながら笑みを返す。
「周、お前車だろ? 全員送ってくれよー。自力で帰るのめんどくせぇ」
唐突に言う山本の提案にびっくりする結城。
女性陣二人に視線を向け、不安げに聞く。
「いや、僕は問題ないけどそれは女性達が嫌だろう……」
「私は大丈夫でーす! 気にしませーーん!」
はーい! と手を挙げる松井それでもまだ不安げに見つめる結城に澪桜が申し訳なさそうに聞いた。
「……ご迷惑では……?」
それを肯定と捉えた結城はパァッと表情を明るくさせ、勢いよく笑顔で首を振る。
「僕は全然大丈夫です! 少しここで待っていてください。車取ってきますので!」
車の鍵を澪桜に見せた後、ネオンの中を歩いていく。
結城の後ろ姿を見つめながら、山本が静かに澪桜に尋ねた。
「で?……どうだった? あいつは」
「話しやすくて穏やかで、良い方でした」
山本と同じように結城に目を向けながら素直な印象を答える澪桜。
普段聞けないような柔らかな声が斜め上から響く。
「……あいつをよろしく頼むよ。安達」
ふと山本を見上げると、見た事もないような優しい顔をしている。
「……友達でよければ」
結城の去って行った方向に視線を戻し澪桜は朗らかに言った。




