41話 嫌われ者
「もっ……申し訳ございませんでした!!!」
山本に頭を下げ顔面蒼白になる女性
「……まだ挽回出来ない訳ではない。
幸い取引先の担当の方からの連絡より先にこちらが気付く事が出来たから、今から今回の件を取引先に連絡、営業の担当と再度契約内容の確認、そして取引先に謝罪しに伺う流れになる。出来るな?」
「はい…………分かりました。」
少し歯切れの悪い女性
不服そうにする。
ピクっと山本が察する
「何か都合でも悪いのか?」
「いっ……いえ、別に。」
目を泳がせた。
(こいつ自分のミスで大事になりかかってんの、分かってねぇのか?)
イラつく山本。
そこに書類を渡しに来る澪桜
「係長。書類の確認お願いします。」
「……安達、お前この中田さんの件、手伝ってやれ。」
「えっ!?」
バッと顔をあげる女性
とても嫌そうな顔をする
「……分かりました。中田さん。すみませんが経緯を教えてください。把握したいので」
「……分かりました……」
ツンとそっぽ向いたまま澪桜を連れて自身のデスクに向かった。
それを見ていた佐野。
(……あの人マジで色んな人に嫌われてるのな。ざまぁねぇけど。)
未だに仕事を覚えられない佐野は毎日澪桜から理詰めで怒られてウンザリしていた。
人に嫌われている澪桜を見て少しスカッとした。
自分だけが嫌いなわけじゃないんだと
安堵したのだ。
昼休憩
先程の中田という女性が給湯器付近でパート勤務の女性達と3~4人で話をしていた
「さっき大変そうだったね!」
「そうなのよ!!マジで最悪!ちょっとミスっただけなのにさ!
取引先にもバレてなかったんだから別に良くない!?
しかもさ〜よりによってなんで安達さんなんかと!!
あの人本当になんであんな上からチヤホヤされてんの!?」
「だよね!庶務課から上がってきたって人でしょ?」
「たかが高卒の分際で生意気なんだよね、あの人」
「わかるー!私綺麗だから何してもいいんです!みたいな顔しちゃってさ!」
「あれじゃない?篠山部長の愛人だったからコネで上がってきたんじゃない!?皆そう言ってるよ。」
澪桜が気に食わなくて嘘を本当のように言った
「うわ!それ有り得る!そんで係長も誑かしてるってこと!?」
「そうそう。それも皆言ってる。だっておかしくない?あんな安達さんばっか頼るの。今も繋がってんじゃない?2人とも……あの人ヤリ〇ンなんだよ絶対。」
嫉妬からどんどん嘘が大きくなっていった。
そしてそれを信じる3人の同僚。
「えー!?節操なしじゃん!ウケる!」
「キモっ!!あはははは!!」
「ええー?そんなのと一緒に働くなんて本当に勘弁してほしいよ。早く辞めてくんないかな、あの人。」
「それ同感だわ。」
勝ち誇ったように中田はチラッと澪桜の方を向いた。
以前気になっていた取引先の男性。途中で何故か澪桜に担当を変更させられた。
そしてその人が澪桜に告白している所を偶然見てしまった。
しかも……友達からならなんて言っていた。
かまととぶってんじゃねぇよと思った。
あれからあの女が心底気に入らない。
物凄い大きい声で話すせいで
休憩室まで丸聞こえだった。
休憩室にいる他の人間がチラチラと澪桜の方を向いた
ここの休憩室は営業部と営業企画部の小さな空間
……澪桜を知らない人はあまりいない。
……もちろんわざと周りに知らしめる為に。
あの女はこの会社に似つかわしくない淫売だと。
澪桜はいつもの右奥の窓際の席で
何を言われても動じる事なくお弁当を食べていた。
ポコン
結城のLINU
『お弁当めっちゃ美味しい!ありがとう安達さん!洗って持って帰るね!なんか健康になりそうですよ俺!』
ほっこりする澪桜。
(良かった。美味しかったみたいで)
目を瞑って深呼吸する。
他人にどう思われようと、何を言われようと関係ない。気にするな。
聞かなくていい。
私には結城さんがいる。
沙也加ちゃんがいる。
山本さんがいる
大丈夫。独りじゃないから
何度も自分にそう言い聞かせる。
カップラーメンを食べ終わり片付けながらその様子を見ていた佐野は少しいたたまれない気持ちになった。
(さすがにあれは……ひどくないか?子供じゃあるまいに。)
高校生のいじめのようだと思う佐野。
そこに山本が外食から帰ってくる。
「佐野、ちょっと来い」
「……はい。なんすか?」
自販機の隣に設置されたベンチに座り佐野にコーヒーを渡した。
「……お前仕事どうだ?だいぶ慣れてきたか?」
ペットボトルのコーヒーを飲みながら聞いた
「……すみません。まだ……」
少し凹んで答える。
何度やっても澪桜からのOKは出ない。
だから雑用から抜け出せていなかった。
「……安達が怖いか?」
佐野はビクっとした。
「別に怖くなんかっ!!……てか、あの人なんなんすか?
謝っても許してくれないし、言ってることむずかしくて理解できないし。正直高卒のくせにって、うちの部署に来たのもコネだってみんな言ってますよ。」
山本とできてる。
さっきの噂……薄らそんな気がするからそこは伏せた。
「高卒に……コネねぇ……。」
そう言ってコーヒーをまた飲んだ
ゆっくり佐野の方を向いて話し始める
「あいつはさ、18歳で庶務に入って、備品の在庫管理、領収書のデータ管理、経費精算、書類作成、部署内の小口現金管理まで全部一人でやってたんだよ。誰も頼んでねぇのに気になるっつってな。しかもうちの庶務課は他部署の経費精算までやるから、経費の金額が少しでも合わなかったら提出したやつを永遠に追いかけてな。
一人監査って呼ばれて怖がられてたよ。」
「一人監査……」
ものすごネーミング。でもとてもわかりやすい
「しかも庶務課に入ってから5年間、一切のミスなし。これがどれだけ凄いことか分かるか?
普通一人で出来る内容じゃない。
だから篠山部長が目をつけた。あの数字の強さを庶務課で眠らせておくのは勿体ないってな。
だから異例中の異例で引き上げられたんだよ。」
「……」
確かに無理かもしれない。
それだけの仕事量をいきなり高卒で一人でやりこなしてノーミス。
俺なんて大卒なのにミスばかり。
「高卒だから仕事出来ないとか、大卒だから偉いとか、そんな価値観のやつはカスだ。まして妬み嫉みでコネだのなんだの言って自分を納得させるでっち上げの理由付けようとするやつはな。
いいか、お前はまだこれからなんだ。
そんな価値観に感化されるな、無視しろ。じゃないとお前までクソみたいな人間になって後で後悔するぞ?」
そう言って佐野の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「うっわ!!ちょ!係長!?」
「安達の事は好きにならなくていい。でもな、仕事の姿勢は見習え。まずはそこからだ。」
そう言って立ち上がる。
「さぁて、中田さんのトラブルの尻拭い……行ってきますかねぇ。はぁ……中間管理職なんて本当にめんどくせぇな。」
そうボヤきながらデスクに戻って行った。
その姿が何故か……大人でカッコよく見えた。
「俺は……まだまだガキだな。」
もらったコーヒーを握ったまま俯いて一人呟いた。




