39話 結城の恋
ブーブー
スマホが震える。
時刻を見ると
1:20
(……ったく誰だよこんな時間に。明日から仕事なのに迷惑な……)
気だるくベッドから身体を起こし画面を見ると
「!?」
思わず電話をとる
「もしもし……なんだ?
お前から電話してくるなんて珍しいな。」
低くハスキーな掠れた声で呟いた。
『どうしよう……』
弱々しい結城の声。
何かあったのかと思わず大きな声が出た
「なんだ!?どうした!?」
(まさか……とうとうフラれたのか!?)
焦りから声が震える
『………………幸せすぎて……俺死にそう』
「…………」
山本はスマホから耳を離した
それはもう呆れた顔で。
心配して損したわと言うように。
「……切っていいか?」
通話終了ボタンに指が向かう
『待て待て待てって!!!マジで!聞いて欲しいの!!』
必死に食い止める結城
「……なんだよ……惚気話なら他当たれ」
冷たく言い放つ
『はぁ〜そんなこと言うなよぉ〜
彼女に捨てられたからって八つ当たりすんなよぉ
大人気ねぇなぁ〜』
悪気もなく毒を吐く結城
「う……うるせぇぞ!!!いつまでも5年前の事言ってんじゃねぇぞ!
今まで誰とも付き合った事もねぇ童貞のくせに知ったような口聞くな!!!」
古傷に塩を塗られブチギレる山本
『!!!!!んだとこのっ!!言っていいことと悪い事があるだろうが!!
俺はお前と違って下半身に脳みそ付いてねぇんだよ!!!
バカが!!!
なにが5年前だ!お前みたいなダメ男は彼女に一生懺悔しとけ!!』
図星を突かれ仕返しとばかりに更に山本に塩を塗るピュアボーイ(28)
「ぐおおおおおお!!言わせておけばっ!!!
あれは若気の至りだったって言ったろうが!
たった1回の過ちを……お前ずっと蒸し返しやがって!!!!」
電話の前で頭を掻きむしる。
痛恨の一撃。
山本の心がもう瀕死。
『クックックッ……でもそれが原因で愛想尽かされて彼女に捨てられたんだろ?
自業自得じゃーん。しょーもねー女抱いて本命失ってたら世話ねぇよ。俺には一生理解不能だね。』
童貞の癖に正論論破。
なまじ口が達者なだけ質が悪い。
「お前それ以上言うと……安達にバラすぞ。お前が童貞ってこと。そしてもう二度と話聞いてやらねぇ。……切るぞ。」
あまりの悔しさに子供じみた脅しをかけた
『!?!?!?
ぎゃーーーーー!!!やめてぇぇぇえ!!
ごめんなさい!すみませんでした!!!
そして話をお聞き下さい山本さん!』
完全に敗北した
恋する男、結城周。
フフンと鼻を鳴らし山本は勝ち誇って聞く
「……仕方ねぇなぁ
……で?話してみろよ?」
『……お前のアドバイス通り誘ったらさ……OKしてくれて……6日に美術館デート出来たんだ。』
「マジか!!すげーじゃん。安達がデートなんぞに付き合うなんて。」
『俺も夢みたいだったよ……。しかもそれだけじゃなくて、その日の夜から毎日安達さんの家で一緒に晩御飯食べてるんだ。』
「はぁっ!?」
衝撃すぎて思わず腹から声が出た。
『凄くない?平日は朝迎えに行って、一緒に通勤して仕事終わったら帰り会社まで迎えに行って、一緒に帰ってご飯食べてまったりコーヒー飲んで帰る。……これ毎日やってる。昨日は買い出しデートした。……やばくない?俺。』
嬉しそうな声で話す結城に山本も本気で祝福する。
あの安達がそこまで変わるとは信じられなかった。
「すっ……すげぇ!!!お前やるじゃん!!!こんな早く安達を攻略するとはっ!!!!さすが周!伊達にモテてきてねぇなお前!!!
で、いつから付き合ってんの!?」
するとキョトンとした声で結城は言う
『……いや?俺達友達のままだけど。』
「はああああああああ!?」
顎が外れそうなほど叫ぶ山本
そんな半同棲のような事を始めておいて……こいつら意味がわからない。
『しかもさ……昨日サプライズでお弁当箱買ってくれてたんだよ。俺用の。来週からお弁当作ってくれるんだって!!
ヤバい!幸せ過ぎない俺!?』
はしゃぐ結城。
いやお前……友達の枠からだいぶ外れてんの気付いてねぇのかよ。
呆れて聞いた
「安達……お前の事もう相当好きなんじゃねぇの?
さっさと告白すればいいのに。なんで告白しねぇの?」
すると結城は静かにぽつりと呟いた
『何言ってんだよ……お前が教えてくれたんだろ?……安達さんが人を好きになったことが無いって。異性との出会いをもう求めてなかった事も。』
「そっ…それはお前っ!!」
言い訳しようとするが
過去にその話を言ったのは確か。
良かれと思って話したことが今更仇となる
『……安達さんはこれっぽっちも俺を好きじゃないよ。
友達として、親しく接してくれてるんだ。
俺を信じてくれてるんだよ。……人として。
だから安達さんにそんな下劣な感情向けてるなんて知られる訳にいかないよ。……じゃないと友達すら終わってしまう』
だから告白なんて出来ない
そう言った
下劣……?
山本は結城の拗らせ加減に危機感を感じる
「下劣って何だよ。
別に好きでいる気持ちに良いも悪いもねぇだろ!
お前だって純粋に恋してるだけじゃねぇか!
なにも悪い事なんかしてねぇ、当たり前の感情なんだよ!
男なら潔く腹くくれ!」
『……ダメだよ……そんな事できない。』
「なんでだよ!!このヘタレが!!」
『俺が今更告白して……彼女を傷付けたら……彼女はもう男自体を信用できなくなる。
せっかく……純粋に友達として仲良くしてくれている彼女の気持ちを……踏みにじりたくないんだ。』
悲しそうに言う。
こんな結城の弱い声を初めて聞く山本。
「じゃあ、お前の気持ちはどうなるんだよ。そんなの上手くいくわけねぇだろ。お前が辛いだけじゃねぇか」
『俺の気持ちなんかどうでもいい。
例え辛くても、傷付いてもそんなの知ったことじゃない。
俺の幸せは彼女が笑顔でいられること。
ただそれだけなんだ。
俺は……彼女の心を守りたい。
どんな形でもいい、傍に居たいんだよ。
だから告白なんか絶対にしない。彼女を裏切るような真似はできない。
失うなんて……耐えられない』
山本が口を開こうとすると遮るようにまた話し出す
『俺は安達さんの為ならなんだって出来る。
恋人になれなくたって……友達として傍に居させてくれるなら俺は満足なんだよ。
彼女が幸せなら……それでいいんだ。』
自分に言い聞かせるように明るくなる結城。
本当に幸せなのだろう。
言葉の節々から伝わってくる。
だけど……とても危うい感じがする。
結城は照れたように続けた
『俺、今凄い……"恋"してるだろ?へへっ』
「お前……それは───」
山本はそう言いかけてやめた。
自分に言う資格はない
そう思ってしまった。
結城の感情は……結城だけの物だから。
言葉を飲み込み、優しく返した
「……そうだな。良かったな周。」
『ああ。ありがとう、山本』
噛み締めるようにお礼を言う結城
お前……俺すらした事の無い経験をしてるんだな。
今まで誰とも恋すらしたこと無かったくせに。
不器用で……本当に馬鹿だな。
「周、お前今幸せか?」
なぁ、周。
それはな、恋じゃないんだ。
知ってたか?
『……凄く幸せだよ。』
恋はな、自分で自分を傷付けたりしないんだよ。
相手の為に自分だけ犠牲になろうなんて思わないんだ。
俺すらそんなの感じたことないよ。
それに名前を付けるなら
「……そっか、頑張れよ」
───愛だ。




