38話 澪桜の変化
「あっという間に着きましたね」
澪桜の会社、ユリシスの近くの目立たない駐車場に車を停めた。
二人で居てもおかしくないように。
人に見られないように。
2人だけの空間を邪魔されたくないから。
「……ホントだ。すごい。いつもなら1時間近くかかるのに」
澪桜はポカーンと驚いている。
それもそのはず、家から駅まで徒歩40分かけていたのだから。
スマホを見ると現在時刻08:30分。
結城は少し寂しそうにした。
(もう少しだけ……車に居てくれないかなぁ)
でも言えない。
そんな図々しい事言って困らせたくない。
澪桜はおもむろに外に出る
結城に挨拶もせず……
もうドアを閉めるのかと結城がしょげていると
「……ねぇ、結城さん。飲み物何がいい?」
はっ?と結城は顔をあげる
澪桜は自販機を指さして聞く
「冷たいの? 温かいの??」
「えっと……じゃあ……ミルクティー。冷たいの」
「おつけ!!!」
パタパタと走って飲み物を買って戻ってきた。
当たり前のように車に乗ってくれる。
「はい。どうぞ〜冷たいミルクティー。あたしも同じのにしたっ」
ヘラヘラ笑って結城に手渡しする。
思わずキュンとしてしまう結城。
(まだ……一緒にいてくれるの?)
「っ……ありがとう……ございます」
受け取ったミルクティーが勿体なくて飲めない。
「これさ! 底に溜まってるんだよ! 成分が!! めっちゃ振ってから飲まないとだよ!? ……ん? 飲まないのかい?」
ガシャガシャ振りながら澪桜は聞く
「有り難すぎて……噛み締めてました」
結城はミルクティーを見つめて言う
「んもーーーーー! 大袈裟だねぇ相変わらず! ほれ! 貸してみ貸してみ?」
「あーーーーー!!!!」
結城の手からミルクティーを奪い取りガッシャガッシャと振りまくる
「ほい! 沈殿物が無くなった!!! 味が均一化された!!」
無駄な親切心。
余計なお世話
「……うう。ありがとうございますぅ……」
しかも蓋まで丁寧に開けられた。
もう飲むしかない。
ゴクゴクと飲みながら澪桜は言った
「もう少しこうして乗ってていいかい?」
ドキッとする結城
「もっ……もちろん! 俺は仕事の出社時間は自由に決められるので」
食い気味に言った。
「あれ? LINU始めた頃9時って言ってなかったっけ?」
飲みながら聞く。
「……前から自分で勝手に9時に出社してただけです。残業なるべくしたくないから。午前中にある程度終わらせたくて」
それは本当。
元々マネージャーになってから出社時間を9時に設定していた。
仕事量の増加と質が変わった為だ。
「そっかそっか。大変なんだね。管理職って。あたしには想像つかないよ」
感心して言う。
「……俺なんてまだまだです。最年少とか言って持て囃されてますが、実際大したことないですよ」
そう言って眉を下げた
「その鼻にかけない感じが実力がある人って感じがするけどね。私からしたら。結城さんが仕事出来ないなんてありえないよ。頭の回転すごく早いからね」
……え?
褒めて……くれてる?
珍しい。
彼女は取り繕うことをしない。
思ったことしか言わない人。
結城は胸がいっぱいになる。
「安達さ」
「変だけどねあははははは!! 何も無いところですぐコケるしね!」
トスかと思った途端に叩き落とされた。一撃必殺のアタックだ
「っ仕方ないでしょ!? 靴がね! ツッてなるんですよ! ツッて!!! 分かる!? グリップがね!!!」
必死で言い訳をした
顔が赤くなる……恥ずかしくて
「はいはい。そう言うことに致しますぅ」
タコ口になっておちょくる澪桜
「何その言い方!! 酷い!!」
がーーーーん
とショックを受ける結城を見て
心から笑った。
とても楽しそうに。
朝日に映る澪桜の眩しい笑顔が
綺麗で可愛くて。
結城は息を飲む
「ウソウソ。あー楽しい。結城さんと居ると楽しいね。……もう少しだけここに居よう」
そう言ってスマホで時間を確認して、まだ大丈夫だとミルクティーを飲んだ。
結城との時間を惜しむように。
今までこんなことなかった。
でも顔は……いつも通り。
嬉しさと勘違いするなと律する自分がせめぎ合う。
結城はミルクティーを握り締めた
「俺も……楽しいですよ」
静かに甘い声で囁いた
自分の気持ちを乗せて
澪桜が分からない程度にそっと……
(……もう……仕事なんか行かないで。俺から離れないで。
このまま、ずっと俺と一緒に居よう)
結城は手の中にあるミルクティーに視線を落とす。まつ毛を揺らしながら、心の中で本音を呟いた。




