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Last Dance『社会不適合者の恋愛論』

物語の最後に僕と踊ろう?Last Danceを。


※爽やかハッピーエンドをご希望の方は読まない方がいいかもしれない。

そんな、後日談です。

残酷描写(弱)が苦手な方、サイコパスが苦手な方はブラバを強く推奨!!強く強く推奨。


是非よろしくお願い致します。


 


 プロポーズから7年が経ち、事業統括GMに昇進し更に忙しくなった周。


 だがなるべく仕事でプライベートを潰すことの無いように完璧なスケジュールを組んで、澪桜との恋人の頃より甘い甘い日々を毎日噛み締めていた。


 そんなある初夏の木曜日。

 周は澪桜に黙って有給を取っていた。


 仕事に行くと偽って。

 澪桜には申し訳なさと罪悪感が湧くが、それ以上に……必ず会っておかないといけない人物がいる。


 必ず。


 周は数年前からとある人物と手紙でのやり取りをしていた。


 雑誌の記者と思わせるような言い回しで相手に取材を続け、その度に端だが、金を現金書留で郵送していた。


 もちろん、やり取りの手紙は郵便局留め。


 誰に気取られることもなく静かに、事は進む。


 何度も直接話が聞きたいと話していたのだが、なかなか応じて貰えない。


 だが内閣改造により、新たに就任した法務大臣。

 その人物を知ってか知らずか……急に態度を軟化させた。


 そして、当初の言い値を一気にはね上げてきたのだ。


 奴からの手紙を読みながら周は鼻で笑い、さらに上乗せして現金書留を送ってやった。


 これで最後とばかりに。


 こうして今日……初めての面会に挑む。


 いや


 最初で最後の。



 ***

 


 とある拘置所。


 約束の時間、午後1時


 ふてぶてしい態度の横柄な死刑囚は刑務官に連れられて姿を現す。


 ガラス越しに座る人物に目を向けた。


 相手はとても同じ人間だと思えないほどの美しい───男。

 その人物は柔らかな物腰と優雅な仕草で犯人に挨拶をした。


「はじめまして。取材の了承をしてくださってありがとうございます。結城 周と申します」


 一瞬……目を疑う。

 そして少し戸惑い

 女じゃねぇのかよと舌打ちをした。


「周なんて名前だから期待しちまったじゃねぇかよ!」


 と悪態をつく。


 だがガラスの向こうの男はそんな凶悪犯を見ても動じることも無く、とても穏やかな笑顔で犯人を見つめる。


 綺麗な唇が微かに動いた。



「いやぁ。やっとお会い出来た。長かったなぁ」


「フン。有難く思えよ。こんな特別待遇は他にはねぇからな」


 偉そうにふんぞり返った。

 パイプ椅子の後ろの脚で器用にバランスをとり、ゆらゆらと揺れる。

 スーツ姿の男は小首を傾げ脈絡もない言葉を呟いた。


「僕はね……とても残念なんですよ」


「はあ?」


「あんな簡単に捕まっちゃって。それでも連続殺人犯なんです? もっと必死で逃げたら良かったのに。整形してでも」


「……何が言いたい?」


「おっと失礼。いえね、あまりに呆気なさすぎて、滑稽で。頭があまり回る方じゃ無かったのかな? ふふふ」


 クスクスと、小さく笑う。

 男の小馬鹿にした態度が一気に死刑囚の神経を逆撫でした。


「あぁ!? なにがだよ!! てか何だ? 取材じゃねぇのかよ!? 喧嘩売ってんのか!? ああ!?」


 刑務官が興奮する死刑囚を落ち着かせる。


「……あ、すみません。そう言わないと会って頂けないかと思いまして。だって言っていたでしょう? 手紙で。被害者遺族とはダルいから絶対に会わないし、謝らないって」



 にこやかな顔のまま。目は一切笑わない。逸らさない――


「ちっ! なんだ。お前も結局アレか。にしても何年も取材のフリして大量に俺に貢いで。お前もバカだよな。まぁ、お前は良い金ズルだから特別だぞ。……で? なんの用だよ。どうせ『彼女を返せ! 殺してやる!』とか泣きながら言いに来たんだろ? バカの一つ覚えみたいに。聞き飽きたぜ。殺った理由も別にねぇよ、ただ殺りたかったからやっただけだし。死体はいいぜ? 興奮するんだよ。死んだお前の女を――」



 死刑囚が続きを言うより先に、男が穏やかな声で遮る。



「……最後の女性覚えていますか?」


「最後ぉ?」


「貴方が捕まるキッカケになった女性」



 ピクっと死刑囚は肩を揺らす。

 思い出しながら、思い切りパイプ椅子に仰け反り両手を頭の後ろにやった。


「……あぁ、失敗しちまったあの女か。……いいケツしてたし、あれは悔しかった。顔は見てねぇけど、いい女だったろうな。鍵さえ開けば……楽しませられたのになぁ。恐怖で顔を歪ませて……ひひひ」


 死刑囚は想像からか。一人でヨダレを拭い身体を気持ちよさそうに揺らす。


 だがそんな様子を見ても、目の前の男は表情を変えない。



「そうですか」


「ああ。顔をぶん殴って痛めつけ、その度に悲鳴を上げるあの女の服を───」


「顔は見ていないと?」


 気持ちよく饒舌に語ろうとしていた所を男の言葉で遮られ、死刑囚はあからさまに不機嫌な態度で、ガタン!! と椅子を鳴らした。


「そうだよ!! 正直顔なんてどっちでもいいんだよ。まぁ、美人の方が醜く歪む、あの汚ぇ顔に興奮するけどな」



 あはははと笑い飛ばす。


 俺は狂ってる。そう、見せつけるように


 一瞬、止まる空気。室内には空調の音だけが響く。



「そう。覚えてないなら本当に良かった。ふふふ」


「……は?」


 思った回答と違う。思わず死刑囚は男の顔に注視した。


 初めてまともに目が合う。


 あまりにも美しく、整った笑顔。


 ゾクッ


 笑っているはずなのに。

 一瞬にして空気が……変わる。

 背中をナイフでなぞられた気がした。


(な……んだ?)


 死刑囚が戸惑っていると、男は笑みを崩すこともなく、足を組み直し、言葉を続けた。


「……それにしても、貴方がもう二度と外に出られないなんて……残念で仕方ないですよ。僕はね」


 分厚いガラスの向こうの死刑囚を見据えたまま、同じことを繰り返す男。

 ゆっくりと語るその姿は異様で……なんとも言えない空気を孕む。


 さっきからおかしい。


 どこか


 会話が……繋がっているようで繋がらないそんな違和感。


「はあ? どーゆー意味だよ」


 少しずつ気持ち悪くなっていく。気づくと手のひらに汗が滲み始めて、足元は無意識に貧乏ゆすりをし始める。


 冷房は効いているはずなのに。


 気持ち悪い。



「いやぁね、やりたいことが沢山あったのに……と思いましてね。ふふふ」


「だからなんなんだよ!!!」


「……本当に残念だ」



(……急に口調が……変わった?)



 犯人は何故か焦りを覚えた。

 思わず口を開く。


「さっきから何言って」


 目が合った瞬間、ビクッと肩が揺れた。



 乾いた喉が鳴り、唾を飲み込めないままへばりつく。


 貧乏ゆすりが徐々に大きくなる。


 深く暗く、吸い込まれるような瞳を向ける男は妖艶な笑みを浮かべたまま


 静かにそして確実に死刑囚を捕え、離さない。



(まるで俺が獲物を見つけた時の、あの――)


 死刑囚の思考を待たずに、低い声が室内に響いた。



「……僕はね。期待してたんだよ。君が悶え苦しんで凄惨な末路を辿り、痛みと死の恐怖で顔を歪めていく姿を見られる事を。あぁ……想像しただけで……堪らない」



 何かを想像した男は身体を悶えせ、両腕で、自身を抱きしめて興奮を抑える。


 穏やかな表情で犯人を見つめなおした。下から上まで舐め回すように。


 そしてもう一度何かを想像し愉悦に浸るように男はゆっくりと舌で唇を濡らした。


 薔薇のような美しい唇がまた言葉を紡ぐ。



「赤く染まっていく君。――君の瞳がゆっくり……ゆっくりと光を失っていくんだ。僕は君に

『痛い?苦しい?それとも気持ちいい?』と感想を聞く。

 でも君はもう空気が口から漏れるだけ。

 息も出来ずに……

 そしてゆっくりゆっくりと君は壊れてしまう。呆気なく」



 恍惚とした表情をうかべ、頬を染め美しい指で唇をなぞる。鋭い視線だけはずっと犯人を捉えたまま。



「ふふふ……。それを間近で是非見てみたかったなぁ……。

 何ですぐ勾留されたんだい?

 いや、なんで罪を認めてしまったんだい?

 ……本当に、本当に残念だよ」


 古風な口調がやけに耳障りだ。


 余裕綽々だった死刑囚の顔がどんどんと歪んでいく。


 息が乱れていく。


 だが、男はお構い無しに優しくゆっくりとした口調で囁く。


 深淵の闇へ飲み込むような、恐ろしい雰囲気を醸し出しながら。


 怪しくも艶めいたその表情はあまりにも残酷で。


 目が離せない。


 離せば……死。


 そんな錯覚さえ覚えた。


 ……額に冷たい汗が流れる。


 今まで何人もの被害者遺族から罵られ罵倒され殺意をむき出しにされてきた死刑囚だったが


 ……ここまで異常な男は初めてだった。


 初夏だというのに何故か、寒気が全身を襲い

 唇が鳴る。


(それにやつの話が正しければ、不法侵入未遂の女の……まさか)


 死刑囚はやっと思い出す。

 あのいけ好かない男を。


 なんで、忘れていたのか。


「お前……あの時の」


 男は一瞬目を見開いて、嬉しそうに頷いた。


「ああ、思い出しましたか? その節はどうも」


 丁寧に頭を下げる男。


 だがその態度とは裏腹に、瞳だけは獲物を狩る絶対的捕食者のそれだった。


 焦りから咄嗟に言葉が出る。


「さては俺を……っ殺す気だったんだな!? 顔で分かるぞ!? 結局お前も俺とおな――」


 興奮して立ち上がる死刑囚、慌てて刑務官が近づこうとすると男が静かに唇の前へ人差し指を立てた。

 チッチッチと鳴らし、薄く口角を上げる。


「違う違う違う違う……。違うよそんな事しないよ。

 ……ただの平凡な一般市民だよ? 俺はね。

 ただ"たまたま"君の死に立ち会うだけ。

 そして目撃してしまうだけだよ。"偶然"ね。

 ――それを楽しみにしていただけ。ただそれだけ、ほんのささやかな願望だよ。ふふふ」


 甘く穏やかな口調で否定する。


 どこまでも丁寧な言葉なのに不穏で。


 汚くて


 なんとも言えない、皮膚にまとわりつく……ザラりとした空気。


 反論すら出来なくなる死刑囚。


 それを肯定だと捉えた男は更に続けた。


「でも、良かったね。絞首刑であっけなく一瞬で逝けるなんて」


「……い、嫌味か?」


必死に声を絞り出した。男は嬉しそうに首を振る。


「想像してごらんよ? 急に独房から出るように言われて、通された部屋には線香の匂い。自分の為にお経唱えられて、遺書を書く。最期のパーティ会場に向かい、四角く区切られた場所に立たされて、目隠しとマスクをさせられ、真っ暗闇の中、急に足場が消えた瞬間、一気に頚椎が折れて終わり。正直、イベントに向かう時にドキドキするだけじゃ、ねぇ?」


クスクスと微笑み、死刑囚の首を舐め回すように見つめた。

言葉がもう。

出てこない。


ずっと考えないようにしていた最期を。

無理矢理想像させられる。


「はぁ……はぁ……」



「いやぁ、ホント勿体ない……勿体なさすぎる。

 もっと苦しんで……

 悦(よ)がって感じて……

 楽しんで欲しかったのになぁ。――死をね」


 チラッと腕時計に視線を移し、固まったままの死刑囚に微笑んだ。


  「さて、そろそろ時間ですね。今日は面会を受けて下さってありがとうございました。最後に君の顔が見られて光栄でした」


 当初の紳士的な印象に戻る。だが雰囲気は先程のまま、氷のように冷たい。


 明確な殺意を孕んだ温度の無い瞳だけは、ずっと変わらない。


 スっと立ち上がる男。


 死刑囚は……震えて動けなくなっていた。


 ヒューヒューと、不規則で乾いた呼吸の音が空調に混じって消えていく。

もう、まともに息すら吸えなかった。


 男は優雅に振り向き、満面の笑みで最後の言葉を紡ぐ。



「おやすみなさい。いい悪夢(ゆめ)を」



 静かにゆっくりと部屋を出る。

 ドアの音も……足音すらさせず。

 初めからいなかったかのように姿を消した。


 ガタッ!



 腰を抜かし、ガタガタと顎を鳴らす哀れな死刑囚。


絞首刑へのカウントダウンと、死へのシミュレーションと言う置き土産を残して。



 ***


 拘置所を出て、両腕を伸ばす。


 空を見上げると濃い青が広がり、じわりと額に汗が滲んだ。


 ジージー


 蝉の声が夏を感じさせる。


 何年も何年も、胸につかえていた黒いしこりが驚く程スッキリと消え去り、心もこの青空のように晴れ渡っていた。



 来てよかった。


 執行される前に話せて良かった。


 俺は心の底から幸福に思った。


 駐車場に向かいながら、澪桜に電話をする。


「澪桜、お腹の調子はどう? ……何か食べたいものはない? ……うん。プリンね分かった。あ、今日ね、早く上がれるようになったの。うん、だからプリン買って今から帰るよ。澪桜の好きなケーキ屋さんのやつ、二人で食べよう」


『やったぁ! イエェイ』


 耳から聞こえる可愛い声。


 愛する澪桜、そしてまだ見ぬ……


 電話を切ったあと、待ち受けにしている澪桜の写真。

 腹部を大切そうに撫でながら朗らかに微笑みかけてくれている。



 ああ。


 幸せだ。


 これでもう、本当に全てを澪桜に向けることが出来る。


 怒りも


 憎しみも


 殺意も


 何もかも乗り越えて。



 だが、車のキーに触れ、ロックを解除しながら眉を下げて呟いた。



「でもホント、残念だったなぁ。俺ならもっと悦ばせてやったのに。まぁでもいいや。もう興味無いし」


 くっくっくっと、肩を揺らす。

 ひとしきり笑ったあと、いつもの優しい笑みに変わった。


「さて。愛する女神の元に帰りますか」


 音もなく、走り出す車を軽快に運転し始めた。



 ……ねぇ、澪桜


 俺みたいな人間が、こんなに幸せでいいのかな?


 君を、君みたいに美しい女神をこんな醜い俺が独占してていいのかな。


 まぁ、今更逃がすつもりなんてないけど。


 例え神に奪われそうになったとしても嬲(なぶ)り殺して取り戻す。


 君はこの先、永遠に俺のもの。


 ああ


 倫理観も、価値観も、破綻している俺に。


 ゴミのような俺に価値を与えてくれた澪桜の為だけに生きる。


 女神の為に。


 俺は一生君の下僕だ。



 愛とは献身であり


 愛とは固着である。


 君の為なら命すら捧げよう。



 それが、ある意味で社会不適合な俺の恋愛論だ。


ここまで、周と澪桜の物語にお付き合い下さり、本当に本当にありがとうございました!!


やはり彼は……彼のままでした。笑


去年の10月末から書き始め、11月30日に用意していたこの話を、色付けしてラストに持ってこれる日が来ようとは!!とニヤニヤしています✨️


皆さんが300話にも及ぶこの作品をずっと読みに来てくださったおかげで、ラストまで書き続けることが出来ました。

毎日のご感想、リアクションなどの全てが私の幸せでした!!


こんなに反応して頂けると思ってなくて。

本当は終わらせたくない。


でも、これで今世の二人の話は終わり。

またいつかこのアホで変人な二人にまた会いたくなった時に、ここへ遊びに来ていただけると嬉しいです!!



続きの転生物も書いてるのでまたそちらでお会い出来たら更に嬉しいかぎり٩(ˊᗜˋ*)وイエーイ


読んでくださった皆様。

本当に本当にありがとうございました!!



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完結、本当におめでとうございます!! 初めて拝読させて頂いた時に面白すぎて指が全く止まらなかったことを覚えています。 第1章完結時には、嗚咽が出る程の涙を流し、章が進めば進むほど、澪桜と周の恋路を邪…
大作の完結。 本当にお疲れさまでした! そして、途中からでしたが更新をリアルタイムで待ち、一話を読む事がとても素敵な時間となりました。 幸せな話、すれ違い、葛藤、二人の前に留まり続ける人たち、去って行…
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