サイドストーリー scar ④ ※残酷描写(弱)
※タイトルでも触れましたが、残酷描写が若干ございます。
苦手な方はブラバ推奨です。
よろしくお願いいたします。
「きゃあああああああああああ!!!」
響き渡る悲鳴。
必死で身体を腕で守る。
暗闇に光る鋭利な刃物。
何度も何度も、体に振り下ろされる。
その度に、感じたことも無いほどの激痛が駆け巡り、気が遠くなりそうになるが、致命傷を守る為に、身体が勝手に防御を繰り返す。
顔に、首に、腹部に、胸に、太ももに腕。
痛い。
痛い。
涙なのか、なんなのか分からない。
口の中まで血の味がして。
怖い。
助けて。
誰か助けて。
小池の顔が、人を殺す人の顔って、こんなに能面みたいになるの?
無心に私の体に突き刺す刃物。
どうしてそんなことできるの?
私はそこまでのことした?
痛いよ。
こんな死に方したくなかった。
しにたくない
しにたくない
もう、声も出ない。痛いのに、身体が動かなくなってきた。
空気が吸えない。お腹が痛い。痛い。痛い。
「テメェ!!! 何してんだぁぁぁ!!!」
ガシャァン!!!
「ぎやぁぁぁ!!」
目の前に折りたたみの自転車が飛んできた気がした。
小池のずっしりとした重さが消えて、少しだけ楽になった。
「藤沢! 野本! ナイフ蹴り飛ばせ! そいつ押さえろ!!」
「救急車!! 救急車!! 警察も呼べ!!」
遠くの方で騒がしい気がした。
「しっかりしろ! 大丈夫かよ!? おい!! すげぇ血だ! 止血ってどうやって!?」
「腹押さえろ! とにかく首と腹だ!!」
圧迫を腹部にもう一度感じた途端、痛みが鋭くなり、身体が思わず反応した。
「っぐうっっ!!!」
「ごめん、痛いよな? でも堪えろ。すぐ救急車来るから!!」
ボヤける視界に、いつもコンビニの喫煙所でたむろっていた少年達が写る。
必死に、助けようとしてくれてる。
「大丈夫だからな! オバサン」
だから……誰がオバサンなのよ。
辛うじて動く首を、私の傍に落ちたスマホに向けた。
画面は割れ、血がベッタリ付着している。
その下を温かい私の血が側溝に向けて流れている。
温かいような
お風呂に浸かってるような。
だけど、どこか寒くて。
痛い。
ヒューヒューと、微かに息をしながら傷だらけの腕をスマホに伸ばそうとした。
「スマホか!? これか!?」
必死に助けてくれようとする彼ら。
ありがとう。
でも、多分もう。
だってね、もう。
痛くなくなってきたのよ。
だから。
彼に……せめて。
最後に
震える指で、彼のメッセージを開く。
目がよく見えなくて。
彼のアイコンと、大きく表示された名前しか分からない。
ゆっくりとフリックした。
打ててる?
ちゃんと、届いてる?
下の青い送信ボタンを押せたか分からない。
ああ、なんだか眠くなってきたわ。
お風呂で寝てる時みたいに、気持ちいい。
温かくて心地よくて。
「しっかりしろ! こっち見ろ! 救急車きたぞ!!」
微かになにか声がする。
うるさいわね。
もう、眠たいの。
ここで寝させてよ。
彼のトークページを開いたまま、私は意識を手放した。
***
私は恋なんかしたことない。
トキメキ?
ドキドキ?
愛してる?
何それ?ウケる。ドラマだけの言葉でしょ。
そんなもの。現実にあるわけない。
だって。男なんて浮気するものだから。
人のものを散々盗ってきた私が言うんだから間違いない。
人から盗るあのスリルが堪らないのよ。
それ以外に価値なんてないわ。
あとは、ハイスペックな男。
侍らせて着飾り、まわりからの羨望を受けて愉悦に浸るからこそ、いいんじゃない。
だいたいね、浮気しない男なんてこの世にいる訳――
「神崎さん?」
優しい声が耳に響いた。
「はっはい!」
私は慌てて背筋を伸ばす。
隣に視線を向けると、目の前に表情の伊藤さんがいた。
一重だけど、まつ毛が長くて。
吸い込まれそうな瞳。
「僕も何か飲もうかな」
手元を見ると、100%グレープジュースがある。
冷たくて気持ちいい。
あれ?なんだ。
私、そうだった。
まだクレストリンクで
働いていたのね。
今までの出来事が夢だったんだわ。
……良かった。
あれは悪夢だったんだわ。
「概ねアプリ開発の方向性決まりましたね。伊藤さんがまさか結城マネージャーと相談し合ってたなんて知りませんでした。なんか抜け駆けズルいです」
コーヒーを購入する彼に冗談めかして呟きながら、近くのベンチへ先に座った。
「ああ、あれですか。ははっ、かっこ悪い話なんですが俺も行き詰まってて、結城マネージャーに愚痴っちゃって。みんな言うことバラバラだったし……でも良かった。
神崎さんの素晴らしいアイデアが形になりそうで。規模はかなり縮小しちゃったけど、僕はいいアプリになるって信じてますよ!!」
トスン、
軽くベンチが振動して重心がズレる。
伊藤さんがコーヒーを開けて、私の隣に座った。
「ありがとうございます! 良いアプリにしましょうね! ところで、小池さんは?」
「? 誰です? それは?」
「あれ? 小池さんって居なかったですかね?」
「あはは。神崎さん、忙しすぎて白昼夢でも見てらしたんでは? いませんよそんな人」
ああ。
そうだった。
そんな人いない。
私ったら夢と混同しちゃってたんだわ。
「それより、もし……良かったらなんですが、その」
彼が頬を染めて、コーヒーを持つ手がモジモジと動く。
私は少し緊張した。
だって、これってもしかして。
「な、なんでしょうか?」
肩が、微かに触れた。
彼のレモンみたいな匂い。
私の好きな香り。
「その。プロジェクトが完成した暁に……ぜひ、お祝いも兼ねて食事にお誘いしてもよろしいでしょうか? あ、もちろん皆でいいんですが!!」
耳まで赤い。
私まで赤くなってしまう。
「え、は、はい。ぜひ! ……その、二人の方がいいかな?なんて……」
「え? ……ほ、本当に?」
恥ずかしくて頷くしかできない。
「やったぁぁぁ!」
「い、伊藤さん! 流石に職場なので!」
「あ、しまった。つい……」
はたっと目が合って、二人で照れてるのがおかしくて。
私達はいつまでも笑った。
ああ――
恋なんて知らないなんて。
本当は嘘。
私は、人生で初めて。
あなたを愛した。
純粋で、真っ直ぐ生きていて。
誰に対しても誠実で。
忖度なんかしない。
だから、計画の途中からあなたを巻き込みたくなくなった。
人となりを知っていくにつれて。
貴方にはいつまでも真っ直ぐ生きていて欲しかった。
私の汚れた世界に貴方は似合わない。
でも。
もう、いいよね?
好きって伝えるくらい。
許されるはず。
「ストレッチャー……1、2、3!!!! 心拍低下! 現在30」
「止血が間に合いません! ……外傷性ショック、腹腔内出血の疑い強く、緊急手術および大量輸血が必要になると思われます。当隊、現発(現場を出発)して御院まで約8分です。受け入れ可能でしょうか!」
「胸骨圧迫準備急いで急いで!!!」
「AEDパット装着! 波形確認します」
うるさいな。
今度こそ、ちゃんと彼に向き合えたんだから。
何の後ろめたさもなく。
彼と共にアプリ開発を頑張って、生きていくの。
邪魔しないで。
愛されなくていい。
浮気はされたくない。
あの子たちみたいに、泣き叫ぶなんて
耐えられないもの。
だからお願い。
伊藤さん。
私、頑張ってるよ。
たまにご飯行くくらいでいいから。
私を嫌いにならないで。
そばにいて。
ラストの5行がLINUに書きたかったこと。
ずっと悩んでいたメッセージ。
そして補完として、232話と265話の一部を読むと、彼女の行動、表情への解釈が変わるかも。




