エピローグ 結婚式③
今回で本編エピローグまで完結です。
「ううー」
「なんだよ。安達の幸せ見届けに来たんだろ? そこまで残念がるなよ。十分幸せのおすそ分けされてんだから」
山本は眉を下げて凹む松井の頭を撫でる。
それは隣の佐野たちも同じ。
一生懸命なにかを佐々木に言っている。
そこに司会の声が響いた。
『では、続きまして……ブロッコリートスを行いたいと思います! 今度は新郎様から幸せのバトンです。独身男性の皆様! ぜひこちらの方にお集まりください』
すると今の今まで凹んでいた二人が瞬時に復活を遂げた。
「いよっしゃぁ!! そう来なくっちゃ!! 拓海行けぇぇぇぇ!!」
「はあ? 何で俺が」
「ココちゃん!! 私の屍を超えて行くのよぉぉ!! ファイトォォォー」
「うへぇ? お、俺自信ないよぉぉ」
「「うるせぇ! 男ならしっかり彼女の仇とってこい!!」」
無駄にシンクロする女達に強制的に追い出された佐野と山本は仕方なく指定された空間に行く。
頭をポリポリかく山本の背後から
「やる気出せぼけぇ!」
という声が聞こえてきた気がしたが山本は気にしない。
「はぁ。めんどくせぇことさせんなよ。周め」
「がっがんばって結城さんのレアブロッコリー!手に入れるぞ」
フンスフンスと、鼻息荒くやっとギアがかかった佐野のすぐ後ろ、上の方から声が聞こえた。
英語で。
「ブロッコリートス? 結城は何考えてるんだ? こんな素敵なチャペルを冒涜――」
「まぁいいじゃないですか? 俺もせめて恋人くらい欲しいなぁ。忙しくて出会いなんか皆無だけど」
「がははははは! 俺は絶対、澪桜ちゃんと再婚するぞ〜。早く離婚しろ結城ぃぃ」
「「Shut up!」」
そして続々と……ガラの悪いというか。貫禄がすごいというか。なんとも言えない筋骨隆々なガテン系の男性たちが、聞き慣れない方言でやって来た。
「結城さんっちさー、相変わらず王子顔しちょるよねぇ!こんな洒落とることしんしゃるんやね(されるんだね)」
「それは俺も思った! 結城さんの幸せ、俺らもあやかるチャンスやなぁ!」
「うおっしゃ!! レスリング部やった過去の記憶を呼び覚ましちゃらぁぁぁ!!」
ドスの効いた声。
ゴキゴキと何故か指を鳴らし、首と足首を回して準備運動している。
「な、何ここ……怖……」
「ひ、ひよんな。見るんじゃない。目が合ったらきっと殺られるぞ」
「ヒィィィ」
山本と佐野がコソコソと耳打ちしながらも、最前列をキープしていると、司会が声を張り上げた。
前方13m程先に周が立つ。
青いリボンを付けたブロッコリーをヒラヒラと掲げた。
「いきますよ〜。しっかり取ってくださいね〜。落ちたら汚いんで」
「「気にするのそこかよ!」」
その誰とも分からない声のツッコミに、場の空気が和やかになった。
いや、その油断が不味かった。
一瞬で最前列が変わる。
周の手からブロッコリが大きく弧を描き、宙を舞う瞬間の出来事だった。
スロー再生のように目では追えるのに、体が咄嗟のことについて行かない。山本と佐野は体勢を崩し、あっという間にドデカイ男たちに最前列を奪われる。
「おわっ」
「うわぁぁあ」
前が見えない。
上を見ても、ブロッコリーなんて――
がんばって手を伸ばす。いつまでも視界に入らない、ブロッコリーに向けて。
『はーい! おめでとうございます! ブロッコリーをゲットされたのはこちらの男性でした! ご参加頂きました参列者の皆様、本当にありがとうございました!』
気付かないうちに終わっていたらしい。
目の前の外国人やデカいやつらが邪魔で何も見えなかった二人。
先程のデジャブのようにとぼとぼと座席に戻ると、案の定互いのパートナーにキレ散らかされた。
前では、ブーケトスをゲットしたイカつい女性が嬉しそうに周と澪桜と記念撮影をしていた。
結局、誰がブロッコリーを取ったのか。分からないまま。
(まぁいいか。別に俺、ブロッコリー好きくないし)
体をブンブンと揺すられながら山本は一人で納得した。
***
「んふ♡」
「というか、何で藤堂さんが参加したんですか? そもそもの話。独身男性だけ参加だったでしょ?」
「そうだそうだ! もっと言ってやってください! 冴木さん!」
ブロッコリーを持って勝ち誇る藤堂に、冴木とハーディンが小声で物申した。
「ふっふっふっ。取れと言われたら取りたくなるのが元ラグビー部の性だ。それに俺は独身男性だぞ!! バツイチのな! 悔しいか!? ホレホレ。これで俺は第二の青春を切り開くのだぁぁ」
「……shit!」
「いや、ホントそれ」
『ただいまをもちまして、新郎 結城 周様、新婦 安達 澪桜様の人前結婚式を結びといたします。
それではおふたりには、ウェディングロードをお進みいただき、ご退場いただきます。
参列者の皆様にはスタッフから花びらと、シャボン玉のどちらかお好きな方を受け取って頂き、ぜひ未来に羽ばたく二人をお見送りください』
スタッフ達が続々と小さな花びらが入ったバスケットと、振っただけでシャボン玉が沢山出るタイプのシャボン玉セットを渡す。
チャペルの正面入口がゆっくりと開いて、太陽光が入ってきた。
参列者達は外に出て、レッドカーペットのまわりに一列に並ぶ。
一番手前に立ち、少し振り向いて微笑む山本と、まだチャペルの中にいる周の目が合った。
(お前、やっぱすげぇな。初めての恋、ちゃんと実らせやがって)
送り迎え出来るって少年みたいに喜んでいた1年前。
それが昨日のことのように山本の記憶を過ぎった。
虫や寄生虫の話ばっかして何考えてるか分からない女だった安達が、息を飲むほど美しい姿でゆっくりと周に手を引かれて通り過ぎる。
信じられないくらい
幸せそうで。
胸がいっぱいになった。
めいっぱい、二人にむけて、器具を振った。
透明で少し虹を帯びた丸いシャボン玉がふわふわと沢山二人のまわりを漂う。
真っ青な空に色とりどりの花びらが空を舞った。
「幸せになれよ周!!」
振り向かないで、静かに親指だけ立てる周。
それだけで十分だった。
一生忘れないと思えるほど幻想的で綺麗な光景に、山本は目頭を熱くして親友の門出を見届けた。
***
せっかく感動していたのもつかの間。
「何だ何だ?」
山本は呟いた。
二人が式場の建物に消えたはずなのに、披露宴会場に誘導されない参列者は首を傾げる。
バスケットやシャボン玉は回収され、今度はビニール袋を渡された。
結婚式なのに。意味がわからない。
ザワザワと困惑の声が上がる中で、建物2階のバルコニーから声がする。
凛としていて、透き通った声。
「おおーい、皆ぁ! 餅まきするぞぉぉぉ!! しっかり取ってね〜。たまにお捻りもあるよ☆」
「「「「なんで餅まき!?!?」」」」
爆笑し始める参列者を他所に、澪桜は続けた。
「うしししし! 1回投げてみたかったんだ!! さあ、女性陣は有利だよ! 皆ワンピースだからね!! しっかり取れよ男性陣」
「……せっかく、今日の澪桜はこの世で一番綺麗だよって今しがた言ったばかりなのに。ホント今日は忙しいなぁ」
眉を下げながらも周は澪桜に寄り添い、餅を持つ腕を上げた。
山本に目を向けて笑う。
「おおーい、今度はひとつくらい幸せのおすそ分けを持って帰って雑煮にでもしろよ〜」
爆笑する山本、他の参列者も両手を広げた。
「おっしゃぁぁ!」
「結城くんこっちだ!」
「餅まきなんて何年ぶりやろ?」
「澪桜先輩〜こっちこっちぃ」
青空に降り注ぐちっちゃくて柔らかい、紅白餅。
皆ワーワーと騒ぎながらも笑顔で掴んでいく。
ハーディンは唖然として、いや戸惑っていた。
「こ、こんな結婚式知らない」
コツンと頭に当たり、手のひらに落ちる柔らかい餅。
餅。
ライスケーキ。
意味がわからない。
いや、もういい。
思わず笑って気合を入れた。
「よし! アメリカンソウルだ結城!! お前の幸せ、俺が沢山持って帰ってやる。そして両親に日本の縁起餅を送るんだ」
「はははは! ノリノリじゃないですか。ハーディンさん! 俺たちも今度こそ沢山とりましょ……ってなんでハリボー!?」
目の前にやってきたハリボーにツッコむ冴木。
「パイの実もあるよー」
澪桜の声が響く。
餅に紛れ、小さな個包装のハリボー、パイの実、マシュマロが降ってくる。
「餅撒けよ!!」
いつの間にか真剣勝負と化した参列者達の戦場。皆何故か餅が欲しい。
ワーワーと盛り上がる中で、手を伸ばしてもつかみ取れない女性がいた。
安達佳子だ。
餅まきは何度も経験してきた戦だ。
だが今日はなかなか取れない。
佳子は必死に餅をゲットしようとする。
手を伸ばした5cm先に、紅白の餅が落ちた。
必死で伸ばした手に男性の手が触れる。
「「あっ」」
つい、必死になり過ぎたと手を引っ込めた佳子は頭を下げる。
「すみません、どうぞ」
彼女の少ししか入ってない袋を見て、藤堂は微笑んだ。
「いえ、貴女の方が先でしたから」
優しくその手に餅を乗せる。
「あ、ありがとう……」
二人の目が合った。
トゥンク☆
周と澪桜の知らないところで、何かが動き出したような気がしたようなしないような。
そんな春の午後だった。
次回より、サイドストーリーを数話ですが更新致します。
きっとモヤッと残っている事もあると思いますが。
あの……メロンの……。ごほん。
もし宜しければまた読みに来て頂けたら幸いです。
サイドストーリーとオマケが終わるまで完結は付けませんのでよろしくお願いいたします!!




