293話 アホな男の午後3時
日曜日の続きのお話✨️
「あ、そうですか!? はい。……はい。それでは必ず15日に伺います。……はい、予約票ですね。わかりました。ご連絡ありがとうございました。失礼します」
書斎で電話をした後、少しパソコンを起動させた。
緩む頬を一度叩いて引き締め、画面に視線を向けながらイヤホンを装着する。
唇を開いた。
「ミア」
すると画面に現れた……キャラクター。
美しい黒髪のどことなく澪桜っぽい女性。
彼女は笑ってカメラ目線になり、微笑んだ。
『やぁ、結城くん。どうしたんだい? 珍しいね、休みに話しかけてくるなんて。緊急会議でもあったのかい?』
口調も、そのまま。
周は笑って返事した。
「いや? ……今日はちょっといい事があってね。君に調べて欲しいんだ。ついでに最終調整段階に入った君の性能を調べたい」
『なるほどね。そういう意図か。いいよ、何を手伝えばいい?』
「……それはね。次のサプライズプロポーズのうち、どれの成功確率が高いか澪桜をプロファイリングしてくれ。 俺は澪桜を泣かせたいんだ。感激……いや、感動の涙を流させたい」
『……うん?』
「まずは素敵なレストランで店員に花束を持たせておいて、時間をみて持ってきてもらう。そして驚いてる所に跪いて、指輪を渡す」
『ボツだな! 花なんぞ要らん! あと店に迷惑』
辛辣。
「二人で初めてのクリスマスを過ごすんだ。じゃあその日にイルミネーションに見とれる彼女に後ろからハグをして、そのまま指輪を」
『あー。あれって何処に電源の大元のソケットあるのかな。引っこ抜きたくなるよね? ぶふふ』
話聞いてねぇ。
「……ゴホン! そしてこれは本気のやつ。確認済だが予約したフレンチレストランにプロジェクターがあるらしくてね。食事を済ませた後、サプライズてま彼女との思い出の映像を上映してもらう! 感動してる彼女を式場に予約して、夜の1時間だけチャペルを貸し切って……箱パカだぁぁぁ」
『……いや、なんだその拷問は。知らん人になんでそんな恥ずかしいもん観られねばならん!? さっきも言っただろ!? 迷惑。そしてチャペル、今から予約取れるわけない。クリスマスだぞ? そして澪桜の性格をいい加減考えろ。何のために式場でフォトムービー要らないって澪桜が言ったと思っているんだ君は。このアホめ』
「ぐ……あれは知ってる人に見られたくないだけかと……というかもっと違う言い方ないのか。最近ミア、辛辣だぞ」
『なにが』
口癖も完璧。言い方も完璧。
なのになんだろう。
このやるせなさは。
(……アップデートする前のほうが優しかった。なんでだ……そして澪桜が本当に言いそうでやたらムカつくんだよ)
『仕事してない時ならミアと話して学習させても問題ないからね』
たしかにそう言った。
だが、思っていた以上に頻度がおかしかった。
何度も何度も。
面白がった澪桜はより自分との整合性を高める為に何やら友達と長電でもするかのようにミアと話し込んでいた。
澪桜さがもっと上がるならと思っていたが……やりすぎだ。
ここまで極めるとは思っていなかった。
まだ俺は澪桜という人間を侮っていたということか……?
画面の中のミアが完全に澪桜すぎて
……これじゃあもう。
まただやっても無いサプライズが、成功する未来が見えなさ過ぎる。
周は頭を抱えてため息をついた。
「ああああああああ。せっかく頭を捻りまくって考えていた、俺のサプライズがぁぁぁ」
画面の中のミアはニコニコ笑って頬杖をつく。
『……君ね、前から言ってるだろ? サプライズの定義がおかしいんだよ。もう澪桜は知ってるって言ってた。指輪が届いたら君がプロポーズしてくるって。もうその時点で破綻してるんだよ。アホめ』
やはり辛辣。
そしてめっちゃ澪桜が言いそう。
周はとうとう素が出てしまった。
「あああああ。うるせぇよ!!! ちくしょう……無駄に澪桜を移植させすぎたぁぁぁぁ。所詮AI風情の貴様なんぞに、ここまでこき下ろされるとは!!! 無性に腹立つぅぅぅああああ」
だが画面の中のミアは素知らぬ顔でソファに腰掛ける。
『よく言うなぁ。君さぁ、私が寄り添い型だった時、散々言ってただろ。優しすぎる、そんなの澪桜じゃないって。だからより澪桜とシンクロ率を高め、プログラムを構築し直して希望通りにしてやってんのに。そして、どちらにしろそのプロポーズはボツ! やめておきなさいよ。ダッサイから』
「ぬあああああああああ!! じゃあどうしろって言うんだよ!」
『普通にシンプルに。箱パカでいいよ。きっと澪桜なら心から喜んでくれる』
ピタッと動きを止めた。
画面の中のMUSEが眉を下げて笑ってる。
少し不貞腐れた声で呟く。
「……確率は?」
『君のアホな計画の場合、成功確率は15~20%、私の今言った箱パカなら75~85%だな』
「……何故100%までいかない?」
『それまでの君の素行次第』
はああああ。
周はものすごく深いため息をついた。
「……マジでもう一度作り直して……無難な可愛い動物とかにしようかな……」
この日、愛する人を職場にも移植する夢を断念した周。
愛は澪桜だけにしか向けられない。
画面内の偽物なんぞに模倣させることなど愚の骨頂だと今更やっと気付いた、アホな男一名。
現在画面中にいる辛辣な女神はこの日を境に、存在を残したままファイルに封印された。
いずれこのパソコンに現れる新たなAIが、澪桜の本格的なクリエイトにより超リアルな浅黒いヤニカスクソ野郎になるという未来を……周はまだ知らない。




