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292話 無垢な日曜日

 


 日曜日

 柔らかい朝日がリビングを照らし、ゆっくりと穏やかな時間が流れていた。



「〜♪」


 ご機嫌の周は初めてのちぅを口ずさみながら、軽快に卵を潰していく。

 塩コショウと少しの砂糖、マヨネーズとヨーグルト、隠し味にディルを入れて味を整えたら柔らかな食パンに挟む。


 チラッと時計を見たら11時過ぎていた。


 今日はまったりと過ごす日。

 朝食兼昼食なサンドイッチを皿に盛り付け、ブドウやイチヂクを添える。


 鴨肉をのせたサラダにバルサミコソースをかけてワンプレートを完成させた。


 IHの方に視線を向ける。

 スープもできあがったようだ。


 周にとって澪桜とのこの時間が何よりも大切で、幸せで。

 かけがえのないもの。


 もう同棲を始めて半年近く経つというのに。

 気持ちは大きくなるばかりで。


 友達だった頃の浅い気持ちなどお遊びと思えるくらい澪桜に尽くしたくて尽くしたくて仕方がない。


 出来ることなど限られてしまうけど。

 ベッドルームから覗く濡鴉色(ぬれがらすいろ)の美しい髪を眺め……目を細めた。



 彼女が安心して


 笑顔でいられる世界を


 俺が護る。


 ……この命が尽きるまで。



 エプロンを外して


 ベッドルームに向かう。

 ゆっくり澪桜の傍に近付いてキスを落とした。



「おはよう。朝ごはん出来たよ?もうお昼だけどね」


 少し冗談交じりに甘い声をかける。


 色素の強い、澄んだ瞳が周を捕らえる。



(ああ。……俺が求めてやまない宝石だ)


「……おはよ。いつもありがとね……お母さん」


「誰がママンじゃあ!!」



 愛する宝石にとりあえずデコピンをかました。



 ***



「おおーう。今日もオシャンティご飯」


「お気に召したみたいで何よりでございます」


 執事っぽい動きに箔が着いたように見える周。

 澪桜は引いてもらった椅子に腰掛けて嬉しそうに揺れた。


 周が澪桜専用のマグにドリップしたてのコーヒーを注ぐ。

 その仕草に見入ったまま口を開いた。


「幸せだなぁ」



 澪桜の寝起きで掠れた声に一瞬動きを止めた周は柔らかな表情で自身のマグにもコーヒーを注いだ。


「俺も同じこと思っていたよ」


「こうやってさ、二人でまったり過ごす日曜日。私大好きなんだ」


「それは俺もそう。どこかに出かけるのも好きだけどね。結婚式の準備も大変だけど楽しいし」



 その言葉に同意するように、笑ってブドウを口に入れる。


「日曜日くらいはまったりがいいよねぇ〜。あ、テレビでも観るかい?」


「そうだね。ニュース、つけてくれる?」


 澪桜はリモコンを操作しながら呟いた。



「なんかお互いここ最近色んなことあったけど……ほら、私も色々無駄に悩んでいたし、君は仕事で大変そうだったし」


「うん」



「なにか憂さ晴らししたいね!!」


 澪桜が両手を広げて何かをアピールする。

 その仕草が可愛くて、サンドイッチを頬張りながら周は微笑んだ。



「憂さ晴らし……? どうやって??」



「んふふ。お楽しみに☆」



 またなにか企んでいる。というような悪い顔で澪桜は白目を向き出した。

 もうそんなイタズラ好きの澪桜には慣れっこの周。

 ハイハイと流しつつ、頬に付いたパンカスを拭いてやる。


 BGMのように流れる硬い声とは裏腹に。

 二人の甘い日常が過ぎていった。


「でね、佐野くんの惚気がすごくて。昨日なんかね――」


『本日午前0時すぎ、東京都港区の首都高速3号渋谷線で、乗用車が中央分離帯に衝突する事故が発生しました。運転していた30代の男性。男性の血液からはアルコールが検出されていて、その場で死亡が確認されました。警視庁は事故との関連と詳しい原因を調べています』



 ドローンで撮影された高速道路の映像が流れる。

 車は大破し見事に原型を失っていた。

 思わず二人は会話を止め、画面に見入る。


 一瞬、被害者の名前がテロップで映し出された。



「うわぁ……そりゃ死ぬわなぁ……恐ろしい」


 画面に向かって呟いた澪桜の声に被せるように……低い声が微かに響いた。

 


「……即死か……勿体ない」


「ん?周さん、なんか言ったかい?」



 テレビから周に視線を戻して、澪桜は微笑んだ。

 穏やかな表情のまま首を振る。



「んーん。なんでもない。人って何で誰かからの忠告をちゃんと聞かないのかなって思ってね。飲酒運転はやめましょうとか、制限速度守りましょうねなんて当たり前のことなのにね」


「そうだね!! 周さんも安全運転いつもお疲れ様!」


「ありがと」


 周は何事もなかったかのように澪桜の髪を耳にかけ、優しく大きな手で彼女の頬を包み込む。


 交通事故のニュースはすぐに終わり、気付くと政治のニュースに切り替わっていた。


『衆議院議員の寶田 征一郎氏が、体調不良を理由に当面の議員活動を休止することが分かりました。事務所側は詳細について明らかにしておらず――』


 もう、周の耳にはニュースなど届いていない。

 目の前で美味しそうに周が作ったサンドイッチを頬張る澪桜に


 澪桜だけに視線を向ける。




 誰よりも綺麗で


 可愛くて


 俺だけの宝物。



 ね、澪桜。


 安心していて。


 君が笑顔でいられる世界を


 必ず俺が護るから。


 ……この命が尽きるまで。



無垢じゃない。

というクレームは受け付けませんので悪しからず笑

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― 新着の感想 ―
おおっううー、さらば黒瀬、本当にさらば……。 先生も舞台から引きずり降ろされてめでたしめでたし、ですが……。 ねえ、これ本当に事故?(^^;) 違うよね? 違う、よ、ね……?(ドキドキ)
サイコパスサイコーとか言ってみたくなる(笑)
幸せな日常の中に不穏なニュースがひとつ。 それすらも忘れ、耳に届かない幸せな時間! めちゃくちゃ良い日常回でした(*´ω`*) 次回も楽しみにしてます!
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