291話 想定外
本日は私情でかなり遅くなってしまってすみません。
こんな時間に読みに来る方はいないかもしれないなぁと思いつつも。
ゲスの話、投下します。
ゲスが嫌いな方はブラバ☆
第1週 土曜日
最近行きつけのクラブに向けて車を走らせた。
黒瀬は怪しく微笑む。
今思えば、奴らと初めて出会ったのもあの場所だった。
ガキはいい。
少し金を渡し、悪事を軽く唆すだけで後先考えずノリで実行しようとするから。
ビビった場合は煽ればいい。
プライドを逆撫ですれば大抵は対抗意識を燃やして都合のいい動きをするだろう。
接点もない。
連絡先すら交換していない。
これなら足も付きにくいだろう。
ルームミラーで後部座席に一瞬視線を向ける。
準備したビニールシートとガムテープとスコップ……。
やつらはまだ何をするかは知らない。
知るのはその時になってからだ。
残念だったな。
一時の快楽と
若気の至りでお前らは人生最大の過ちを犯すんだ。
恨むなら自分の判断力の低さを恨むんだな。
足の付きそうな小物も、3駅隣の小さなホームセンターで現金で購入しレシートもその場で破棄した。
我ながら……気持ちいいほど完璧だ。
待っていろ結城 周。
もうすぐお前に地獄を見せてやれそうだよ。
ウインカーを上げて、カーブを曲がりながら肩を揺らして笑った。
***
重低音が鼓膜を劈く。
黒瀬は大体毎週末奴らがここに来ることを知っている。
VIPルーム手前の……スタンドテーブル。
いた。
黒瀬は前髪をかきあげ、肩を切って音に酔いしれる若者をくぐり抜けていく。
いつも金を恵んでやっていた三人も黒瀬に気付いた。
すぐに目が合う。
(はは、どうせ今日も俺にゴマをすりはじめるぞ……)
黒瀬はいつものセリフを思い出した。
『あ、お疲れ様っす』
『黒瀬さん、今日もキメキメっすね!』
などと褒め讃えてきて、ハエのように集って群がるガキ共。
こいつらはバカだから金のためなら何でもするだろう。
この日のために俺は500万も持ってきたんだ。
きっちり働いてもらうぞ。
すると、一人が黒瀬の方に視線を向けたまま、飲み物をテーブルに置いた。
「よお! 楽しんでるか?」
普段通り挨拶をした黒瀬の耳に入ってきた言葉は、思いがけないものだった。
「……行こうぜ」
スっと横を通り過ぎる。
まるで見えていないかのように。
咄嗟に青年の肩を掴んで呼び止めた。
「おい! 何シカトこいてんだてめぇは!」
「うるせぇよ!」
ものすごい力で振り払われ、思わず身体が重心を失う。
よろけて転けそうになる黒瀬をキャップを被った一番若い青年は恨めしい目で睨みつけた。
「アンタ……何てやつに目ぇ付けてんだよ!! まさかあの……親会社の奴に嫌がらせしようとしてただなんて……。親父から土下座させられたんだぞ!? しかも誓約書まで」
「……は?」
先程から顔面蒼白な清楚系の青年は黒瀬に視線すら合わせずに通り過ぎながら、呟く。
「あああ。俺、やっとの思いで内定取れたんだよ……それなのにあんな事バレたら人生終わりだ……。もう俺はあの人に逆らえない。悪いけど黒瀬さん、二度と関わらないで貰えますか?」
「ちょ、待て」
リーダー格の眼鏡をかけた大人しそうな青年はそれでも引き留めようとする黒瀬を切り捨てるように、事のあらましを端的に伝えた。
「……あの人一体何者なんですか? 正確に俺達の素性調べて……弱みまで握ってた。弁護士に作成させた誓約書持ってきて誓わせた。……もし違反すれば俺達の人生は終わる。二度と再起できないようになるって……親父泣いてた。俺の親父の会社……ずっと拒んでたのに傘下になるしかなくなったんですよ……このせいで。まだ何もしてなかったのに……ヤリサーの証拠突きつけられて、逃げ場もねぇ! どうしてくれるんすか!?」
「あの人って……」
「とにかく俺達はもうアンタとは関わりないんで。二度と話しかけないで貰えますか? それも誓約書に含まれてるんで」
そう言い捨てて青年達は誰かからの視線を怯えるかのようにその場を後にした。
後に残るのは小さな箱に流れる重低音と軽快なリズムだけ。
黒瀬は意味も分からないまま、ただその場に取り残された。
***
「くそ! ……くそっ!!!」
黒瀬は苛立ちを隠す事なく、アクセルを踏み込んだ。
黒煙を吹き、怒号のように唸るエンジン。
徐々に回転数を上げ、高音で鳴く。
先程の箱での出来事に
完璧だと思った計画の失敗に黒瀬は怒りを抑えきれない。
刑事告訴に備えて親父の弁護士にも頼んで親父の会社の部下に退去と出国の為の手続きを全て任せて……
あとは結城のクソに手土産をくれてやるだけだったのに。
黒瀬は高速に乗り、最後の綱の先生の所に向かっている。
時間を確認するともう0時を過ぎた頃だった。
今日は週末。
いつもの会員制パーティで女を抱いている頃だろう。
この金は手土産として先生にお渡しし、ご相談しよう。
ついでに俺も女を回してもらってこの憂さを晴らさないとやってられない。
(今に見てろよ……今度こそ必ず)
アメリカに帰る前に絶対に成し遂げる。
あの野郎が順風満帆にのし上がっていくなんて到底許せない。
この時間の高速道路は空いていて、スピードも出したい放題で心地いい。
速度制限なんか知るか。
今の俺は最強なんだ。
少しだけ中央分離帯に近い気がした黒瀬はハンドルを切ろうとした。
何故かいつもより
重い
仕方なくブレーキで調整しようと足をかけた。
カチ。
聞きなれない音
(あれ? ……軽い。ブレーキが効か――)
次の瞬間、ものすごい衝撃音が辺り一面に響いた。




