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289話 鼻に米が入ると痛いよね。

288話のシステム管理部の所で会議があったあとの、隙間時間のお話。



 同日

 株式会社ユリシス



「さぁーのぉーくーーーーん!」


 澪桜の低い声がコピー機のところで資料作成をしている佐野の耳に響く。


「はいっ♪ 何でしょう安達先輩♪」


 ウキウキと浮かれた様子の佐野が振り返った。

 彼の能天気な顔を見て、ゲンナリした様子で返す。


「君……コピー用紙5000個も発注して何処に置く気なの?」


「ええええええええええ」


「驚きたいのはこちらの方だよ! 何度数字は確認してから送信しろと言えば気が済むんだ! アシタクルから問い合わせがあったから良かったものの、山本さんから大目玉だよ君!」


「……聞こえてんぞ」


 トントンと左肩を叩きながら山本がマグカップを持ったまま後ろに立っていた。


 佐野は慌てる。


「いやぁ……あははは」


「いよし。篠山部長にチクってやる」


「や、やめてください山本課長ぉぉぉぉ」


 誰もが怖がる篠山。

 佐野は真っ青な顔で山本に縋っている。


(智子ちゃんのような可憐で綺麗な子と付き合えればそれは誰でも浮かれるのだろう。それは致し方ないが、発注の時くらい頭を切り替えろ)


 まぁ一応、注意はしたのでもういいか。と思って澪桜は打ち合わせの為に営業部に向かう。


 今日も今日とて、営業部は騒がしい。

 鳴り止まない電話。

 大量コピー機で生成される資料。

 慌ただしい社員達。


 彼らの中から林を探す。


 すると後ろから通り抜ける人と肩がぶつかった。


「おっと……失礼」


「いえ、こちらこそすみません」


 咄嗟に謝ったが、なんか聞き覚えのある声。

 見上げると秦(はた)だった。


「ヴっ!?」


 澪桜を見た途端真っ青な顔で仰け反って固まる。まるでゲテモノでも見るかのような反応に、失礼だなぁと思いつつも挨拶をしようと口を開くと、中にいた社員がこちらに声をかけてきた。


「あ、秦さん探しましたよ? こないだみたいに営業先で適当な事ばっか言わないでくださいね? ここ取れたら結構な手柄ですから」


 オフィスに戻ったばかりの秦の肩を叩き、外回りに向かう社員がホワイトボードに戻りの時間を記載する。

 そこに秦も同上と書いていた。


 つまり、研修だ。


「はーい行きますよー」


「は、はい!」


 慌てて上着を取りついて行く秦の後ろ姿を眺めながら澪桜は笑った。


「次仕事で関わった時には、少しは変わってそうかな?」



 ***



 お昼休憩


 いつも通り、お弁当を食べながら窓ガラス越しに差し込む太陽光を浴びて、癒されていた。

 すっかり弱くなった太陽の光。

 隙間から肌寒い風が入ってくる。


(そろそろ暖房入れてもおこられないかなぁ)


 節電!とデカく張り紙が貼ってあるエアコンのスイッチのある壁。


 1人しかいないのに付けると怒られるのかなぁと毎回悩む澪桜。


 すると、遠慮なくスイッチを入れる女性が入ってきた。


「寒ーーー! 澪桜先輩、風邪引きますよ? なんでエアコン入れないんですか!?」


「おー。沙也加ちゃん今日は外食しないの?」


「今日はなんか山本さん飲みに連れてってくれるらしいので。軽くしないと。また太っちゃう。……あ、澪桜先輩も結城さん誘ってご一緒にどうですか?」


「いやいいよぉ。デートの邪魔はあんましないようにって周さんに言われてる」


「そ、そんなんじゃないって何回……っ」


「ほほう?」


 生暖かい目で微笑む澪桜に言葉が出なくなり、松井は拗ねたように窓ガラスに目を向けた。


「うぐ……澪桜先輩の意地悪っ」


「あはは。ごめん、冗談。二人がいいなら私も行きたいから、周さんに後で聞いてみる」


 スマホを見た澪桜は通知が無いことを確認し、そのまま伏せた。

 窓ガラスから澪桜の仕草に視線を滑らせて、松井は何気なく呟いた。


「結城さん、忙しいんです? 最近電話してませんね」


「んー? なんか大掃除らしいよ? 大企業でもそんなんするんだね!だから今日も弁当持ってけないって凹んでた」


「へー。業者に任せそうですけど……案外経費削減とかでやらないとなのかな?」


 ブー!


 スマホが震える。


 周だ。


「あ、噂をすれば周さんだ」


『お疲れ様、少し隙間時間できたから少しだけLINUしていいかな?』


『お疲れ様、いいよ。私も今ご飯たべてたとこ』


 相変わらず直ぐにレスが返ってくる。

 周とのメッセージで思わず頬が緩む澪桜を見て、松井は頬杖をついた。


「相変わらずラブラブですねぇ」


 眉を下げて澪桜は照れたように笑いながら、次のメッセージを見た。


「ったく沙也加ちゃん、何言ってるんだ―――ぶほぉ!!!」


「み、澪桜先輩!?」


「はっ鼻に……鼻に米がっ!!! ぐああああああ」


「てぃ……ティッシュティッシュ!! 澪桜先輩、大丈夫ですか!?」


「鼻がぁぁぁぁ!!!」


 ゴトッ

 手から離れ放置されたスマホに表示された画面。

 そこには


『今年のクリスマスイブ、今から凄く待ち遠しいよ。澪桜と甘い夜を過ごせるなんて夢みたい♡ ディナーには、ほら、友達だった頃に行ったフレンチレストラン、予約したよ』


『予約といえば……。俺の誕生日を選んでくれてありがとう……想像しただけで死ねそう。二人で蕩けるような永遠に忘れない夜を過ごそうね♡』


『あ、もちろん男の装備品も既に購入済です!! ご安心を!』


『ああー。楽しみすぎるぅあと23回寝たら……♡』


『澪桜、めっちゃしゅきしゅきぃ♡♡♡』


『あれ? 澪桜? おーい』



 澪桜が米による激痛でもんぜつする中、

 物凄い速さで連投が続く。

 知能指数60程も無いような残念なメッセージがひたすら表示されていったという。



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― 新着の感想 ―
鼻の奥、吸っても噛んでも出てこない場所へ入り込む米粒の憎らしさよ。痛みが地味にキツい。でも笑ってしまいます。最近、澪桜さんの鼻が大惨事ですがお大事に。笑 そして、周さん。 決戦日が決まった途端にこの…
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