284話 思ってたのと違うやつ
「黒瀬さん、念の為、システム管理部で私用スマホお借りする事は可能でしょうか? 勿論任意ですので」
チラッと入口付近に座り震える人物達に目を向けた。
上層部側に座る周が口を開いた。
「ああ、そちらの方々は皆さんご協力くださいましたよ。安心してください。あくまで任意です。だからと言って強制は致しません。ですよね? ハーディンマネージャー」
「ええ、勿論です」
(くそ! そんなもん、ほぼ強制じゃねぇか)
財務部統括VPやコーポレートIT部統括GM、そして経理部マネージャーまで提出しているとなると……
こいつらが端末のやり取りなどをもし削除ミスしていても詰み。
女を斡旋してたこともバレる。
横領も。
結城のクソを陥れようとしたことも。
……なにより。
スマホに何も入ってない自信がない。
黒瀬は焦った。
(ま……まさかこんなことになるなんて……証拠なんか残してないはずなのに。横領だって4~5年前から証拠を消しながらしてきてるって言っていたぞ!?)
目の前のハーディンの目が、逃げ道を塞ぐ。
観念したように黒瀬はポケットからスマホを取り出した。
「て、提出します」
「ご協力感謝します」
ハーディンは頭を下げ、部下にスマホを渡した。ハーディン以外の部下達は証拠品を回収し、部屋を出る。
今から解析にまわるのだろう。
黒瀬は汗が止まらなくなった。秘書から席に着くように促されるが生きた心地がしない。
初めて見る最上位の上層部。
その圧力。
だが進行は淡々と進んでいく……。
「ではまず……経理部マネージャー御影さん。ご起立ください」
「はっ……はい」
遂に……審査会が始まった。
***
「違うんです! おれはただ命令されただけで!! 金なんて受け取ってない、本当です!! 信じてください!」
「ありがとうございました。ご着席ください」
「聞いてください! あ……あぁ。本当なんですよぉぉぉ」
泣き叫ぶように崩れ落ちる情けない御影を男性秘書が体を支え、席につかせる。
一人、また一人と確実に逃れられない証拠を突きつけられ、追い詰められていった。
CEOである吉沢は何も言わずただ、厳しい視線でこちらを眺めるのみ。
「では続いてコーポレートIT部統括青田GM」
「はっはい」
声を裏返し、震えながら立ち上がる青田に
黒瀬は青田を睨みつけた。
(元々、コイツがミスしなかったらバレなかったかも知れねぇのに)
管理者権限を使い、神崎を利用し周のアカウントになりすまさせた張本人。
足跡を追えないように意図的に消された権限付与監査ログ。
普段なら見逃されるほど巧妙に隠していた。
だが……黒瀬達は、周を潰したいばかりに性急すぎたのだ。
バレてこなかった事に高を括って調子に乗った結果が今。
どんどんとハーディンにより言い逃れが出来ない証拠を突きつけられていく。
青田はもう、認める以外の道を失ってしまった。
――何時間経ったのだろう。
一人一人、暴かれていく悪行の数々。
途方もない量の証拠と、積み上がっていく横領の金額。
だが最近このメンバーに入り、先生を斡旋した黒瀬はどこか達観していた。
(こいつらここまでやってたのか。辞めさせる為に冤罪かけたのも2~3人と言っていたが……あれも嘘か)
実際は過去5年間で十名ほど確認が取れた。
金を渡し、半ば恐喝するように違う職場を斡旋し辞めさせたり。
ハニートラップを仕掛けたり。
賭博に溺れさせたり。
査定側にいる上層部の顔が厳しい。
ハーディンの声だけが響いているが。
所々、難しくて聞き取れない黒瀬は少し飽きてきていた。
(まあ、コイツらがどうなろうと知らねぇけど、俺はまだそんな巨額を横領した訳じゃない。金は返せる。だからお咎めもそこまでないだろう。後ろには先生もいるしな。どーにか揉み消せるだろ)
一人、そう値踏みする。
「では、続いて黒瀬さん。ご起立ください。結城マネージャー、お願い出来ますか?」
「はい」
ハーディンから、周へと変わる。
あからさまに英語が苦手でしょう? という態度にイラついた。
黒瀬は周を睨みつけ、鼻を鳴らす。
「それでは、黒瀬さん。まずこちらをご覧ください。身に覚えはございませんか?」
目の前にはタブレット。
黒瀬はギョッとした……。
(え、な、何で……?)
見覚えのある写真フォルダ。
スマホの中にあるはずのそれが映し出される。
厳重に幾つも鍵をかけて、プロテクトしていたはずの……社員のスカートの中を盗撮した大量の画像が顕になっていた。
思ってたのと違う方があらわになっちゃった。




