283話 二度目の懲戒審議会
す、すみません……また寝落ち。
明日こそ必ず20時に!!
「あー、ダリィなー。先週はクラブもロクな女いなかったし欲求不満だわ。こんなことなら璃乃切るんじゃなかったな」
ブツブツと言いながら会社から用意された端末の電源を付ける。
「仕事めんどくせぇ。今日もあのクソ野郎の顔見なきゃいけねぇのか……ったく。まぁでも美味しい思いさせてもらってるし……我慢するしか……ん?」
立ち上がった端末にログイン出来ない。
もう一度電源を落とし、試す。
だがやはりログイン出来なかった。
「クソ! どうなってんだよ!!」
何度試しても画面は変わらない。
腹が立った黒瀬はスマホから会社に電話する。
上司である周へ連絡する為に。
直接周とは連絡が取れないのがまた腹が立つ。
いちいち休む際も、アプリ経由で申請を出さないといけない。
アメリカの時は親父の側近のやつが何でもかんでも手配してくれてたから何もしなくて良かったのに。
直ぐに本社に電話をかけた。
『お電話ありがとうございます。クレストリンク・ジャパン、総合受付担当の長谷川でございます』
「お疲れ様です。新規事業開発部の黒瀬です。今在宅ワーク中なのですが、どうも貸し出された端末にログインできなくて。結城マネージャーに取り次いで貰えませんか?このままだと仕事できないので」
『失礼ですが、社員登録IDをお教え頂けますか?』
事務的でテンプレな対応に思わずイラつく。
チッ
軽く舌打ちし、財布に入れてあるIDを取り出して番号を伝えた。
カタカタと電話先から音がする。
『確認が取れました。黒瀬さんですね。結城マネージャーに連絡致しますのでこのまま少々お待ちください』
保留音が流れ始める。
2分
5分
7分……
あの有名な憂鬱代表の曲が永遠にリピートされる。
(遅い! 遅すぎる! いつまで待たせる気なんだ!?)
痺れを切らした黒瀬が通話終了ボタンに指を伸ばしたタイミングで声がした。
『お待たせ致しました。結城マネージャーと連絡が取れまして、本日は端末を持って本社の方にお越しいただきたいとの事です』
「は……? そんな急に」
『では、よろしくお願いいたします。他に何かご不明な点はございますでしょうか?』
「いや、いいです。失礼します」
電話を切り、不服そうにスマホを閉じた。
「チッ、使えねぇ。なんでこの俺の方から出向いてやんなきゃならねぇんだよ。こんなすぐバグるカス端末寄越しやがってあのクソ野郎」
ぶつくさと文句を言いながらカバンに端末を入れて何の疑いもなく部屋を出た。
***
タクシーを使い、クレストリンクに到着した黒瀬は、何食わぬ顔で新規事業開発部に向かう。
すると……入口に見慣れない外国人がいた。
気にせず通り過ぎようとすると、190cmはありそうな男が口を開く。
「黒瀬 誠さんですね? お待ちしておりました。私はシステム管理部のハーディンと申します……えっと、英語苦手なんですよね?」
困ったようにハーディンが眉を下げた。
「なっ!? 何言ってるんだ! 別に苦手じゃないし、なんで俺が中に入るのをお前らが止める!? 邪魔だ、どけよ!!」
「それは――」
「それはね。今から臨時懲戒審査会だからですよ」
「は……?」
背後から声がした。
よく聞き慣れたあの、低く篭もり気味な独特な声。
慌てて振り返るとそこには周がいた。
「さて、行きましょうか? 黒瀬さん。お友達もお待ちですよ?」
「……は……?」
「重たいでしょう。カバン、お預かり致します」
訳も分からないまま、大男達に連行され、隣を見ると涼しげな周が微笑んでいる。
何が起こっているのか。
理解が出来ないまま
連れてこられたエグゼクティブフロア。
初めて入る役員エリア。
足を止めることも
思考をまとめることも出来ないまま、1番奥の部屋に通された。
そこには見覚えのある顔ぶれが――
いつも先生との会食を共にする、上層部の面々が
真っ青な顔で入口付近にまとまり項垂れていた。
やっと、事の大きさを理解する。
息が……できない。
泳ぐ目で周りを見渡すとそこには。
一度だけ、日本支部のパンフレットで見た事のある顔が……。
忘れもしない。
あれは
CEO
吉沢 新だった。




