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281話 悩める子羊

 


「では……ここで終わりましょうか。皆さんお疲れ様でした」


『『『お疲れ様でした』』』


 オシメイトの主任や田辺達が画面から落ちていく。

 全員が退出したことを確認し、周がルームを閉じた。


 その後、進捗を岡本と本社宛にそれぞれ送信していった。


「ふぅー。だいぶ形になってきたな」


 声優の収録も始まった。この調子でいくと、リリースは4月あたりになるだろう。


飲みかけだった冷めたコーヒーを一気に飲み干し、一息ついた。


(例の問題の方も……やはり俺の予想通りのようだったし。

 岡本さんと久我さんが監査とCEOに秘密裏で話をあげてくれたらしい。

 俺のアカウントを流した奴も十中八九この件に加担してるやつだろうから時間の問題だろう)



 チラッと時計を見る。

 22時を過ぎたところだった。


(2時間もかかってしまった。澪桜、テレビでも観てるかな)


 パソコンを落として書斎を片付け、急ぎ足で澪桜の元へ戻る。


 リビングに入ると往年のアニメ映画を放映していた。


 だがいつも澪桜がいるはずの定位置に姿が見えない。


「……澪桜?」


 ソファに近付くと幸せそうに眠る澪桜がいた。

 周は目を細め、何も言わずに優しく彼女の背中と膝の裏に腕を滑り込ませた。


「むにゃ」


 抱え上げられたと同時に澪桜は甘えるように周の胸に顔を埋めた。


 ゾクッ


 甘い白檀の香りが鼻をかすめる。

 無防備なほっぺた

 小さな桜色の唇。


 折れそうなほど薄い肩。


(節操なしか……俺は)


 何かとは言わないが、不意にスイッチが入ると切り替えるのが難しい周。

 ギリギリの理性で優しくそっとベッドに寝かせた。


 この間も永遠に愉しんでしまったせいですごく怒られた。


 ベッドの縁に座り寝息をたてる澪桜を見ながらため息をついた。

 秦という男にはもう何も無いが


 悩みは何も消えていない。


「また、美佐子にご教授を……いや。ぶん殴られるだけだ。ここは一つゲスの神。山本先生だな」



 失礼な一言を呟いて澪桜の顔にかかる髪を優しく払う。起こさないように、甘く静かに呟いた。


「愛してる。君にもっと悦んで貰える男になれるかな。もっと尽くさせて欲しいし、もっと……俺に溺れて欲しいんだ」


 立ち上がり、その場を離れながら周はどこかに電話をかけ始めた。



 ***



『おー。久しぶりだな周』


 いつもより低めのテンションの声が響いた。


「忙しいらしいな、澪桜から聞いたよ」


『まーな。でも昨日は面白いモノが見れたから少し回復した』


「面白い? ……ああ、秦って人の件だろ?澪桜が昨日言ってた。ぶちかましたって」


『くっくっ……そうそう。かまされてた。……で? お前なんの用だよ』



 何かを飲む音が聞こえてきた。

 書斎に入った周はスピーカーにし、スマホに頭を下げた。


「そう! 今、物凄く悩んでてね。……ゲスの神たる山本先生に是非ご教授を賜りたいと思いまして!」



『うむ! 苦しゅうない、いくらでも知恵を与えたもう

 ぞ! ……ってクォラ!! 誰がゲスの神じゃ!!』


 ノリがいい。

 クックッと肩を揺らしながらも静かに言った。


「冗談だよ。……でも悩んでるのは本当。澪桜が女性目線のバイブルみたいなエッセイ? ハウツー本みたいなの持ってるんだけど、それ読んだせいで……余計に分からなくなった」


『なんだそれ。そしてそんなもん読むな童貞が。って悪りぃ、流石に卒業したよな。同棲始めてから結構経つもんな』


「いや? 童貞だけど?」


『なんでだーーーーー!!! ヘタレの神かお前は!! それとも〇〇〇かーーーー!?(自主規制)』


「失礼だな。健康優良児だ俺は」


 真面目に答える。

 そこは言わなくていいのに。


『よっぽど……お前らよっぽどなんだな……だって普通そんな雰囲気にはなるだろ』


「まぁ、お前と松井さんみたいに早くはないよ。慣れてないし」


『そう。俺は数多の女を抱きまくっ……てねぇよ!! 何もしてねぇし! 俺が手が早ぇみたいに言うな!失敬な!』


 今日のツッコミも鋭い山本。

 さすがだ。

 笑いながらも澪桜に配慮しつつ続ける。


「でもまぁ。甘いよ? 家にいる時は常に一緒にいるし、雰囲気も物凄く甘い」


『え?待て。それって……』


「澪桜が恥ずかしがるからこれ以上は言わないけどね。おしゃクソ野郎って言われてしまう」


『いや、俺にこんな相談してる時点でお前。矛盾凄いの分かってるのか?』


 正しくツッコまれるが周は気にしない。


「だって悩んでるんだもん。仕方ないだろ?で、本題だけど言っていい?」


『おう! 親友のヨシミだ。秘密は厳守してやるよ。安達に置き換えて想像しないから安心しろ!』


 一言、余計。周は片眉を下げながら続けた。


「……あのさ。お前の初めてってさ……確か彼女も初めてだったよな?」


『ああ、そうだな!』


「その後もそういうご経験があると見込んでの質問なんだけどさ。……えっと……本日ですねってなる為に、いつ予約するの?」


 沈黙。

 しばらくして山本が返した。



『……は?どういう意味だ?』


「いや、だから。そういう事になる日。相手にどうアポ取るの? ……何日前に、申請出すの?」



『し……』


「ん? し、何?」


『仕事ーーーーーーー!!!!』


 聞き覚えのあるツッコミが書斎に響いた。



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― 新着の感想 ―
ゲスの神、山本!というパワーワードに笑いました(≧∀≦) そして周さん!そうなの?と二度見しました。笑 申請式を採用するつもりなのか……!?と今後とも目が離せなくなりました。面白かったです!
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