271話 初めてのブライダルフェア
な、長ぇ。
ごめんなさい。分けられませんでした……。
読んで頂けたら幸いですm(_ _)m
11月1日
10時30分
バロック調なデザインのゴージャスな庭園。
秋も深まって来たということもあり、少し寂しい色味に染まる植物と、暖かい色味の薔薇が計算されたように、全体をセピア色に染め奥ゆかしさを醸し出す。
その真ん中にある噴水の……ガーゴイル。
澪桜がそこから離れない。
「うわぁ!! 周さん! 見てみて! ライオンが吐いてる!! めっちゃ吐いてる!!!」
「……何その二日酔いのライオンがグロッキーになってる的な言い回し。オシャレな雰囲気に似合わないからやめましょうね」
周は呆れつつも優しい笑みで、浮かれる澪桜を窘める。勢い余って噴水にダイブしそうだからリードをするように手を絡めて。
「む。なんだよぉ。ライオンの口から出ている水を触らせろよ! 手を離せ!」
「ダメです! 観賞用の循環水なので汚い可能性があります! だから却下! てかライオンの口から出てる水触ったから何なの? 結果水でしょうよ」
当たり前の事を言う。
澪桜はゲンナリしてしゃくれ顔のまま首を振った。
「ああ。夢のない男め……このサイコ☆パス男」
「なんだその新しいあだ名は!!全然会話に関係ないし!心外過ぎるよ!俺のどこがサイコパスなんだ!言ってみてよ」
「……無自覚か。全部だよ!!」
「がーーーーん」
あんぐりする周の肩をバシバシ叩きながら爆笑する澪桜。
今日はいよいよウエディングフェア。
二人にとって初めての体験。
どことなく浮かれている二人はいつもよりアホなやり取りを繰り広げる。
広い庭園を抜けると、イルミネーションの電球が張り巡らされたゲートが顔を出す。
その先は3mほどある生垣が100m以上続く。東京都心から離れたここは敷地が広いのが利点。
通路の右側手前に分岐する道が見えてくる。奥を見やると教会のようなものが見えた。
左手奥にも道が。
他にも分岐の道が幾つも別れており、様々なコンセプトの建物が。
その全てがオシャレで。
だがこれでは……完全に立体迷路。
「周さん……私、迷子になる自信しかない」
「完全に……同意だよ」
それでも楽しそうに、二人は非日常な世界観に目を輝かせていた。
すると迷路を抜けた先に一際大きいホテルのような建物が見えてきた。
そこの入口に女性が立っている。
少し年配の、優しそうな人。
「ようこそお越しくださいました。予約のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「はい。結城と申します」
「お待ちしておりました。結城様、澪桜様。どうぞ、こちらの方に」
中に通され、ブライダルカウンターで見たようなブースに通された。
自分達以外にも7組のカップルが座っている。
「この度は、ご結婚おめでとうございます。私本日ご案内させて頂きます、吉澤と申します」
まだ慣れない挨拶に周は感慨深げな面持ちで頭を下げた。
澪桜も照れくさそうにはにかむ。
「お二人のご希望や情報は既にマリアージュから伺っておりますので、まず、グランシエルの特徴や魅力からお話しますね。まず我が式場の最大のコンセプトは――」
慣れた口調で営業トークが始まる。
澪桜はよく分からなくて不安になったが、周のスキルのおかげで問題ない。
「なるほど……それで、式場のタイプを確認――」
「こちらのプランですと、金額が70万円ほどアップします! ですがお色直し2回分が含まれていてお得です。更に映像オプション、写真オプションがそれぞれ30万円で」
周の言葉を遮り、見積もりには無いプランの話を進めていく
「……」
(金の話ばかりだな)
静かに周の評価が下がっていった。
そこで澪桜が遠慮がちに手を挙げる。
「えと。そろそろ、その。チャペルなど見せて頂きたいのですが」
女性は少し眉を上げ、固まる。
途中で切り上げさせたせいか……困ったような表情で口を開く。
「すみません。ご希望のチャペルは本日、挙式が入っておりまして。中の様子は確認して頂けません。他の場所なら……ご覧になられますか?」
「……そうですか。澪桜、一応見せてもらおう」
どんどんと温度が低くなる周の声。
澪桜は優しく頷いた。
「そうだね。見せてもらおう」
チャペルに向かう道すがら……澪桜が周の袖を引っ張る。
「周さん! あれ見て! 最近見てる恋愛リアリティ番組みたいだ!!」
ゲンナリ顔で指を差す澪桜の視線に合わせ、目を向けると。
挙式後と思われる若者達がプールサイドで踊っていた。昼から。
「うわぁ……」
周も顔を引き攣らせた。
二人は陰キャ。
こういうのはとても苦手。
「素敵でしょう!? ウチの式場ではあんな風にゴージャスな雰囲気で楽しく過ごせます! バチェロみたいな感動的な映像も残せますよ!? 結城様がサプライズでフラッシュモブとかしてみても、SNS映えするかもしれませんね!」
「ふっ……フラッシュモブ!?澪桜……」
「あははは! ……いいんじゃないかい? ただ、私は君がそんなことしたら一週間、口聞かない」
ダンスを続ける彼らを眺めながら澪桜は笑っているが、完全に目が座っている。本気だ。
「ぜ、絶対イヤです!! 無理!!」
とても恐ろしい罰。
やりたくない事させられ、その挙句澪桜から幻滅されるなんて死んでもごめんだと全力で首を振った。
「そうですか? スタッフや参列者様達との練習を経て、達成感が凄いって好評なんですけどねぇ……」
二人をよく知らない吉澤は首を傾げた。
ドン!!
周の背中に衝撃を感じた。
慌てて澪桜を包み込み守る。
周を追い越したスーツ姿のおじさんが頭を下げてきた。
「おっと、すみません。……おい! 俺たちの会場どこだよー。新郎〜場所教えろよ〜」
「立花様、松崎様の披露宴会場はこちらになりまーす!」
ものすごい数の人が澪桜達の後ろから押し寄せ、ツアーのようにプランナーが先導している。更に右側から別の団体が。
「畑様、細川様の披露宴会場はこちらでーす!!あ、そこ違うので入らないでください!」
「や、やべぇ! 違う人達のチャペル入っちゃった! あははははは」
「もー、やぁねぇ。……あれ? これどこに……きゃあ!! ごめんなさいね? ほほほ、披露宴会場間違えて覗いちゃったわ」
「母ちゃんも似たようなもんじゃねぇかー! がはははは」
大渋滞もいいところ。目の前の狭い生垣通路に数百人がひしめき合って収拾がつかない。
「「……」」
澪桜と周が唖然としていると、吉澤が手を挙げる。
「こちらにどうぞー! 結城様ー?」
遠くで手招きする吉澤。
人混みの中、生垣迷路を潜り抜け、必死で可愛い外観のチャペルに入るが
中は……思ったより普通。
他のチャペルにも見学に……と周が提案する間も与えず、吉澤は次の場所に二人を連れていく。
そこは、ドレスのレンタルブース。
今度は澪桜にドレス試着を勧め始めた。
ドレス姿の澪桜をずっと前から楽しみにしていた周。
完全に吉澤のペースだが敢えて否定はせず見守る。
澪桜も興味があるのか、頬を染めながら試着室に入って行った。
だが……。
10分後、試着室でコルセットを付けられている澪桜の変な呻き声と
「お胸が足りないからパットが3ついるわねぇ。パット取って!パット」
という残念な声が響く。
やっと出てきたかと思うとそこには……
全く似合わない流行りのデザインのドレスを身に纏う澪桜。
その後も他の参加者達と同時進行で入れ代わり立ち代わり着替えさせられる。
プリンセスラインに、どこぞの歌手かと言うほど眩いスパンコールのマーメイド。色味も、ピンク系のベージュのファンシーデザインや眩しいほどのシンプルな純白ドレス。
「いかがですか!? 新郎様! 素敵でしょう? 腕を隠したい時はこれを上から付けたり……ウエストにリボンをつけたり……!」
着付け係にあれこれ提案しまくられ、正解なのかよくわからない姿に。
「えっと……。はい、綺麗ですね」
感動を強要され、周はとりあえず頷く。
何も声に出さない澪桜だったが、途中から嫌そうな雰囲気に感じられた。
周もその空気を感じ取りイラつき始める。
(とりあえず早く着替えて欲しい。背中開きすぎだし。他の男の視線が気になるんだよ)
似合わない定番過ぎるドレス姿より、なにより人の視線が気になる周は組んでいた膝をトントンと叩いてため息ばかりついていた。
40分後……ボロボロになった澪桜が帰ってきて、やっとの思いで……お目当てのガーデンブースに。
楽しみにしていたガーデンウエディングの撮影用の場所。
しかし、そこはパンフレットとは全く違う。
松林。
そう、松林だ。
海が近いから仕方ないとは思う。敷地内の植物を海風から守るために致し方ない。
だが……和風が過ぎる。
「どうですか!? 海が近いので、オプションで50万円ププラスでクルーザー登場も可能なんですよ!? 当社で大人気です! カッコイイですよ! 新郎様にピッタリ☆」
「いや……」
最初の優しい印象は遥か彼方に消え去り、圧だけがすごい吉澤に、返す言葉も見つからなくなる周。
心身ともに疲弊した二人。
現実とは辛いもの……。
やっとコース料理の試食の時間になった。
「さ、気を取り直して! 料理を堪能させてもらおう」
「そ、そうだね! 周さん! 私もお腹ペコペコだよ!」
最後に残された食事で全てを洗い流そうと決めてテンションを上げ直す。
だが……悲劇は終わらない。
「食事をしながら、良かったらこちらの映像をご覧下さい。過去に式を挙げた方の感動的なムービーです。きっとウチがいいって思いますよ」
「へえ……」
手紙朗読とか?と思いながら周は液晶画面に視線を向けた。
そこに映し出されたのは
知らん新郎新婦が、下手くそなバイオリンとピアノを自分に酔いしれながらセッションする映像。
更に、また違う新郎が新婦の為にオリジナルソングを音程を外しながら弾き語る映像。
極めつけは……新婦がアイドルユニットのように友達と揃いの衣装で決して揃ってないパフォーマンスを繰り広げる
三組それぞれ、キツイ。
いや、知り合いなら感動しただろう。
知らんから……共感羞恥しかない。
澪桜が口を開いた。
「周さんや。帰りたい」
「ああ、奇遇だね澪桜。俺もだよ」
二人は悟りを開いた。
1時間半ほど経った頃。
食事を終えた二人は、式場を後にした。
ナビで、ゆっくり出来そうなカフェを設定し、車を走らせる周。
二人っきりになった所で澪桜に感想を聞いた。
ずーっと黙って食べていたから。
「……料理はどうだった?」
グリン!! と勢い良く周の方に顔を向けて、満面の笑みで言う。
「まずい!! そして……刺身がカピカピだ! さっきラップ剥がしてるとこ見た。ラップて!! 見えないようにせねばいかんだろう! 減点!!」
辛辣な澪桜。
周は思わず笑ってしまった。
「で? 周さんは?? 私のドレス姿楽しみにしてたろう? どうだった?」
「ぷぷっ……全然ダメ。万人受けするようなデザインしか着てないでしょ? 澪桜ってスレンダーで色白だから、どれも全く似合ってないんだもん。びっくりしたよ。あれ、澪桜が選んだの?」
「いや? よく分からんから適当に」
澪桜はまた窓に目を向けて何の気なしに言う。
周は残念そうにウインカーを上げた。
「ちゃんと選んでよー。俺、目を疑ったよ〜」
「それよりパットってなんだ!! 失敬だよ」
「気にしなくていいよ。ドレスだって似合うデザイン絶対あるから。実は俺目星付けてるんだよねぇ。購入だけど」
「えええ!?1回しか着ないのに!?」
「持ち込み可能なとこ、探そう。帰ったら画像見せるよ」
澪桜は気を取り直し、思考した後一人呟く。
「ちゃんと胸元を隠し、露出少なめで腹いっぱい食えるドレス……だろうね?」
「偶然にもね。というか……腹いっぱいって言うと……さっきのとこ、ビュッフェあったじゃない?」
「気まぐれパスタが気まぐれ過ぎる……ソースをちゃんと乳化させろ! 味がせん。美味かったのは自家製パンだけだった」
「だねぇ……プランナーは金の話しかしないし。当日、俺たちと同時に式挙げる人がいたら大パニックになるだろうし。式場のコンセプトが完全に陽キャだし」
「……周さんや……他も全部コレだったらどうする?」
信号停止で
二人は顔を見合わす。
徐々にしゃくれる澪桜と周。
「「終わりだぁ……」」
ダメな洗礼のせいで、完全に心が折れた。




