↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社会不適合者の恋愛論~変人に恋は難しい~  作者: 澄泉
女郎蜘蛛編 〜断罪〜
279/318

270話 ゴミ

ぐ……

長い。


すみません。でも今回で一旦、神崎編終わりです!!

スカッとして頂けるといいなぁ。



「か、神崎さん! 何があったんですか!? ……先程小池さんも出て行かれてっ……今日は帰るって」


 伊藤が慌てた様子で神崎のデスクに駆け寄る。

 その声は大きく、他の社員達からの視線に晒されバツが悪そうに、今日出した私物をバッグに入れていく。


「上からの命令なの。仕方ないでしょ」


 ジップを閉めバッグを肩にかけて歩き出す。

 胸を張って……なるべく堂々と見えるように。


 オロオロとした伊藤がそれでも付いて来た。


(……もう放っておいてよ)


 だがまだ何も知らない伊藤の顔を見ると文句が言えない。


「明日っアプリ開発の打ち合わせがありますよ! 神崎さんも小池も……来ますよね?」


 不安げな様子で……確かめる。

 神崎は眉を下げて首を振った。


「小池さんは分からないけど。……私はもう、今日でお別れですね。伊藤さん、今まで優しくしてくれてありがとう」


「……え、ど、どういうことですか?」


「アプリ開発。あれ、実はね田辺さんの企画を私が盗用したの。でも、もうまるっきり違うものになってるし、結城マネージャーもゴーサイン出してくれてる。

 ……これからは貴方がリーダーになって、いいアプリを作ってくださいね」


 あっさりと悪びれることもなく淡々と伝え、軽く微笑む。

 今はもうそれどころじゃないのに。

 伊藤には伝えなくてはいけない気がして。


「そ……んな。でももしかしたら温情があるかも」


「あったとしても……あの雰囲気のオフィスに戻れる勇気はないですね」


 ハッとした伊藤は慌ててメモを取り出し、乱暴に何かを書き込む。


「……あ、じゃあこれ。僕の連絡先です!! 何かあったら……いや。何も無くても……何時でも連絡してください」


 ビリっと勢いよく破り、神崎に手渡す。

 一瞬驚いて固まったが、呆れるように頷いて受け取った。



「……そうですね。機会があったら……。それとこれ、いつか返そうって思ってたんです。すごく、助かりました。それじゃあ」


 お返しとばかりに伊藤の手のひらへ、いつか貰ったUSBを乗せる。

 伊藤は眉間に皺を寄せ、受け取ったUSBを握りしめた。


「神崎さん……僕、連絡待ってますから」



 エレベーターに乗った神崎は

 伊藤に向けて寂しそうに笑った。



 1階に着いた途端、何事も無かったように、颯爽とフロアを歩く。

 カツカツと軽快にヒールを鳴らし、エントランスを抜けていく。

 惨めに映らないように、美しい髪を靡かせて。


 すると

 背後から足を鳴らし、走って追いかけてくる音がした。


 神崎が何気なく振り返ると、色素の薄い高身長の男が髪を揺らし近付いてくる。


 周だった。




「……はぁはぁ。良かった……間に合った」


 走ってきた周は軽く肩で息をしながら、それでも。

 エントランスの中からは決して出ない。

 外に出た神崎とは5mほど離れたまま。


 異様な光景だ。


 ……だがそれは監視カメラに映るため。

 この男、いちいち癇に障るな。と思いながら恨めしそうに目を細める。


「……まだ何か?」


 突き放すような声で聞いた。

 だが周は気にするでもなく、ニコニコと口を開く。


「いや、今日でお会いするのが最後かもしれませんからねぇ。後はデジタル処理されて残った私物は郵送になると思いますし」



 周の言葉は……

 もう神崎の懲戒解雇が決定したことを示唆していた。


 ギリッ

 奥歯を噛み締め……不安から少しずつ早くなっていく心臓を必死で宥める。


 するとまた、神崎の返事も待たず周が口を開いた。


「だからね――」



 ゆっくりと、一呼吸置いて低い声を響かせた。



「お礼と、お別れのご挨拶をね」


 エントランスの入口が音を反響させる。


 意味が分からない。

 別れの挨拶だけなら分かるが……


 つい、疑問が口から漏れる。


「……? ……お礼……?」


 周は静かに頷いた。


「そう。あまり深く言うと……コンプラに引っかかるのでいえませんけどね。

 ふふ、面白かったですよ。貴女」


 楽しそうに笑うその姿がまるで悪魔で、


 神崎は余りの態度に言葉を失う。


 少しずつ目が……



 ゾッ!!!


 視線が交わされた瞬間、背筋が凍りついた。



 本気で楽しそうに笑っているのを見たのが初めてで。

 この状況の異常さが際立つ。


 先週から冤罪をかけられそうになっていたはずなのに。張本人の神崎を前に、怒鳴りもせず喚きもせず。

 普通の男なら殴りかかったりするだろうに。


(何を考えているのか……全く読めない)


 人生を賭けたのに何ひとつダメージを与えられなかった事に対する悔しさと

 思考が追いつかない虚無から神崎はつい心の声が漏れる。


「っ……。貴方ってどこまで最低で……狂った男なの。人の心をなんだと思ってるのよ!!!」


「ええ、僕もそう思います。だって……ぷぷ。

 ああ。おかしい。

 ……それじゃあ、これから色々大変だと思いますけど。お元気で。さようなら」


 カラカラと心から嬉しそうに笑った後、周は軽く手を振った。


 神崎は目の前の光景に

 つい、息を飲む。


 その姿がどこまでも綺麗で――


 悔しい。


 怖いのに、頭がおかしいのに見蕩れてしまう自分が。


 誰よりも気高く……無慈悲で残酷な男。


 だからどうしても欲しかった。

 手に入らないならどん底まで蹴落としてやりたかった。


 一度でいいから私で心を埋め尽くさせてやりたかった。


 どうして。

 ここまでしても貴方の心の中に傷ひとつ与えられた気がしない――



 満足げに踵を返して戻っていく周の足を止めるように、

 神崎は最後に、どうしても聞きたかったセリフを吐いた。


「正直……貴方は私の事どう……思ってたの? 世間体とか何もかも抜きにして……」



 ピタ……と足音が止まる。

 周は少しだけ振り返って、満面の笑みで唇を動かした。


 ……だが。

 音はない。


「……え?」



 神崎の疑問に返すこともなく、周は戻ってしまった。


(……なんて言ったの……今)


 一人残された神崎はしばらくその場に立ち尽くしていたが……


 今は正直、それどころではない。


 直ぐに気持ちを切り替え、スマホを手にした。

 一刻も早く、連絡しなくてはいけない男がいる。


 慌ててSNS経由で電話をかける。

 繋がらない。

 LINUでメッセージを送り、電話するが……繋がらない。


 リモート勤務なはずなのに。


「っ! 何で出ないのよ!!」


 元々そんなに連絡をマメにしていなかった事が恨めしい。


 慌てて今度は先生にアポを取るため、名刺を取り出し秘書に連絡を取り付ける。

 だがこちらも……出ない。


 ここで、神崎は焦り始めた。


(……まさか……着拒?)


 50回以上その後も電話するが。繋いだはずの男も。

 先生も出ない。


 気付くと空は高くなり日差しが朝より強くなってきていた。

 だが変わらず神崎は職場の入口に立ったまま。


 焦りから無意識に爪を齧っていたせいで、左手の人差し指はもう見る影も無くなっていた。


 舗装された歩道にスマホを叩きつけたい衝動を必死に抑え、自宅にすぐ帰るでもなくウロウロする。


 すると……やっと男から着信が来た。


 神崎は気のせいだったのかと、少し安堵した。


「なんだ……ったく! 早く出なさいよね」


 開口一番の悪態をつく。

 だが……男の様子はいつもとちがった。


『何度も電話してくるんじゃねぇよ……。出ない時点で少しは状況を察しろよ……て、お前には無理か』


「ど、どういう意味よ!? というかあんた達のせいで私懲戒解雇になりそうなんだけど!!! どうしてくれんのよ!? あの計画は完璧だって言ってたじゃない!!」


 必死に現状を伝える神崎に、男は冷たい口調で冷静に返す。


「ああ。それに関して俺達も困ってんだよ。……くそ、結城め。上も、普段なら誰にも気付かれずに同じ手口で何人か邪魔な新人潰してきてたって言ってたのに……。今回はシステム管理部まで動いた事で計画は失敗だ」


「失敗だじゃないわよ!! あんた達自分の痕跡だけ綺麗に消してたでしょ!? 自分達だけ逃げて卑怯よ! 私のキャリアどうしてくれるのよ!?」


 金切り声を上げる。

 もう道行く人から見られようがどうでもよかった。


『それは当たり前だろ。お前のキャリアは知らねぇよ。俺がいつ強要した? 嫌なら最初から断るか、事を起こした後すぐに家のパソコン売れば良かったじゃねぇか。あ、上の奴らと先生の事……話してねぇだろうな?』


「……報酬なくなるから言ってないわよ。言えるわけ無いでしょ。先生とのアポだって毎回秘書に電話して、履歴は消してたもの」


『それは結構。だがな璃乃、もうお前に報酬は渡せねぇ』


「ど、どうしてよ!? 話が違うじゃない!!」


 神崎は男の言葉に動揺し目を血走らせた。

 どこか適当な様子の男が呆れたような声を出す。



『まぁ、落ち着けって。金はやるよ。俺と、上のやつらと、先生から。これからお前大変だろうしな、損害賠償請求とかで』


「なんでそんな他人事なのよ。ちゃんと答えなさいよ!!」


『……手切れ金だよ。お前には会社の目が向いてる。そんな状況で他社から変な金の動きがあったらすぐバレるだろ? 刑事告訴までされてぇのか?』


「……っ……手切れ金ってどういう意味よ……」


『だから、そういう意味だよ。もうお前とは会わないってこと。明日にでもうちの弁護士から連絡行くから。ま、頑張れよ。じゃあな』


「ちょ! ちょっと、待ちなさいよ!!!」


 一方的に電話を切られ、立ち竦む。画面に目を落とすと不在着信のバナーが。

 先生の秘書から折り返しが来ていた。


 神崎は、藁にもすがる思いで慌ててかけ返す。


「もっもしもし! 私神崎です!」


『もしもし。宇和島です。先程は電話に出られず申し訳ございませんでした』


「あ、先生と……お取次ぎお願いしたくて。私何時でも大丈夫なので」


『申し訳ございませんがもうお繋ぎすることは出来ません。後ほど弁護士より誓約書を作成し、お送り致しますので、よろしくお願いします。くれぐれも、他言なさいませんように。では失礼致します』


 事務的に切られる電話。

 神崎は途方にくれた。


(どうして……?)



 フラフラと駅の方に向かうが……理解が追いつかない。


 名古屋支部の常務のハゲたオッサンと愛人契約をしてやって


 上手いこと先生に取り入ってもらって


 やっとの思いで本社に異動になって


 7年越しにまた結城マネージャーと再会できたのに。


 いつも通り、男を道具として使って


 いつも通り、邪魔な女を排除して、彼を私のモノにしようとしただけだったのに。


 手玉に取られたのは私のほうで


 私以上にあの男は狡猾で。


 だから取り巻きや、奴らと手を組んで陥れようとしたはずなのに。


 ……結局落ちたのは私で。


 何もかもが私の手駒でしかないと思っていたはずが……あっさりと捨てられた。


 まるで……ゴミのように――




 ふと


 周の最後の姿が目に浮かぶ。


 反芻する


 唇の動き。



「っ……最低だわ」



 駅前に辿り着いた神崎は人混みの中、膝から崩れ落ち、思いきり泣き叫んだ。

 歩道のタイルに爪をめり込ませ、バキバキと音を立てながら。


 人目も気にせずただただ、獣のように。


 神崎はこの日初めて

 自分の価値を知った。



はい。


周さん、最低です。ごめんなさい笑


今回の話は 115話 猛毒の貴公子の回収回となりました。

周がどんな風にフッてきたのか。


うーん。立ち直れませんwww

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
神崎嬢…… 考えてみると最後まで、周さん本人ではなく「きれいでハイスぺな、自分のいい女さを証明してくれるトロフィー」としてしか彼を見ていませんでしたね。 それは周さんが最も嫌うものでしょうし、「生理…
神崎さんの悪女っぷりが凄い回でした!! 本当に面白い!! そしてそれを何とも思わず、一から十まで叩き潰していく周君がカッコ良すぎる‥…!ダークな部分も加味してめっちゃ好きです!!
明日には忘れられてるかもしれませんが、一時だけ意識に留めて貰えたのですからその努力は無駄ではなかったと思います。あの時だけ、キミは路傍の石ではなかった! 西園寺くんとの格の差を、私だけは認めます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。