264話 少し早めの大掃除
助手席にハーディン、後部座席に二人のハーディンの部下を乗せて周は車を走らせていた。
「……君は何を考えている……?」
独り言を呟くようにハーディンが聞いた。
「……大掃除?」
くすくすと笑って周は答える。
「ああ……それと、僕、岡本さん、冴木さんの潔白が証明され次第、一斉に動いてくださいね。カンファレンスのリストは僕の端末に入ったままなのでご確認を」
「……それは、言われなくてもそのつもりです」
ハーディンは怪訝な表情を浮かべ、素っ気なく返事をした。
自宅に戻ると直ぐに社員達がパソコンの回収に取り掛かる。
周がハーディンの肩を後ろから叩き、耳打ちをした。
「そこのデスクの引き出しに入ってるUSBとファイルも押収しておいて、事前に確認してくださいね?」
「……なんでそんなこと自分から言うんだ……?」
「もしかしたら後で役に立つかもしれないですから」
薔薇色の唇が微かに弧を描いた。
***
「おい、藤堂」
システム管理部の会議後、周がハーディン達と移動する様子を眺めながら岡本が呟く。
「はい。何でしょうか?」
「アイツが何考えてるか聞いたか?」
「……いえ、全てはまだ……。でもなんか嫌な予感がしますね」
「やっぱりお前もか?」
「多分面倒臭い事になるんじゃないですかね? ……アイツが監視システム立ち上げた時も、隠れてセクハラやパワハラ行ってた社員が漏れなく懲戒処分になってウチは大忙しでしたからね……あれのおかげでシステム管理部なんか今じゃまるで公安か国税ですよ。ハッカーやらなんやら、本社から大量に化け物やってくるし」
「あったなー。そんな事。国税か公安、言い得てるなぁははは」
藤堂の嘆きに岡本が笑っていると冴木が二人に近づいて眉を上げた。
「あいつまた、何か企んでるんですか? さっきの会話から察するに」
「そうなんですよ……結城のやつ悪巧みを」
そう悪態をつこうとする藤堂に、岡本が呆れて言う。
「元々藤堂、お前があいつ巻き込んだんだろ? 自業自得だ」
「はい! 自覚してます! アイツに嫌味言われまくって、既に良いように使われてますよ」
なぜか自信満々に胸を張る藤堂に、二人は呆れて笑った。
「なんだお前、楽しんでるじゃないか」
そこに一人の女性社員が近づいてくる。
「冴木GM、岡本VP、申し訳ございませんが……全ての端末をお預かりしても宜しいでしょうか? その、結城マネージャーがお二人からは今預からないと意味が無いと言うものでして」
言いにくそうにシステム管理部の社員が頭を下げた。
「構わん構わん。家の端末もだったな。車で行くか、冴木、ついでに連れてってくれ」
「僕はノーパソしかないから帰る必要なかったのに……分かりました。連れて行きますよ」
仕方ないなぁと、頭を掻きながら冴木はエレベーターのボタンを押した。詰まりに詰まった今からのスケジュールを確認し、スマホで先に時間調整をしながら。
***
40分後に戻ってきた周は、平然とした表情で
書類を手に、すぐさま企画ミーティングに向かう。
その後も淡々と会議や打ち合わせと忙しそうに殆どデスクに居ない周。
出社から2時間が経過した頃、やっとシステム管理部からパソコンが戻ってきた。
現在、周は何食わぬ顔で業務を行っている。
その様子を好奇の目で見つめていた社員達は、コソコソと聞こえない程度の私語をした。
「ね、ねぇ。さっきのアレ。なんだと思う? システム管理部だったよね、あの人たち」
「分かんない。……けどあれは、大事だと思う。だってパソコン没収されてたよ?」
「え? まさか、結城マネージャー……何かしたの?」
周りの女性社員の噂話に笑いが込み上げて来そうになる神崎は口元を手で隠しながら咳払いした。
(ふふ、馬鹿な男ね。せいぜい強がって仕事してるといいわ。アンタが今まで積み上げてきたキャリアも今日で終わり。せいぜい私に縋れば良かったって懺悔しながら途方に暮れるのね。婚約者のあのクソ貧乳もざまぁないわ!!!)
相変わらずどの角度からも美しい自分に窓ガラス越しで見蕩れた神崎は、上機嫌で業務を行っていた。
――はずだった。
「あ、あの……神崎チームの皆さん、システム管理部の方がお見えで……その、チーム全員に確認事項があるそうです」
「え……?」
慌てて入口の方に視線を向ける。
先程の外国人社員達……いや、さっきより多い人数でオフィスの前に立っていた。
異様な光景……。
一気に社員達がザワつき始める。
神崎は状況が読めないまま、ただその大きな瞳を泳がせていた。




