幕間 愛のフィードバックと4の字固め
本日は
ただのアホなお話。
読まなくてもていい。二人のアホな日常です。
が、もし良かったら読んで頂けたら幸いです☆
「あ、周さん!? どうしたの?」
自宅マンションのエレベーターが11階に着いた途端、足早に繋いだ手を引き、澪桜を連れていく。
玄関の扉が閉まると同時に周の気持ちが決壊した。
「ごめん。もう……限界」
「あま……っん」
澪桜の唇を優しく塞ぐ。
深く、より深く。
澪桜の手が強く周の服を掴む。
「……はぁ。ねぇ澪桜、このままベッドに行こう?」
「なっ!?何でだ!無理だよお風呂……入らなきゃ」
しどろもどろになって周から顔を逸らす。
澪桜の濡れた唇を優しく指でなぞり、呟いた。
「分かった。じゃあそうしよう。おいで?」
「えっ……ちょ、なんで周さんまで」
洗面所に連れていこうとする周に戸惑っていると、薄く微笑みながら彼が返す。
「何でって、もう前に一回お風呂一緒に入ったから良いでしょ?」
「それはそうだけど、ぬぁ」
「でも、今日はこないだみたいな空気には出来そうもないから……許してね」
「甘い!周さんがエロ甘いぃぃぃ」
ガララララ。
ジャーーーーー。
ジャグジーの音、シャワーの音に掻き消える甘くか細い声。
重なる低い囁き。
めくるめく甘い二人の夜がゆっくりと溶けていく――
***
日曜日。
10:30
柔らかな朝日がベッドルームを満たす。
微かに聞こえる、衣擦れの音。
スン。
空腹を刺激するような美味しそうな匂いが低血圧な澪桜を心地よく目覚めさせた。
(……? ……なんかすごい、いい匂い……)
寝惚け眼で薄目のまま、ベッドの横に置いてあるキャビネットに視線を向ける。
そこには周が用意した着替え一式が几帳面に畳んで置いてあった。
羽毛布団から腕だけのばし、目を瞑ったまま、上手に纏っていく。
「いでででででで」
ギシっと身体が軋む。
全身が筋肉痛で上手く動かない。
布団の中でモゾモゾと蠢いていると、周の明るい声が響いた。
「あ、澪桜おはよう。ゆっくり眠れた?」
ひょこっと顔だけ出して、キッチンの方にいる周へと視線を向ける。
「眠れたけど……全身がいだい……」
「あはは。それはゴメン、動かないでそこに居て? 朝食持っていくから」
「……いいよ。そっち行く。いででで」
「無理しちゃダメだよ。澪桜」
オロオロと心配する周に
カッ!!! っと虚ろだった目を見開き澪桜が声を張り上げた。
「そう思うなら手加減しろボケェ!!」
「んふ♡ それは無理♡」
反省など皆無。
練習となると理性など吹っ飛ぶ男、それが周。
澪桜は瀕死の状態でよろけながらやっとの思いでダイニングチェアに腰を落とした。
「いでで。所でこの良いにほひは何?」
「澪桜が前、テレビ見て食べたい食べたいって、ずーっと言ってたアレ。さあ出来た」
「私が……? なんの事だろう」
「いいからほら。座ってて?」
穏やかな声で澪桜を席に促す。
周は黒いエプロンを着こなし、ウェイターのように器用な手つきで盛り付けた皿を並べていった。
澪桜は目を見開いた。
「すごい! なんじゃこら!? 朝からオシャンティーだぁ!」
デリサラダに、ミネストローネ、そして
「我が女神、エッグベネディクトでございます」
「エッグベネディクト!! 凄いっなんと美しいんだ! お店のやーつ!」
「お褒めの言葉、恐悦至極に存じます」
美しく執事のように深い礼を決めた後、周はエプロンを外して、澪桜の飲み物を注いだ。
目の前のご馳走に、目を輝かせて感動を口にする。
「うわぁ……周さん、どんどん料理の腕が上達してる。もう私なんかよりよっぽど上手だねぇ」
「まだまだだよ。エッグベネディクトはリモート中の昼飯で毎日食ってたからそれなりだけど、ミネストローネなんかは澪桜の足元にも及ばないよ」
「え、なんで毎日?」
「そんなの決まってるでしょ? 澪桜に食べさせたかったから。どうせなら美味しい物食べて欲しいじゃない。ほら、温かいうちにどうぞ?」
「そんな、ずっとなんて……私の一言でごめん」
「なんで? 君に尽くせる事が俺の至福なのに。謝らないでもっと尽くさせて♡」
「あ、朝から甘い……」
「ただ愛してるだけですよ? 女神」
軽く冗談めいた口調で流す。
ゆっくり椅子に腰を落とし、目の前に座る澪桜に視線を向けて、幸せそうに微笑んだ。
澪桜は改めて背筋を伸ばし、手を合わせた。
「い、頂きます」
「はいどうぞ。お口に合いますように」
ナイフとフォークを器用に使い、温かいマフィンとベーコンを切る。トロリと絡むクリーミーなオレンジ色のソースを絡めて口に運んだ。
「!!!!」
周は澪桜の表情を見て、満足げに頷き、自分も食事を始めた。
「お、美味しい!! 周さんっめっちゃ美味しーい」
「ふふ。それは良かった。マフィンもソースもまだあるから足りなかったら言って?」
「うん! 作ってくれてありがとう! 美味しいご飯幸せ〜」
うまうまと小さな口いっぱいに頬張る澪桜を幸せそうに周は何時までも眺めていた。
***
14:20
まったりとした昼下がり。
ゆっくりと穏やかに時間が過ぎていく。
今日は何もしない日。
周の強い要望で予定を入れず今日はゆっくり過ごす事にした。
澪桜はリビングのラグの上に座り、洗濯物を畳んでいる。
周はクイックルワイパーを部屋中かけていた。
澪桜の背後から……視線を感じる。
嫌な予感がして振り返った。
周が薄くニヤついている。
何かのスイッチが入った事を察した澪桜は、呆れた顔でツッコむ。
「なんだ? キモいぞ」
「傷付くなぁ。とても、心外」
「言いたいことがあるならハッキリ言え! アホォ」
澪桜に辛辣な事を言われても、余裕の笑みを浮かべたままの周の口が軽やかに動いた。
「……昨日の夜も、ものすごい可愛かったなーって♡」
「!!! ブホォ!! ゴホッゴホッ!」
何かが喉に引っかかり澪桜が陸で溺れる。
周はそれでもなお、恍惚とした表情で愉悦に浸っていた。
こんな時は心配などしない薄情者。
むしろ楽しそうに妖艶な仕草で澪桜を翻弄する。クイックルワイパー持ったまま。
「澪桜はどうだった?」
「し、知らん!!! 何がだ!?」
「何がって……俺に言わせる?」
嫌な言い回し。
こうなると周は止まらない。
何故こうなるのか、どのタイミングでスイッチが入るのかも分からないから手に負えない。
澪桜はこのなんとも言えない空気に耐えきれなくなって、タオルを振り回した。
「う、うるさい!! さっさとクイックルをワイパーしろぉぉぉ」
「うん。既にしてる」
「ぬぉぉぉぉ! あっち行け!!」
「無理。あっちもう終わったもん! ……で? 昨日のご感想は?」
「聞くなボケェ!」
一瞬キョトンとして周は真面目な顔をした。
チッチッチと指を鳴らし、説き伏せるように人差し指を立てて言う。
「ダメだよ。ちゃんと澪桜の満足度を客観的に把握しつつ、都度、澪桜からのフィードバックを基に課題を抽出し、次回の練習の改善へ繋げてより技術を向上させ――」
「仕事ぉぉぉぉぉ!!!!」
思わず澪桜は仰け反った。
ニコニコと微笑みながら、クイックルをワイパーする周が近付いて来る。
いや、にじり寄って来る。
澪桜はタオルを畳んでは積み上げながら、頬を引き攣らせた。
「……で? 何でこっちに来る?」
「んふ♡ 澪桜、イチャイチャしよ〜♡」
「何でだボケェ!! あっち行けぇ」
タオルを持ったまま、ギシギシの体を動かし、必死に逃げる。
アホな周に追いかけ回され、周の腕を避けた瞬間。
嫌な音が響いた。
バサッ
「澪桜つーかまーえ……あ」
「あ」
振り返ると、せっかく畳んだ洗濯物が周によってぐちゃぐちゃにされていた。
ワナワナと震え、睨みつける澪桜の方に視線をむけて、周は取り繕った。
「……エヘ☆」
「己、許さん! そこに寝転べ!!」
「えぇ!? なんで!?」
「いいからさっさとやれぇ!!」
「はっはい!! 仰せのままに!」
そう言いながらも何故か従う周。
仰向けに寝転ぶ周の足元に澪桜が怒りの表情を浮かべたまま、ゆらりと移動する。
次の瞬間
澪桜の細く白い足が、周の膝下に絡まっていく。
「洗濯物の恨みを思い知れ! このポンコツがっ……天誅!!」
ミシリ。
嫌な音と共に足がホールドされた。
美しく決まる、4の字固め。
「ぎゃああああああああああああ!!! 痛いいいいい!! ごめんなさいいいいい」
「許さん! 最近調子に乗りすぎじゃぁボケェ!!」
「これガチで痛いっ! ギブ! ギブゥ!!!」
周のタップがいつまでも鳴り響いていた。
次話から
話が動き始めます。




